目の前で、侵入者を阻止しようとしているオルガ達の姿が確認できた。
 気に入らない相手でも、目の前で攻撃を受けているなら無視するわけにはいかない。一応、同じ《ザフト》に所属しているのだし、とシンは思う。
「大丈夫か!」
 こう問いかけると同時に、身軽にフェンスを飛び越えた。こうすれば、警報装置が作動するはずだ、と思ったのだ。そうすれば、すぐに増援が来るに決まっている。
 だが、シンの動きにも、警報装置はまったく作動しない。
 つまり、装置が解除されている、と言うことだろう。
 もちろん、キラ達がそんなことをするはずがない。ならば、ステラが……と言うことか。
「……地球軍は……」
 あんな少女まで自分たちの目的のためには利用するのか、と心の中ではき出しながら、シンはオルガ達の方へと近づいていく。
「何で、てめぇが来るんだよ!」
 そんな彼の姿に気が付いたのだろう。オルガがこう怒鳴ってくる。
「来るなっていっただろう!」
 このような状況下でもそう言いきれるか……とある意味感心したくなる。だからといって、帰るわけにはいかないだろう。
「放っておけるかよ!」
 逆にこう叫び返す。
「一応、お前らもザフトだろうが、今は!」
 気に入らないが、と付け加えながら、取りあえず手近な敵を引き倒した。そのまま相手を気絶させる。
 その予想外の手応えのなさに、シンは不審を覚えた。
 いくら何でも、こんな連中だけでキラを拉致しに来たとは考えられない。
 拉致できたとしても、途中で見つかるに決まっているだろう、と思うのだ。
「中! 二人、行った!」
 クロトが誰かの姿を見つけてこう叫ぶ。
 おそらくレイが追いついたのだろう。
` 「だが!」
「ここは俺たちとそいつで何とかできる! だから、中!」
 シャニ一人じゃ無理だ! と付け加えられて、レイは状況を飲み込んだらしい。
「わかった。途中でアークエンジェルには連絡を入れてある!」
 それでレイにしては少し遅くなったのか……とシンは思う。でなければ、あれだけの差しかなかったのであれば、途中で追いつかれてもおかしくはないかもしれない、と考えるのだ。
「わかった!」
 じゃ、頼む……と付け加えられた言葉に、レイは家の中へと向かおうとしたらしい。もちろん、それを邪魔しようと数名が動く。
「ったく!」
 本当はここで銃を使いたくないのだが……と思いながら、シンは手近に落ちていたそれを拾う。そして、そのまま相手の足をねらって引き金を引いた。
「お前なぁ!」
「仕方がないだろう! それに、これで誰かがまた応援に来てくれるかもしれないじゃないか!」
 オルガの抗議に、シンはこう言い返す。
「やっぱ、お前は帰れ!」
 即座にオルガがこう叫び返してきた。

 新たに増えた人影を見て、シャニは小さくため息をつく。
「三人かよ……」
 まぁ、自分たちも三人セットだったし、あちらにしてみればいろいろと都合がいい人数なのだろう。
 もっとも、自分に関して言えば最悪だが、とシャニは心の中で付け加える。
 ステラだけでもちょっと厄介なのだ。
 どうやら、戦闘になると人格が変わるタイプらしく、彼女の攻撃はめちゃくちゃえぐい。
 それでも、自分は負けるわけにはいかないのだ。
 同時に死ぬわけにもいかない。
「シャニ! 大丈夫?」
 ドアの向こうにいる存在を奪われるわけにも悲しませるわけにもいかないのだ。
「大丈夫。心配、いらない」
 だから、普通の口調でこう言い返す。
 実際の所は、そんなに余裕があるわけではなくても、だ。
「さっさとどけ! どうして、じゃまするの!」
 自分はキラと一緒にいたいだけなのだ、とステラは怒鳴る。
「キラが嫌がっているから!」
 彼女は自分たちと一緒にいたいのだ。
 何よりも一緒にいたいのは、さっさと彼女をかっさらっていったあの銀髪だろうけど……とシャニはステラの手首を掴みながら、思う。
 それでも、あいつと一緒にいるときのキラは一番幸せそうな表情をしているから、存在を我慢できるのだ、とナイフを奪おうと奮闘しながら付け加える。それに、あいつも自分たちを一人の存在として認めてくれているし、と。
 そういう人間だからこそ、キラが好きになったのかな……と思う。
「放せ!」
 ステラがナイフを取り戻そうと必死に暴れる。
 同じ女性でも、キラと違ってこちらは一瞬も力が抜けない。
 キラと同じように、力を入れれば砕けてしまいそうな細い手首なのに。
 それも、やはり《強化》されているからなのだろうか。
 だとするなら、自分たちの方がコーディネイターよりも許されざる存在なのではないか、と思う。
 もっとも、そんなことを考えられるようになったのも、キラ達の存在があったからだ。彼女がちがそんな自分たちでも受け入れてくれたから、ゆっくりと考える時間がもてた。
 そう思えば、そんな機会を与えられていない彼女たちは不幸なのだろうか。
 問いかけても答えは得られないだろうな……と心の中ではき出したときだ。
 いきなり脇から衝撃を感じる。
「ぐっ!」
 そのままシャニは倒れた。だが、相手がナイフを自分の体に突き立てる前に何とかよける。
「シャニ!」
 自分を心配してくれるキラの声が、本当に嬉しいと思う。
「ぜってぇ、中に入れない!」
 だから、ドアにとりつこうとしたステラを、遠慮なく投げ飛ばした。