地球軍の軍艦に乗り込んだ、ただ一人のコーディネイター。 自分たちが生き延びるために、彼等はキラに同胞を殺すための手助けをさせたのか……とシンは呟く。 「……って、待てよ……」 なら、どうしてキラ達は助かったのか。 そして、いつ、キラはバルトフェルドと接触を持ったというのか。 何よりも、確かあのころ、アークエンジェルを追いかけていたのは《クルーゼ隊》だったはず。 そして、キラの夫である《イザーク・ジュール》はそのクルーゼ隊に所属していたと聞いた。 「わけわかんねぇ……」 望む望まないにかかわらず、二人は敵同士だったのではないか。それなのに、どうして結婚することになったのか、と考えてしまう。 「あの人のデーターは、本当に隠されていることが多いから……」 推測することすらできない……とシンがため息をついたときだ。 ドアのロックが外される音が耳に届く。どうやら、レイが戻ってきたらしい。 普段なら頼もしいと思える彼だが、こう言うときには困る。うかつに考え事をできなくなるからだ。 だからといって、彼を放り出すわけにもいかないし……と思いながらベッドに体を横たえる。 まるでタイミングを見計らったかのようにレイが室内に足を踏み入れてきた。そして、シンの姿を見て小さくため息をつく。 「ベッドに横になるなら上着は脱げ……といつも言っているだろう」 しわになるぞ、と彼は付け加える。 「別に……かまわないだろう」 こう言い返せば、レイはあきれたような表情を作った。 「お前……自分がエリートだ、という自覚はあるのか? 望む、望まずにかかわらず、その色を身に纏っている以上、お前は周囲からそう見られる存在だぞ」 ならば、最低限の義務だろう……と彼は口にする。 「……敵と恋をしてもかまわなくても、か?」 言うつもりなかなったのに、こんなセリフが口から飛び出してしまう。 「シン!」 レイがまるで刃物のような厳しさを含ませた声でシンの名を呼ぶ。 「お前は……それを誰かに伝えるつもりなのか?」 「いくら俺でも、そんなことができるかどうか、判断できる!」 そんなことをしたら、彼女が危険になることも、だ! 決して、自分はそうなることを望んでいない。 むしろ彼女は守りたいと思っているのだ。 だが、何故……と考えてしまう。 地球軍に属している連中は、自分にとって《仇》だったはず。そのカテゴリにキラも当てはまるのだ。それでも、彼女のことを憎むことはできない。 「俺は……ただ、どうしてって……」 そう思っただけで……とシンはしどろもどろになりながら言葉を口にした。 「……お前、まさかとは思うが……」 ふっとあることに気づいた、と言うようにレイがシンを見つめてくる。 「キラさんが、好きなのか?」 この問いかけに、シンは目を丸くした。 「そりゃ……嫌いじゃない、と思うぞ……」 でなければ『守りたい』なんて言い出すわけがないだろう、とそう思う。 「いや……恋愛感情として、だ」 いったいいきなり何を……と言い返そうとした。だが、何故かそれができない。 「俺が、キラさんに、恋している?」 まさか……と呟くシンを、レイが静かに見つめていた。 目の前に存在しているものを見て、ニコルが思いきり顔をしかめている。 それも無理はないだろう……とアスランも思う。 「まさか、月の裏側で、あんなものを作っていたとはな……」 あれを使えば、理論上はどこでも好きな場所に攻撃を加えることができる。つまり、ユニウスセブンの悲劇が再び繰り返される可能性がある、と言うことだ。 「大至急、報告をしなければいけないな」 そんなことになれば、ただでさえ人口が少ないプラント側に勝ち目がなくなる。 いや、それ以前にあの憎しみがまた世界を覆い尽くすだろう。それが、自分にとって一番大切な相手を傷つけるのではないか。 ようやく手に入れられるかもしれない、というのにだ。 彼女の体内にいるあれさえ誕生してしまえば、キラの義務は果たされたと言っていい。次世代を生み出してさえしまえば、多少の脱線は大目に見てもらえるのだ。。 だから、その後であれば……ときっと、自分の気持ちを受け入れてくれるに決まっている。 「そうですね……議長は今地球にいらっしゃるそうですから……」 あるいはこちらにあがってくるかもしれない。その時の護衛は、現状から考えれば自分たちが担うことになるのではないか。ニコルがこう推測をする。 「……いっそ、直接会いに行くか……」 その方が話が早いかもしれないな……とアスランは呟く。 「アスラン?」 何か言いましたか? とニコルが即座に問いかけてきた。その声の中に不信感が滲んでいるような気がするのはアスランの錯覚ではないだろう。 彼のことだ。 自分が何を望んでいるのかを知っているはず。そして、それを阻止しようとしていることもわかっていた。 「今、ラクスも地球にいたな。そう思っただけだ」 だから、当たり障りのないセリフを口にする。 「……あの方の歌であれば、人々の心を癒してくれるでしょうからね」 それが、少しでもコーディネイターに対する気持ちを和らげてくれればいい……と彼は続けた。 「そうだな」 しっかりと頷きながらも、それに関してはどうでもいいとアスランは考えてしまう。 自分にとって何よりも大切で必要な存在は彼女ではないのだ。 しかし、と心の中ではき出す。 彼女に会いに行くことは難しい。 そのためには、まず、今隣にいる相手の目をかいくぐらなければいけないのだ。 それがどれだけ困難なことであるのかを、アスランはよく知っている。 しかし、と彼は心の中ではき出す。それでも、自分はキラに会いたいのだ。 いったいどうすればいいのか。 心の中で、アスランはそっとこう呟いていた。 |