少しでも居心地がいいように、と考えられているのか。 あるいは、艦内の喧噪から遠ざけようとしているのかもしれない。 自分たちがキラとともに落ち着いたのは、展望室だった。 「……これ、わざわざ運んできたのですか?」 どう見ても、戦艦に備え付けられているとは思えない応接セットに、ルナマリアが目を丸くしている。 「多分、そうだと思う。私が来たときにはもう、こうなっていたから」 本当に、みんな過保護だよね……とキラが苦笑混じりに言葉を返してきた。 「あんたには、過保護なくらいでいいの!」 いつものようにキラの側にいたフレイが即座にこう言い返す。 「……フレイ……」 「でないと、何をしでかすかわからないってみんなが思っているだけよ」 あんたも否定できないでしょう、それは……という言葉に、キラがさりげなく視線を彷徨わせている。 「キラさん。フレイさんも相変わらずですね」 キラがこれ以上爆発する前に、レイは口を開く。 「変わるわけないでしょう。もう、十七年もこのままよ、あたしは。キラにいたってはさらにプラス一年だし」 そう長くはないが、だからといって短くもない。 その間、ずっとこの性格だったのだし……とフレイは微笑む。 「まぁ……それでも、あの人達に比べればまだ可愛いものかもしれないけど」 その表情のままフレイは顔を入り口の方へと向ける。つられたように視線を移動させれば、数名が慌てて顔を隠したのがわかった。 「お義父さんにフラガさんに、オルガ達かな?」 「多分ね。どうする?」 「どうって……オルガ達なら害はないと思うけど……レイ君達がどう思うかの方が重要でしょう?」 彼等が一緒で気分を害さないか……とキラは小首をかしげる。 「言われてみればそうよね。お招きしたのはあたし達の方だものね」 あれを見ていれば、キラが『過保護だ』という気持ちもわかるわ……とフレイは頷く。 「あらあら! 何をしているのヨ、アナタ達は」 そして、そう考えていたのは二人だけではないらしい。 入り口の方から華やかなといえる声が響いてきた。 「気になるならお入りになればよろしいでしょう?」 そして、もう一つの声も。 「……アイシャさんとマリューさんだね」 そういう自分たちも五十歩百歩じゃないか……とキラがため息をつく。それでも嫌そうでないのは、女性陣の方が安心できると思っているからなのだろうか。 「いいワ。ほら、アナタ達! 運ぶのを手伝って!」 それが終わったら、少し離れた場所にいなさい! とアイシャが指示を出している声が室内に響いてくる。それに、キラ達だけではなくルナマリアも苦笑を浮かべていた。 この雰囲気は悪いものではない。 だが、とレイは心の中で呟く。 シンの態度が気にかかる。彼は、この場に来てからまだ一言も口を開いていないのだ。 その代わりに、彼の視線はまっすぐにキラへと向けられている。 日の光に透けてさらに赤さを増した瞳の奥にきらめいている感情がなんなのか。 キラを傷つけるものでなければいいが……とレイは心の中で呟いていた。 艦内は喧噪に包まれている。 「いいな? アークエンジェルは決して撃沈するな。他の艦はかまわないがな」 デュランダルの命を取れればなおいいが……とネオは付け加えた。 「ただし、攻撃開始時まで向こうに気づかれるなよ」 それでは意味がないからな……という言葉に、周囲の者達は頷いてみせる。 「ですが、大佐」 「わかっている。敵の探知範囲内ぎりぎりから一息に加速する。同時に、MS・MAを発進させれば、あちらも混乱するはずだ」 その隙を逃さずに攻撃をすればいい、とネオは付け加えた。 ザフトがこちらの接近に気づかなければ成功をする、とさらに言葉を重ねれば納得をしたようだ。 「いいな? この作戦の成否は連中に気づかれずにどこまで進めるかにかかっている。だから、細心の注意をしろ」 彼の指示に、部下達の動きが変わった。 いい加減、ミネルバに戻らなければいけない時間になった。そう考えて、アークエンジェルの外に止めていた車へと彼等が移動をしていたときだ。 「シン、どうしたんだ?」 不意にシンが足を止めれば、レイがこう問いかけてくる。 「今、何か動いたような気がしたんだが……」 気のせいだったか……と彼は眉を寄せた。 「誰もいないでしょう?」 ルナマリアがこう言い返している。 「それよりも、戻らないと艦長に怒られるんじゃないの?」 さすがに、と彼女は付け加えた。 「そんなことはないと思うが……やはり、ここにいつまでいるわけにはいかないからな」 レイもまた、そんな彼女に同意を見せている。 確かに、自分の気のせいかもしれない。それでも、どうしても気になってしまうのだ。 だから確認したい。 しかし、どうすればいいのか……と思ったときだ。 「……あっ……」 シンはあることに気づいて、あちらこちらを確認し始める。 「どうしたの、シン」 「忘れ物! 悪い、ちょっと待っててくれ」 こう言い残すとシンはきびすを返す。 「ちょっと、シン!」 ルナマリアの声が追いかけてくるが、気にせずにそのままアークエンジェルの側まで駆け戻った。そうすれば、開け放たれたままのハッチが見える。 「……さっき、しまってたよな……」 シンがこう呟いたときだ。 「アスラン! やめて!!」 彼の耳にキラの叫びが届いた。 |