あの男が口にした階級は、地球軍で使われていたものだ。
 それが一人分であれば、別段驚かなかっただろう。しかし、男は三人分の名前と階級を口にした。
 そして、室内にいたのもシホを除けば三人。
 はっきり言って、それを結びつけない方がおかしい。
「やっぱり、あんた達、最初からぐるだったのかよ!」
 シンの言葉に、キラがふっと悲しげな表情を作った。それを見た瞬間、何故か自分が口にしていけないセリフを投げつけてしまったような気持ちになってしまう。
「ぐる、というのは違うな」
 その時だ。
 ナタルが不意に口を開く。
「我々が生き延びるために、艦内でただ一人のコーディネイターだった彼女に協力を強要したのだよ。他の民間人達の命を盾にな」
 フレイも盾にされた一人だ、と彼女は自嘲混じりの言葉で付け加える。
「ナタルさん」
「……でも、あれは仕方がなかったことです……ヘリオポリスは失われていたし……あの救命ポートではオーブ軍がたどり着くまで持ちこたえることができたかどうか……」
 そう考えれば、アークエンジェルに拾ってもらうしかなかったのだ……とキラは続けた。
「そうよね。でなければ、みんなあの場で死んでいたわ」
 もっとも、あんたにしてみればそうしていたほうがいいって言いそうだけど……とフレイは口にする。地球軍のすることが全て気に入らないんでしょうけど……とも付け加えられた。
「……でも……結局、助けられたのは、フレイ達だけだ……」
 その他の人たちはみんな……と口にしたキラの頬を涙がこぼれ落ちる。
 ただでさえ白い肌の上をこぼれ落ちた涙が月の光をはじいて、まるで別のもののように見えた。
 しかし、それ以上に気になったのはキラの言葉である。
「どういうことだよ、それ!」
 訳がわからない、とシンは思わず呟いてしまう。
 キラ達は生きている。
 しかし、他の者達は死んでしまった……というのはどういうことなのか。
「簡単なことだよ」
 そんなシンの耳に、静かな声が届く。
「民間人を戦場から逃がそうとしたシャトルが流れ弾に当たった。ただ、それだけのことだよ」
 キラ達が無事だったのは、まだアークエンジェルに乗り込んでいたからだ……と続けられた声は、バルトフェルドのものだった。
「お義父さん!」
 フレイが嬉しそうに彼の名を口にする。
「無事なようだね、みんな」
 優しげな口調で彼はこう告げた。
「他の者達も大丈夫だったようだが……多少の名誉の負傷はあったようなのでね。医務室に放り込んでおくように頼んできたよ」
 すぐに会えるから心配しなくていい、と付け加えたのは、キラに向かってのセリフだろうか。
「それと、ここは危険だからね。取りあえず、ホテルの方に移動してもらうよ」
 言葉とともに、彼はキラ達へと歩み寄っていく。だが、その途中にいたシンのことは綺麗に無視をしてくれる。
 それは、先ほどの自分のセリフが原因なのだろうか……とシンはかすかに眉を寄せた。
「歩けるね? 何なら抱えていってもかまわないが」
 そう言いながら、彼はキラ達が立ち上がるのを手助けしている。
「大丈夫です」
 ふわり、とキラは微笑む。そのまま、彼女はシンへと視線を向けた。
「助けに来てくれて、本当にありがとうございます」
 そして、こう告げる。
 この言葉に、シンは一瞬、呼吸することも忘れてしまった。

「……ずいぶんと、まずい状況のようだね……」
 レイからの報告を聞き終わったデュランダルは思わずこう呟いてしまう。
「地球軍の動きはともかく……まさかあの男がいるとはね」
 自分が実際に彼にあったのは一度だけだ。
 レイはもちろん、フラガやクルーゼもあの男に関しては話でだけしか知らないはずだ。
 だが、何故、今になって出てくるのだろうか。
 それこそ、もっと以前に表舞台にあがってきてもいいだろうに……とも思える。
 あるいは、今だからこそ姿を現したのか……と眉を寄せた。
「ともかく……彼女の安全を優先しないとな」
 このような場所にまで地球軍に潜入されるとは、と考えれば頭が痛い。警備のものだけの問題ではないのだろうが、それでも、と言いたくなる。
「ともかく、無事で良かったよ」
 君もね、とデュランダルは微笑む。
「俺は、後から行きましたから……あの三人は、それなりにケガをしていて、キラさんが心配されていました」
 そのことを三人が喜んでいると言うことはあえて聞かなくてもわかる。
「名誉の負傷だ。彼等にしてみれば『誇らしい』と言うところだろう」
 その気持ちは男であれば誰でもわかるものではないだろうか。いや、男でなくても軍人であれば……と言い換えられるかもしれない。
「ともかく、彼女にはこの棟に移ってもらうよう手はずを整えたが……」
 あの男の捨てぜりふが気になる……とデュランダルは思う。それから想像をすれば、大がかりな戦闘があるのではないか、と思えるのだ。
「……ギル……」
 不意にレイが呼びかけてくる。
「どうかしたのかね、レイ?」
「あの男は……やはり、俺たちを憎んでいるのでしょうか……」
 失敗作と成功作。
 自分とあの男の間にはそんな差があったはず……と彼は呟く。
「わからないね」
 失敗、と言ってもどこを失敗したのか……と言われれば悩む。ただ、依頼主の要望と差違があったらしいのだ。
 そんな彼のバックアップとして生み出されたのがクルーゼではある。
 もっとも、彼の場合、キラの実の母が普通の人間と生きていけるようにしてくれていたはず。
 そして、その後に生まれたレイもだ。もっとも、彼の場合、キラの母が誕生させたのではなく、受精卵状態でデュランダルに預けられたのだ。
 だから、そう言った意味では他の二人とレイとは微妙に立場が違っている。
「あの男が、ラウはともかく君の存在を知っているかどうかもわからないからね」
 憎んでいるとすれば、ラウとフラガだろう……と心の中で付け加えた。
「それに、シン・アスカが秘密の一部を知ってしまった。そちらの方も問題かもしれないよ」
「わかっています。そちらに関しては、俺がきちんと目を光らせています」
 そのくらいであれば、自分でも大丈夫だ……とレイは頷く。
「頼むよ。私は……ラウ達とも相談しておこう」
 おそらく、まだ何か起きそうだしね……と言うデュランダルに、レイは姿勢を正していた。