次々とMSが発進していく。その光景をアスランは忌々しそうに見つめていた。
「あと一息だったのにな」
 どうせなら、あいつが来る前に襲撃をしてくれればいいものを……と彼は心の中で呟く。そのタイミングであれば、誰も気づかなかったのではないか。そう思うのだ。
「アスラン」
 忌々しそうに目の前の光景を見つめていた彼の耳にニコルの声が届いた。
「どこに行っていたのですか? 探していたのですよ」
 その声の裏側に怒りが滲んでいるな、と思うのはアスランの気のせいではないだろう。
「ミネルバを近くで見たかったんだよ」
 本来であれば出港式で見られるはずだったのだがな……と口にすれば、ニコルの視線がさらにきつくなる。
「議長から自室で待機をするように言われていたではないですか!」
 探したのだ、と彼は付け加えた。
「それは悪かったな」
 取りあえず謝罪の言葉を口にする。
「口先だけの謝罪はいりませんよ」
 それに、ニコルはきっぱりと言い返してきた。
「第一、見に行きたかったのはミネルバではなくアークエンジェルだったそうじゃないですか!」
 さらに続けられた言葉から、彼が事実を知っていたのだと理解をする。と言うことは、キラかあの《シン》とか言う奴が連絡を入れてきた……と言うことか。
「これで、キラさんに万が一のことがあったら、どうするつもりだったんですか!」
 ニコルはこう追及してくる。
「万が一のことなんてないな。少なくとも、俺が側にいるなら」
 そんな彼に対し、アスランはかすかな嗤いともにこう言い返す。
「俺が側にいて、キラを守れないなんて状況になるわけないだろう?」
 キラはもちろん、自分に何かあっても望みは叶わないのだ。何よりも、自分がキラを守れないほど弱い人間ではない、とアスランは口にした。
「……貴方って人は……」
 あきれているのか。あるいは怒っているのかもしれない。ニコルの声が震えている。
「相変わらず、キラさんに無理強いをしているわけですか」
 三年近く経っても、まだその気持ちは消えないのか……とニコルは問いかけてきた。
「当たり前だろう?」
 自分にとって、キラだけが唯一の存在なのだ。
 彼女だけが、あの楽園の記憶を共有できる存在。
 そんな彼女を、どうして自分が諦めなければいけないのか。
「キラ以外に欲しい存在はない。いつもそう言っているだろう?」
 ふわりとアスランは微笑む。
「俺の絶対はキラだ。だから、俺だけの存在にしたい……それがいけないことなのか?」
 脇から出てきて、キラをさらっていったのはイザークの方だ……とアスランは続ける。そんな彼を、ニコルが複雑な表情で見つめていた。

 地球軍のMSの中に見覚えがある機体がある。
「……カオス……」
 あれがいると言うことは、アビスやガイアも側にいると言うことか……とシホは眉を寄せる。
「ガイアはまだそれほど驚異ではないだろうが……」
 問題はアビスの方だ。
 自分が持っているデーターが真実であれば、あれは海中戦を想定して作られた機体だったはず。そう考えれば、いつどこからねらわれるかわからないのだ。
「キラさんがここにいらっしゃる以上、ミネルバを沈めるわけにはいかないしな」
 そんなことになれば、自分を信頼して任せてくれたイザーク達を裏切ることになる。
 だからといって、キラを守ることだけに集中するわけにもいかないのだ。ここにはまだ、デュランダルやラクスと言った守らなければならない人たちがいる。彼等もまた守らなければいけない。
 その配分が難しいな……と思う。
『そんなに焦るなって』
 不意にシホの耳にハイネの声が飛んでくる。
「何か。ヴィステンフルス先輩」
『ハイネでいいといっただろう?』
 シホの言葉にハイネがこう言い返してきた。
『それに、ここにいるのは君達だけじゃないんだぞ』
 違うのか? と彼は付け加える。
 確かに、ここにはバルトフェルド達もいる。だからオーブからここに移動してくるまでよりは気が楽だと言っていい。
 それでも、相手が相手であるが故に安心はできないのだ。
「わかっていますが……」
『君がそんなじゃ、部下達も判断ミスをするかもしれないぞ』
 ハイネはさらに言葉を重ねてくる。
『周囲を信じてやれって。ミネルバにはちゃんと護衛のMSがいるのだろう?』
 この言葉に、シホは自分の思い上がりを指摘されたような気がした。
 確かに、彼等は自分たちよりも経験という面では劣る。しかし、誰かを《守りたい》と思う気持ちには代わりがないはずだ。
 何よりも、ここにはバルトフェルドもフラガも、そしてあの三人もいる。
「そうですね」
 なら、自分がミスをしても彼等がフォローしてくれるだろう。シホはそう思い直す。
「ただ、アビスの姿を確認できない、というのが不安だっただけです」
 こう言えば、
『まぁ、そうだな。だが、グーンもいる。すぐに居場所だけは確認できるだろうよ』
 後のことは、それからだ。
 この言葉に、シホは静かに頷く。
『うちの連中にも、できる限りフォローをするようにいってある。後は……あの坊やが我を忘れて突出しないことを祈るだけだな』
 それに関して、シホが何とかしてくれ。ハイネはこう言ってくる。
「もちろんです」
 彼女がこう言い返した瞬間だ。
 敵艦からミサイルが発射される。
 それが戦闘開始の合図だった。