アークエンジェル内もいきなり鳴り響いた警報に慌ただしい雰囲気に包まれている。 その中で、フレイはキラの姿を探していた。 「フレイ! 部屋に戻っていなさい」 不意にバルトフェルドがこう声をかけてくる。 「でも、キラがいないの!」 即座にフレイはこう言い返す。 「あの子を探さないと……」 こう言いながら、フレイはバルトフェルドから離れようとした。しかし、そんな彼女をバルトフェルドが引き留める。 「キラなら心配はいらない」 「お義父さん?」 いったいどういうことなのか、とフレイは彼を見上げた。 「あの子は今、ミネルバにいるからね」 さらりとバルトフェルドはとんでもないセリフを口にしてくれる。 「ミネルバ?」 確かに、キラはあの《シン・アスカ》に忘れ物を届けに行くとは言っていた。しかし、ミネルバまで追いかけていくはずがない。それなのにどうして、とフレイは困惑をする。 「あれ、が出たのだそうだよ」 まるで害虫が出た、と言うような口調で彼はこう言ってきた。 「あれ、ですか?」 確かにあれは害虫だわ……とフレイは心の中で呟く。いや、ひょっとしたら害虫の方がまだ可愛いかもしれない。人間にとって《害》にはなっても、彼等は彼等で生きるために必死なのだから。 だが、あれは自分の殻の中にいるもの以外は認めない。 そして、自分の大切なものをその殻の中に引きずり込もうとしている。それも、自分自身が勝手に描いている姿のために、だ。 そんなこと、許せるはずがないのに、と。 「そう、あれだ。まさか、近くまでふらふらとやってくるとは思ってもみなかったよ」 見つかったらただではすまないことぐらいわかっているはずなのにね、とバルトフェルドもどう猛な笑みを浮かべる。 「で、危なく拉致されそうになったところを、シン・アスカに助けられたのだそうだ」 そのままこちらに連れてこようとしたタイミングで警報が鳴り、ミネルバへと移動しないわけにはいかなくなった。そう言うことらしい。 「まぁ、あの艦の中ならアスランも手出しできないだろうからね。今は安心だろう」 バルトフェルドはこう告げる。 戦闘に《絶対》と言うことはあり得ない。 だが、少なくともあの艦のクルーはキラのことを知っている。だから、そう言った面では大丈夫だろう。そう信じることにした。 「わかりました」 自分が騒いでもどうにもならない、と言うこともフレイには理解できる。だから、素直にこう口にした。 「いいこだ。議長にも連絡は行っているはずだからね。それなりの対処をとってくださるだろう」 それに、と彼は笑みを柔らかなものに変えて言葉を続ける。 「こういうことだからね。キラが帰ってきても怒らないようにね」 悪いのはキラではないのだから、と言う彼に、フレイはしっかりと頷き返す。 「わかっています。今回は、あの男が悪いんですものね」 だから、仕返しはアスランにするわ……というフレイの言葉に、バルトフェルドは爆笑をしてくれる。 「楽しみにしているよ」 こう言うと彼はフレイの肩を叩く。そのまま離れていく彼の背中を確認してから、フレイは居住区へと向けて歩き出した。 そのころキラはミネルバのブリッジにいた。 「すみません……」 アークエンジェルへの通信を終えて、キラはタリアに向かって謝罪の言葉を口にする。 「気にしないで。非常事態だったようだもの。議長もそうおっしゃっていたわ」 そんなキラに向けて、彼女はふわりと微笑んだ。 「本当は、議長と一緒の方がいいのでしょうけど……そこまでの時間はないの。だから、悪いけど、ここにいてくれるかしら?」 今から居住区に移動をするよりもブリッジにいてもらった方が安心できるから。タリアはこう告げる。 「ですが……」 「かまわないわよ。戦場を経験している貴方なら、決してこちらの邪魔はしないでしょう?」 むしろ、気が付いた時にアドバイスをしてもらえればありがたい、と彼女は口にした。 「ですが」 「少なくとも、貴方であれば冷静に状況を確認できるでしょう?」 言葉とともに、タリアは意味ありげに視線をアーサーへと向ける。その瞬間、彼が苦笑を浮かべたのがわかった。 「……私でお役に立てるのでしたら……」 こう口にはするものの、そんなことにならない方がいいのだが……とキラは心の中で付け加える。 「えぇ。お願いね」 それよりも座って……といいながら、タリアは後部にある補助シートを指さす。それに頷くと、キラは慎重に移動を開始した。 「気を付けてくださいね」 アーサーが不安そうにこう声をかけてくる。 「そう思うなら、エスコートぐらいするものよ」 実行を伴わない言葉だけの相手を女性は選ばないわよ……とからかうように彼女は付け加えた。その瞬間ブリッジ内に苦笑が広がっていく。 「……艦長ぉ……」 それはないでしょう、と彼はため息をついた。 「本当のことだわ。そうでしょう?」 タリアに確認を求められて、キラは反射的に頷いてしまう。 「キラさんまで……」 ショックを隠せないというそぶりで、彼はうつむく。それがまたブリッジクルー達の失笑を誘ったようだ。 戦闘直前でもこのような雰囲気を作れるのであれば大丈夫だろう。 アークエンジェルもレセップスもそうだったから。 そんなことを考えながら、キラはシートに腰を下ろす。 「シートベルトはしなくてもいいわ。その代わり、しっかりと掴まっていてね」 その瞬間、タリアがこう声をかけてくる。 「わかっています」 そんな彼女に向けて、キラはふわりと微笑み返した。 |