戦闘は激しさを増していく。 しかし、アークエンジェルと違い、ミネルバはブリッジが直接被弾しないように設計されているせいか、その空気を直接感じることはない。 それでも、キラには目の前の光景が辛いと感じてしまう。だからといって、目を背けるわけにはいかないのではないか。 そう思っていたときだ。 「……あれ……」 何やら、敵艦の動きがおかしい。 一隻の艦のまえを開けるように他の艦が動いているような気がするのは錯覚だろうか。もっとも、キラが見ているのはミネルバのモニターであるから、全体を見れば違うのかもしれないが。 「どうかしたの?」 キラの呟きを聞きつけたのだろう。タリアがこう問いかけてくる。 「気のせいかもしれませんが……あの艦、主砲を撃とうとしているように見えませんか?」 そして、その標的はディオキアの街ではないだろうか。 「メイリン!」 即座にタリアは彼女の部下の名前を呼ぶ。 「はい」 「シホを呼び出して! 空中からなら、確認できるわ。その後は、自分の判断で処理をして、と伝えて」 彼女であれば、大きな判断ミスはしないだろう。タリアはそう考えているらしい。もっとも、キラも同じ事だ。 「……居住区のこんな近くで主砲を撃つなんて……」 何を考えているのか……とタリアは呟く。 「デュランダル議長がいらっしゃることをご存じなのかもしれませんね……」 キラはかすかに眉を寄せながらこう言い返す。 「……申し訳ありません。端末を一つ、貸して頂けますか?」 その表情のまま、キラはこう問いかける。 「キラさん?」 何をする気なのか、とタリアが視線を向けてきた。 「地球軍のシステムにウィルスを流します。少しは混乱してくれるでしょうから」 民間人を巻き込もうとしたことは許せない。その思いのまま、キラはこう告げる。 「……そんなこと、できるの?」 「前に一度やったことがありますし……あちらには、今、カオスをはじめとした三機がありますから」 あれのシステムの奥に、あるプログラミングを隠しておいたのだ。もちろん、それはデュランダルからの依頼でもある。 それが、地球軍に見つかったとは思えない。 「……使わないですめば良かったのですけどね……」 キラはため息とともにこう呟く。 「わかったわ……それに関しては、お任せします」 キラの手を煩わせるのは不本意だけれども、とタリアはため息をついた。 「いえ……これ以上、無駄な血を流したくありませんから」 キラはこう言いながらまっすぐに前を見つめる。 「それに……このくらいなら、今の私でもできることです」 いや、自分以外にできない。だから、やらなければいけないのだ……とキラは心の中で呟いていた。 叩いても叩いても、次から次と敵が現れる。 「……なんでだよ!」 今までは、そんな敵をたたけば気分が高揚してきた。 こいつらの仲間が、自分から家族を奪ったのだ。 だから、その仇を討っている。そう考えることが、シンにとっても慰めになっていたのだ。 しかし、今は違う。 「何で、こいつら……」 こうもあっさりと命を無駄にできるのか。そう思えてならない。 いや、連中にしてもそんなつもりは全くないのだろう。 自分たちが勝つ、と信じているからこそ、こうして攻撃を加えているのだ。あるいは、命令だから……というのもあるかもしれない。 しかし、そんなことはどうでもいい、とシンは思う。 そんなのは、連中の勝手だから、と。 「ったく……」 どうして、自分はこんなにもむなしいことをしなければいけないのか。 そして、何故、自分はそんなことを考えるようになったのか。 その答えを探すべきなのかどうかと言うことすらわからない。 「むしゃくしゃするな!」 こう言いながら、取りあえず近くに迫ってきていたウィンダムを撃墜する。 そんな彼の視界の隅を何かがかすめた。 「……何だ?」 反射的に確認をすれば、オーブから出航したときに自分たちを襲ってきたあのMAが確認できた。 「厄介な奴が……」 あれに掴まれば、この状況ではまずいなんて言うものではないだろう。 それに、とシンは眉を寄せた。 この状況で自分が掴まれば、それだけミネルバの守りが手薄になる。 あそこには、守るべき対象がいるのに……とシンはそう思うのだ。 「……あれを破壊するには……コクピットをねらうしかなかったんだよな」 そのためには前に出なければいけない。しかし、それは同時に相手に掴まる可能性が高いと言うことでもある。 「余計なことなんて、考えている場合じゃないな」 今の自分がすべき事は、地球軍を撃破とまではいかなくても、撤退させることだ。もちろん、自分一人でできるとは思えない。だが、その一部を担うことはできるはず。 「もう……大切なものをお前らに奪われるのはごめんなんだよ!」 だから、とシンはインパルスを移動させる。 『シン! 無理をするな!』 「わかっている!」 自分を心配してくれる仲間の声が嬉しい。そんなことを感じながら、シンは照準をロックした。 |