「……何で、アークエンジェルなんだよ」 シンはこう言って唇をとがらせる。 「あら、いいじゃない。あちらにはキラさんも今、いらっしゃるんでしょう?」 そんな彼をからかうようにルナマリアがこう言い返してきた。 「それに、前の大戦を生き残った人たちの話を聞ける機会というのは重要だわ」 違う、と彼女は聞き返してくる。 「相手がナチュラルでも……いえ、それだかこそ重要だわ」 自分たちとは違った観点で世界を見ているはずだから……と言われてしまえば、シンに反論のしようがない。 「それに、あの人達と話をすれば、余計な偏見はかき消されるだろうな」 不意にレイが口を挟んでくる。 「レイ?」 「あの人達にしてみれば、人種はまったく関係ないらしい。大切なのは、その個人が持っている人間性、だそうだ」 そう言う点では、あの隊は理想の形なのだろうな……と彼は付け加えた。 「だから、アークエンジェルはあのままあそこにいるのかしら」 普通であれば、投降してきた者達はバラバラにされるのが普通なのに……とルナマリアが呟く。 「そうかもしれないな」 他の誰の元に置いても、ある意味扱いにくいのだろう。 ザフトが協力的なナチュラルをないがしろにしないという生きた証拠なのだ、彼等は。しかも、データーから判断しても、有能すぎることはわかる。それだからこそ、アカデミーを出たばかりのコーディネイターにしてみれば目の上のたんこぶかもしれない。 自分だって、連中から指示をされたら素直に聞くことができるだろうか。 そう考えれば、すぐに『難しい』という結論を出せる。 しかし、バルトフェルド隊では違うのだろう。 それも彼女がいたからなのだろうか。 レイなら答えを知っているかもしれないが、この場にルナマリアがいる以上、問いかけるわけにはいかない。 まぁ、彼等の様子を見ていればわかることだ。 すぐにそう思い直すと、シンは視線をアークエンジェルへと向ける。 「あれって、キラさんだよな?」 甲板の上に人影を見かけて、シンはこう口にした。それにルナマリアが目を細めて確認しようというそぶりを見せる。 「確かに、キラさんだわ……大丈夫なのかしら」 何が、とは言わない。きっと同じ事を考えているに決まっているのだ。 「大丈夫だろう。もう一人、そばに人影がある」 ちゃんとキラのことを見ている人間がいる、とレイが口にする。 「バルトフェルド隊では、いつもそうだったそうだからな」 そのころのキラは、いつ倒れてもおかしくはない状況だったそうだから、仕方がないのだろうが……と彼は付け加えた。 「詳しいわね」 「……そのころ、丁度クルーゼ隊があちらと合同任務をしていたそうだからな。ラウ――クルーゼ隊長からお聞きしたんだ」 自分の親戚だし、彼は……とルナマリアの言葉に説明を返している。 その時だ。 自分たちにキラが気づいたらしい。手を振っているのがわかった。 「ルナ」 しかし、レイの言葉に気を取られているルナマリアは気づいていないようだし、レイは今、手を放すことができない。 だからといって、自分が振りかえすのは何だしな……と思いながらシンは声をかける。 「何?」 「キラさん、手を振ってるぞ」 振り返せば、と付け加えたところでルナマリアはその事実に気づいたらしい。即座に手を振り始めた。 「気づいてたのなら、シンが振り返せば良かったじゃない」 それでも、こう言ってくる。 「俺がやるより、ルナの方がいいと思ったんだよ」 自分がにこやかに手を振るよりも、とシンは言い返す。 「……確かに、そうね……」 ルナマリは少し考えた後にこう口にした。自分でもそう思っているのだが、他人に指摘されると少しむっとなってしまう。 「あんたがにこやかに手を振り替えしていたら、頭でも打ったのか、それとも熱があるのかと考えちゃうもの」 もっとも、キラなら気にしないかもしれないが。 この言葉が救いになるのかならないのか、わからないシンだった。 「……やはり、アークエンジェルにいたのか」 少し離れた場所から周囲の様子を見つめていたアスランがこう呟く。 「確かに厄介な場所だが……そのくらいで俺が諦めると思っているのか?」 キラに会う、という一番の願いを……と口にしながら、手近な場所に腰を下ろす。 「問題は、時間だがな」 そして、アークエンジェルのクルーをはじめとしたバルトフェルド隊の結束の硬さ、だろうか。 しかも、今はデュランダルのお墨付きを得ているらしい。 そんな連中の目をかいくぐって、明朝までにキラに会いに行くにはどうしたらいいだろうか。 「どうせ、あいつあたりが一緒にいるんだろうな」 気に入らないが、それでもそれで《キラ》が安心できているなら仕方がない。最近はその程度の妥協はできるようになっていた。 しかし、だ。 それも、キラの側に行ければ……の話ではある。 「まぁ、いい。考える程度の時間はまだあるからな」 今はキラの姿でも眺めていよう。そう考えると、アスランはまた視線を戻した。 同じように離れた場所からキラの姿を見ているものがいた。 「ネ〜オ?」 何か、面白いものでもあった? とアウルが問いかけてくる。 「面白いというのとは違うな。もっとも、お前らにはそうではないかもしれないが」 言葉とともにネオは笑う。 「戻るぞ。今なら、どこに目標がいるかわかっているからな」 それさえ傷つけなければどこを攻撃してもかまわない、と言うことだ。それならば、彼等だけではなく地球軍の艦船も使えるだろう。 「どうせ、ここは壊せと言われていることだしな」 ザフトに協力する者達がどのような末路をたどるのか、その見せしめに……とそう言っていた。 別段、それに対して感慨があるわけではない。 そんなものを抱いていても意味がないのだ。 「守ろうとしていたものを奪われたとき、お前らはどのような表情をするのだろうな」 それを考えるときが一番楽しいな。こう呟いたネオの声にアウルは何の反応も返してこない。そして、ネオ自身もそれを望んではいなかった。 |