クルーゼの言葉に、デュランダルもまたため息をつくしかできない。 「まさか、そこまでするとは、ね」 キラがイザークの子を宿しているという事実も、彼には関係のないことだったのか。それとも、だからこそ余計に焦っているのか。 『彼女がねらわれている……とわかれば、それこそ何をしでかすか予測もできないぞ』 「もちろん、わかっているよ」 クルーゼの言葉はデュランダルの懸念でもある。 「だから、ザラ夫人にこの場に留まって頂いている」 自分では目が届かないことも彼女であれば気が付くだろう、と付け加えた。 『そうであればいいのだが……』 相手が相手だけに、今ひとつ信頼できないな……とクルーゼは呟いている。 そこまで警戒しないでも……と一瞬考えなくもない。だが、今回の一件を考えれば要注意だとしか言いようがない、というのも事実だ。 「バルトフェルド隊が彼女の部屋の周囲を固めている。だから、うかつには侵入できないとは思うがね」 それに、自分の部屋は彼女の部屋の真上だ。何かあれば気づくだろう、とも。 「……そうだね。念のために、テラスには警報装置を追加しておこう」 大げさにすれば、キラが気に病むだろうから……とデュランダルは思う。 『そうしてくれ。ただでさえ、厄介な存在が顔を出してきたようだしな』 彼が何を心配しているのか、デュランダルにもわかっている。 「今回の黒幕が誰なのか……私も知りたいと思うよ」 そもそも、あの男が今までどこにいたのかを知らなければいけない。そんな気がしている。 もちろん、既に調査は開始させてはいるが。 『……連絡が取れるなら……ウズミ殿にも相談しておきたいところだな』 あるいは、今度の一件の裏に、あの国の誰かがいるのかもしれない。クルーゼはそう言いたいのだろう。 「そうだな。もっとも、表だっては難しいが……」 それでもつてがないわけではない。 特に彼女たちであれば可能ではないか。 「フレイ嬢にがんばってもらおう」 彼女であれば、さりげなくオーブにいる友人に連絡を取れるだろう。そして、そこからオーブの姫に連絡が行く可能性が高い。 もちろん、中を確認されるだろうが、それは偽装プログラムでごまかせるのではないか。そう思う。 『その場合、無条件で彼女も巻き込むことになりそうだな』 そのようなプログラムを即座に組み立てられる人間、と言えばキラだけだろう、という言葉は事実だ。 「残念だがね」 頼むにしても、体調を崩さないよう監視が必要だろうが。 だが、逆に言えば《監視》という名目で護衛を増やすことが可能ではないか。そうも思う。 「ともかく、こちらは任せてもらっていい」 キラの身柄の安全だけは……とデュランダルは口にした。 「ただ、当分の間、こちらにいることになりそうだがね」 『それこそ、心配はいらない。こちらは何の不具合もないしね』 だから、まずは地球でなすべきことをしろ、と彼は言い返してくる。 「わかっているよ」 そんな彼に向かってデュランダルは微笑みを返していた。 久々に時間ができた。だから、キラの顔を見に行こう。 そんなことを考えて、フラガがアークエンジェル降りた瞬間だ。 「……あんたに聞きたいことがある」 こう声をかけてきたものがいた。 その声がした方向へと視線を向ければ、自分をにらみ付けている真紅の双眸とぶつかった。 彼の容貌はフラガの記憶の中にもある。それも、余りよいとは言えない印象とともに、だ。 「シン……アスカ、だったか」 いったい自分に何を聞こうとしているのか。そう思いながら、フラガは聞き返す。 「キラさんのことで」 フラガの問いかけには直接言葉を返すことなく、シンはこう口にしてきた。その言葉に、フラガは眉を寄せる。 「悪いが、俺に答えられることはほとんどないぞ」 というよりも、答えるつもりはないがな……とフラガは心の中で呟く。 「それでも、かまいません……そうしたら、他の人に聞きに行くだけですから……」 だが、シンの方はどうしてもそれを聞きたいらしい。 他の連中に特攻してそれがキラの耳にはいるのと、自分が答えてその事実を彼女に伝えないのとどちらがいいのだろうか。 考えなくても答えは出る。 「……こっちに来い。あまり、人に見られねぇ方がいいだろう」 特にアイシャとあの三人には……といいながら、フラガは歩き出す。その後を、シンがおとなしく付いてきた。 「で?」 何が聞きたいんだ、とフラガは口にする。 「あの人は……どうして、イザーク・ジュールを許せたのか」 いくら考えても、それがわからない。そして、それがわかれば、自分の怒りの矛先も少しは変わるのではないか。ぼそぼそとした口調でシンはこう言ってくる。 どうやら、彼には彼なりの悩みがあるらしい。 あちらこちらから聞いた言葉を総合すれば、彼の家族はブルーコスモスと結託をした地球軍に殺されたのだとか。そして、その原因を作ったのがオーブだとも聞いていた。 考えてみれば、キラは――よい意味でも悪い意味でも、だ――そのうちの全てに関わっていると言っていい。そのせいで、目の前のオコサマは自分がどうすればいいのか混乱し始めた、と言うことだろう。 「……一番の原因は、あいつがキラに対してはどんなときでも誠実であろう……としたからだろうな」 彼女の存在を認め、受け入れる。もちろん、自分の罪もだ。 あの年齢であそこまでできたというのは本当に見事だと思う。それもまた、キラという存在があったからかもしれないが。 「キラ自身、自分に厳しいくせに周囲には優しい。そんな奴が、あんなに親身になってくれた相手をいつまでも憎んでいられるわけがない」 だから、とフラガは付け加える。 「坊主がキラにしたことを、本当に悪かった……と思っているなら、ちゃんと言うんだな。それだけで許してくれるとは思うぞ」 もっとも、そこにたどり着くまでが大変なのだろうが、と彼は今、キラの周囲にいる面々の顔を思い浮かべて考えた。 「……俺は……」 うっすらと頬を染めていることに本人は気づいているだろうか。そう言うところがオコサマなんだよな……と内心笑いを漏らしながら、フラガはさりげない仕草で視線を彼からそらす。見られていたことに気づいたら、本人が困るだろうと思ったのだ。 しかし、その結果とんでもないものを見つけることになる。 「……何で、あいつがここにいるんだ?」 デュランダルが呼び寄せたのか。 それにしては、様子がおかしい……と思う。 「どうか、したのか?」 不意にシンがこう問いかけてくる。 「ちょっとまずい奴の姿を見つけただけだ」 ある意味、地球軍の方がまだましかもしれない。こういうフラガに、シンは訳がわからないという表情を作っていた。 |