騒動の原因は、すぐにわかった。 「ラクスさん! どうして……」 「皆様の慰問ですわ」 にっこりと微笑むとラクスはこう告げる。 彼女だけではなくデュランダルも一緒なのだ、という。しかし、彼の方はブリッジに用事があるのだ、とか。 「ついでに、キラの顔を見ていこうと思いまして。そうすれば、エザリア様も納得して頂けるはずですし」 無茶をされるようなことはないだろう……と彼女は低い声で笑った。 「……そういう状況だったわけ?」 何か、自分の想像よりも凄いことになっていたのではないか。フレイはそう思う。 「ミネルバに与えられた任務が任務だったでしょう? それを耳にした瞬間、エザリア様だけではなくうちの父やあのパトリック様ですら表情を変えましたもの」 昔の地位にいたら、彼等がどのような行動に出たかわからない、ところころと笑いながらラクスは告げる。 しかし、フレイにしてみれば笑える状況ではない。 「それって……」 「大丈夫ですわ。ですから、デュランダル議長もこちらに一緒に参られたのです」 彼が自ら動いてくれたらこそ、あの三人が引き下がったのだ、とラクスは付け加える。 「……議長というのも大変なのね……」 上に厄介なのが残っていると……とフレイはため息をついた。 「キラの安全さえ確認できれば、皆様落ち着くとは思いますわ」 それでいいのか、とも思う。 だが、それらは全部、彼等がキラを大切に思ってくれているからの行動なのだ。そして、自分たちに危害が及ばないから、別段かまわないか、ともフレイは考える。 自分たちにとって、厄介なのはある意味、ただ一人の存在なのだから、と。 「……そう言えば、あれ、は?」 ラクスが来ているなら、あるいは……と不安になってこう問いかける。 「来てませんわ。というより、連れてくるありませんでしょう?」 アスランが来れば、一騒動起きるに決まっている。それがキラにとっていい影響を及ぼさないのはわかりきっていることだから、とラクスはきっぱりと言い切った。 「ただ……あの人のことですから……」 安心はできないのだが……とラクスもため息をつく。 「……その時は、その時よね」 ここにはバルトフェルドもフラガ達もいる。現在であれば、ラクスやデュランダル、それにレイもあてにできるだろう。だから、何とかなるはずだ……とフレイは考えることにした。 それよりも、自分たちが不安を覚えていることの方がキラにはマイナスだろう、と。 「ともかく、キラに会うでしょう? こっち」 本当はキラを連れてくるのが礼儀かもしれないが……とフレイは呟く。 「キラは妊婦ですもの。私から伺うのは当然ですわ」 そんな彼女にラクスはこう言って微笑む。 「妊娠は、病気じゃないんだけどね。でも……キラだもの」 「えぇ。キラですもの」 何をしでかしてくれるかわからない。視線だけで頷きあうと、二人は歩き始めた。 「……初めまして。レイ・ザ・バレル、と言います」 レイはこう言って相手の顔をまっすぐに見つめる。 「ムウ・ラ・フラガ、だ。お前さんとは初めて、だな」 そうすれば、彼は複雑な感情をその笑みに滲ませた。そのまま、すっと身をかがめるとレイの耳元に口を寄せる。 「お前さんもうちの《親父》なわけ?」 そして、彼はそう囁いてきた。 「……微妙に異なっているそうですが……」 つまり、彼は全てを知っていると言うことか。それに関しては、ラウがきちんと対処していたと言うことなのだろう。 「そっか」 しかし、参ったなぁ……と言いながらフラガは頭をかいている。 「フラガ、さん?」 何と呼びかければいいのかわからず、無難に彼の名字をレイは口にした。 「自分よりも一回り以上も年下の《親父》かよ」 ラウの野郎ですら認められねぇって言うのに……と彼はぼやく。 「まぁ、あんなひどい性格にならなきゃ、かまわないが」 親戚だと言うことで妥協しておくべきだろうが、かまわないな……と彼はレイに問いかけてくる。 「俺は、どちらでも」 自分の存在を受け入れてくれるのならば、とレイは心の中で付け加えた。 「じゃ、そう言うことにしておくか。でないと、アークエンジェルの連中に紹介するとき厄介だからな」 キラに会いに来るんだろう、お前も……とフラガは笑う。 「ですが……」 かまわないのか、とレイは考える。 確かに、現在は同じ《ザフト》の一員なのだ。そして、キラの様子を確認に……という名目があれば訪問しても誰も不思議には思わないだろう。 しかし、とも思うのだ。 中には他の隊のものが訪れることを嫌がる所もある。何よりも、アークエンジェルというのはかなり特殊な立場にいるのだ。 「かまわねぇよ。そんなことにこだわる連中は、うちにはいない」 キラが好きな連中ならなおさらな……と彼は笑う。 「なら、近いうちに」 レイは安心したような笑みを浮かべるとこう言い返す。 「ところで、さ」 ふっと表情を変えてフラガが口を開く。 「何でしょうか」 その表情にレイは何かを感じ取って即座に聞き返す。 「お前の同僚のシン・アスカって、どんな奴だ?」 彼の口から出たのは、レイが予想もしていなかった内容だと言っていい。 「……シンが、何かしましたか?」 「アークエンジェルのシステムに侵入しようとしてきたんだよな」 キラが作ったシステムを突破しようっていうのは無謀だぞ、と彼は笑う。しかし、その内容はまったく笑い事ではない。 「……あいつは、地球軍を憎んでいるので……あるいは、それが関係しているのかもしれません」 隊に戻ったところで、調べて報告をする……とレイは付け加える。 「キラにさえ危害が加えられないようなら、無視してもいいんだがな、俺たちは」 何かを言われることはすでになれているから。そういう彼に、レイは静かにため息を付いた。 |