「……妙だな……」 ザフト軍の動きを観察していたネオがこう呟く。 「大佐?」 「目標の重要性を考えれば、あいつらはアークエンジェルを守るはずなんだが……」 艦隊だけではなくMSの動きを見ればそうではない。 もちろん、それが陽動だ、という可能性もあるだろう。しかし、そのためにあの三機があんな動きをするだろうか。 「……気づかれたか?」 だから、目標を他の場所に移したのか……とネオは眉を寄せる。だとすれば本当に厄介だな、とも。 「どうします、大佐」 艦長がこう問いかけてくる。 「どうするもこうするも、今更作戦を中止するわけにはいかないだろう……そうだな。あの三機の動きに気を付けてくれ。おそらく、目標が乗っている艦が攻撃を受ければ、無条件で防御に回るはずだ」 それからでも大丈夫だろう……とネオは思う。 「連中にも連絡。許可が出るまで、勝手に艦を撃破するな、とな」 動きを止めるくらいはかまわないが……と続ける。 「撃破するなら、相手に逃げる時間を与えるように計算しろ、ともな」 その方があるいは目標を見つけやすいかもしれない。こうも付け加えた。 「わかりました。海中の者達に打電!」 「はっ!」 即座にブリッジの者達が動き出す。それに満足そうに微笑むと、ネオは視線を戦場の空へと戻した。 次の瞬間、彼を包む空気が険しくなる。 「……ストライク……」 目の前をトリコロールカラーの機体が駆け抜けていく。 「お前だけは……」 決して許さない……と付け加えようとした言葉をネオは飲み込む。今は、自分自身の憎しみを前面に出す場面ではないのだ。 「取りあえず、邪魔なもMSをたたけ!」 その後は、艦の主砲をつぶせ、とネオは指示を出す。その仮面の下で、ネオは抑えきれない感情と戦っていた。 「議長! 地下のシェルターに移動してください!」 そんな声が耳に届く。 「わかっているよ。だが、そちらでも状況が判断できるようにしていてくれないかね?」 ジブラルタルはもちろん、他の場所からの増援が間に合うようであれば、指示を出したい。そして、最悪の時には自分の身柄で兵士達の命を救わなければならないだろう。 そう考えての言葉だ。 「わかっております」 固い声で言葉が返ってくる。 「何。ザフトの皆は優秀だからね。そのようなことにはならないと信じているよ」 微笑みを浮かべながらこう言うとデュランダルは歩き出そうとした。しかし、その動きはすぐに止まる。 「アスランにニコル。どうかしたのかね?」 本来であれば一緒に宇宙に帰っていたはずの二人の姿を見かけて、彼はこう問いかけた。 「予備の機体を貸して頂ければ、とそう思いまして、議長に許可をいただきに参りました」 自分たちも出撃をする、と言外にアスランは告げてくる。 「アスラン?」 「我々はパイロットです。この状況で指をくわえてみているのは不本意です」 その言葉の裏に『キラを守りたいから』という意味が見え隠れしているのはデュランダルの錯覚ではないだろう。 「さて……どうしたものかね」 目的は何であれ、彼はこの戦いに多大な貢献をしてくれるだろう。 しかし、その後、彼が何をしでかすか。それが問題だ。そう考えれば、すぐには頷けない。 「議長」 どうするのか、と問いかけられる。 「わかった。グフならまだパイロットが決まっていない機体があったね?」 先日搬入されたばかりのそれであれば、とデュランダルは聞き返す。 「はい」 今は、ここを守りきるのが優先だ。そう判断してデュランダルは二人に期待を回すように指示をする。 「では、我々は格納庫の方に」 二人は頭を下げると、そのまま部屋を出て行く。 「そう言えば、ザラ夫人はどうなされた?」 その後ろ姿を見送りながらデュランダルはそう問いかける。 「ラクス様でしたら、既にシェルターに」 「そうか」 それならば、シェルターで相談をすることができるな。デュランダルは心の中でこう呟いた。 「では、案内を頼む」 彼がこう言えば、兵士は即座に頷く。そして、デュランダルの前に立って歩き始めた。 そのころ、カガリはセイランを除いた首長家の首長達を集めていた。 「これを見ていただきたい」 こう言いながら、カガリはモニターにあるデーターを映し出す。その多くは、ある意味非合法な手段で手に入れたものだ。しかし、その内容に誰もそのことを指摘できないらしい。 「……これは本当なのかね、カガリ」 真っ先に口を開いたのはサハクのミナだった。 「残念ながら。必要であれば、本物のデーターがセイランにある」 ただ、ばれないように自分は持ってきただけだ……とカガリは口にする。そのために、モルゲンレーテの技術者達の力は借りたが……と。 「だとするならば……見過ごしてはおけんな」 こう言ったのはホムラだ。 「確かに。セイランが大西洋連合と結びついていたのは知っていたが……さすがにこれは見過ごせん」 自国の民を、まるで道具か何かのように相手に渡しているとは……と別のものが口にする。 「しかし、本当にセイランが?」 「……少なくとも、コーディネイターをナチュラルいかの存在だと思っているらしいことは事実だ」 先日の会見の際、ユウナがそのようなことをいっていた……と言いながら、カガリはその時に録音した会話のデーターを指し示す。 「ご希望なら聞かれても、かまわない」 プライベートな内容も含まれているが……とカガリは付け加える。 「……いや、このデーターだけで十分だ」 「しかし、これが明るみに出れば……」 「オーブの理念と大きく逸脱しているからな」 これ以上、セイランの行動を見逃してはいられない。 それではどうすればいいのか。 話し合いは遅くまで続けられていた。 |