フラガに言われたから、だろう。 レイは無意識のうちにシンの言動に注意するようになっていた。 その結果、あることに気づいてしまう。 「……これは……俺だけでは手に余るかもしれないな……」 だからといって、タリアに相談しても、彼女が困るだけだろう。いや、それ以前に、彼女がどこまで知らされているのか、レイはわからないのだ。 「……こう言うときは、ギル、だろうな……」 クルーゼがいてくれれば、彼に相談できるのだが……とレイはため息をつく。クルーゼ以上に忙しいであろうデュランダルにこんなことを相談していいものか。 だが、彼女と彼女のお腹の中で育っている子供を失えないのではないか、と言うこともわかっている。 「アポ、取るか」 いきなり顔を出しても、デュランダルは笑って出迎えてくれるだろう。だが、それでは公私混同になる。何より、彼の仕事の邪魔をしてはいけないし……とレイは心の中で呟く。 「しかし、何故、シンは、あそこまでキラさんに執着をするんだ?」 その理由がわからない。 だから、彼が本当に何をしたいのかわからないのだ。 それでもわかっていることはある。 「キラさんは、守らなければいけない……」 自分たちを生み出し、そして最後まで守ってくれたあの人のために。 だから、できるだけのことはしなければいけないのだ。それ以上に《キラ》の子供がこの世に生まれてくるのを見届けたいとも思う。 それは間違いなく《自分》の意志だ。 だから……と思いながら、レイは立ち上がる。そして、デュランダルの秘書へとまず連絡を取った。 「……ラクスさま?」 デュランダルの元に行けば、何故かそこにはラクスもいた。 「私のことは、お気になさらず」 ふわりと微笑む彼女に、どうしたものかとレイは思う。そして、そのままデュランダルへと視線を向けた。 「ラクスさまはキラさんの姉代わりなのだよ。だから、事態を知っていて頂いた方がいいだろう、と判断をしたのだ」 後は、明日のコンサートの打ち合わせをしていたのだ、とデュランダルも口にする。 「ラウも、彼女であればかまわないだろう、と言っていたしね」 ラクスであれば、バルトフェルド隊の誰にその話を伝えておけばいいのかも把握しているはずだ、と付け加えられれば、レイには納得するしかない。 「わかりました」 言葉とともにレイは口を開こうとする。 「その前に座りなさい」 その方が落ち着いて話ができるからね……という言葉に、レイは素直に頷く。ラクスに軽く頭を下げると、そのまま彼は勧められたいすに腰を下ろす。 「それで?」 何があったのか……とデュランダルは問いかけてる。 「……シンが、キラさんのことを調べようとしているのです。それも、ハッキングまで手を染めているそうなのですが……」 どうしたものか、とレイは言葉を続けた。 「ホーク姉妹もキラさんが昔《男》だった、という事実にたどり着いていたようですが、そちらに関しては心配がいらないと放置しています。むしろ、そのせいで彼女たちはキラさんの身辺に気を付けてくれるようになったと思われますので」 だから、自分もあえて行動に出なかったのだ、とレイは付け加える。 「君がそう判断したのであればそうなのだろうね」 デュランダルの言葉に、レイはほっとしたような表情を作った。それで何か言われれば、彼女たちへの対応も考えなければいけない所だった。 「で、問題のシン・アスカ……だが……」 「……フラガさんからお聞きしたところでは、アークエンジェルのシステムに侵入しようとしたそうです」 失敗したようだが……とレイは付け加える。 「ミネルバの方にはそのような記録がありませんでしたので、本人も知られているとは思っていないかと……」 実際、自分でも確認するのにちょっと無謀な手段を使わなければいけなかったのだ、と正直に白状をした。 「……その程度は問題はないだろうが……」 それは自分の行動を指してのことなのだろう、と言うことはレイにもわかる。 「だが、彼は何を知りたがっているのかね?」 デュランダルの言葉にレイは一瞬ためらう。 「おそらく……キラさんがアークエンジェルに乗っていたかどうか、だと」 それだけならばいい。 だが、それが知られると言うことはキラが《ストライク》のパイロットだったと言うこともばれると言うことだ。 それは絶対に隠し通さなければいけない事実だろう。 「何故」 不意にラクスが口を開く。 「ラクスさま?」 「何故、その方はキラのことを知りたがっているのでしょう。何があったのか、教えて頂けますか?」 ミネルバで、と彼女は問いかけてくる。 「……レイ。君の視点でかまわないよ。教えてくれるかね?」 デュランダルもまたこう告げた。 「……わかりました……」 その言葉に、レイはできるだけ主観を排して事実だけを述べようと口を開く。だが、それが成功しているのかどうか、自分自身でもわからなかった。 車の中からザフトの本拠地を見下ろす。 「……厄介なのがいるな……」 そのままこう呟く。 「ネオ?」 「誰がいるんだ?」 「……さらってくる相手だろう」 そんな彼の言葉に、周囲から可愛いオコサマ達が反応を見せた。 「それもいるようだな」 だが、もっと厄介な《存在》もいる……と彼は心の中で付け加える。 その中の一人はいい。間違いなく出てくるだろう、と予想していたのだ。 だが、それ以外にもう一つ《存在》が感じられるのはどうしてなのか。 「……気のせいならいいんだがな」 もし、あちらまでいるのであればまずい、とも思う。果たして、ここにいるオコサマ達で対処できるだろうか。 だからといって逃げ出すわけにはいかない。 自分たちが役に立たないと判断すれば、あの男は即座に切り捨てるだろう。その結果、自分たちに待っているのはただ一つ。《死》だけだ。 だからこそ、何としても成功させなければいけない。 「どうやら、始まるようだな……」 周囲の様子からネオはそう判断をする。 「目標がいるかどうか、確認しておいで」 自分はここで待っているから、と告げれば、三人はそれぞれ頷いて見せた。そして、ゆっくりと立ち上がる。 「気を付けて行ってくるんだぞ」 こんな状況で言うべきセリフではないのかもしれない。だが、この言葉だけで彼等が喜ぶのであればいいか。そんなことを彼は考えていた。 |