クルー達がブリーフィングルームに集められている。しかも、パイロットだけではなく各部門から、代表者達も、だ。
「……ずいぶんと大きな作戦のようね」
 その様子を見て、ルナマリアがこう呟く。
「あぁ……」
 シンが素直に頷けば、ルナマリアが一瞬目を丸くした。
「……なんだよ……」
「だって、あんたが素直に同意するなんて思わなかったんだもの」
 この言葉を耳にして、シンは彼女が自分をどのような目で見ているのか、と思ってしまう。
「アカデミー時代から、何か一言は言い返さないと気が済まなかったでしょう、あんた」
 だが、ここまで言われては反論のしようがない。
「そこまでにしておいてやれ」
 苦笑混じりにレイが仲裁をしてくる。
「ここでいじめすぎてモチベーションが下がられては意味がない」
 しかし、その理由が何か引っかかるような気がするのはシンの錯覚だろうか。
「……レイ?」
「あぁ、ハーネンフース隊長がいらしたな」
 シンの講義をレイはあっさりと交わす。
 だが、彼女が来たのであれば、確かに無視することはできない。シホの実績は、自分から見ても尊敬に値するのだし――もっとも、気に入らないことは事実だ――とシンはおとなしく口をつぐむ。
 しかし、彼女の後をついてきた二人を見て思わず目を丸くした。
 どう見ても、自分たちよりも年下の少女と、体の線もあらわな美女。
 何というか、これほど似つかわしくない組み合わせはないのではないか。
 同じような感想を周囲の者達も抱いていたらしい。室内にざわめきが走る。
「……ハーネンフース隊長? その方々は?」
 それを沈めようと思ったのか。レイがシホに問いかけた。
「こちらは、情報提供者の方だ」
 言葉とともに、シホは少女の肩に手を置く。
「今度の作戦で重要な情報を我々に伝えてくれる。粗相の無いようにな」
 年齢よりもその存在の重要性を考えるように、と言うことだろうか。だが、どうしても外見の方に目がいってしまう。それでも、彼女の思い詰めたような表情だけは無視できないものだ、とシンは心の中で呟いた。
「そして、こちらはバルトフェルド隊からのいらっしゃった方だ。彼女たちとの打ち合わせを終えて、こちらに作戦を伝えに来てくれたのだよ」
 あちらとの合同作戦になり、なおかつあちらの隊長の方がタリアよりも立場が上である以上、当然のことだ、とシホは言い切る。
「そんな、外見だけのちゃらちゃらした女なんて!」
 シンが思わずこう言った次の瞬間だ。
「そういう悪いことをいうのは、この口かしら?」
 気配も感じさせずに目の前に来ていた女が、シンの頬を思い切りつねる。
「アイシャさん?」
「ダメでショ! 外見だけで物事を判断しちゃ」
 シホの問いかけに直接答える変わりに、アイシャはシンの頬を今度は左右に引っ張りながら、こう言ってきた。
「あんたなぁ!」
 そんなことをされて黙っていられるかとシンはアイシャの手を振り払うと殴りかかろうとした。しかし、それよりも先に彼女の指先が、シンののど元に突きつけられる。一歩でもシンが動けば、そのまま咽頭にその手が食い込みそうだ。
「……覚えておくことネ。この姿はアンディの趣味と言うよりも、アナタみたいな無礼者を判別するためのものなのヨ、最近は」
 動きやすさを突き詰めた結果、とも言うが……とアイシャは笑う。その赤い唇が、やたらと艶めいている。
「と言うことで、おとなしく話を聞く気になったかしら?」
 アイシャの問いかけに、シンは素直に首を縦に振った。
「素直でいいこは好きよ。イザークやディアッカのようにネ」
 あの二人を子供扱いするか! と誰かが呟いている。それもきっと彼女の耳には届いているだろう。しかし本人は少しも気にしている様子はない。
「ごめんなさいネ。話を中断させちゃったワ」
 続けてちょうだい、とアイシャがシホに告げている。
「そうですね。作戦開始時間だけは遵守しないと」
 合同で行う以上、とシホも頷いて見せていた。
「……そいつ、本当にまじめにやる気があるの?」
 だが、情報提供人だという少女だけが納得できないというようにシホ達にこう問いかけている。
「この作戦、失敗したら、一番被害を受けるのはあたし達だわ! 不真面目な気持ちの奴は除外してよ!」
 あちらの人たちは信用できたし、彼等の推薦だから……と少女は付け加えた。
「なんだよ! 俺のどこが不真面目だ、って言うんだ!」
 シンは即座に言い返す。
「決まっているでしょう! 外見だけで人を判断しようとしているし、何よりもあたし達のことを疑っているじゃない!」
 自分たちが地球軍の目をそらすために変装してきたとは思わないのか! と少女は付け加える。
「そんなこと……」
 考えてもいなかった、というのが本音だ。
 だが、言われてみればその可能性だってあったのかと、そう思う。
 それでも、すぐにその事実を認めるのはしゃくだ。そう考えてしまう自分がいることもまた事実だ。
「そんな奴に、今度の作戦、任せられるわけないでしょう! あんた達は、ここから立ち去ればいいだけだけど、あたし達はここから動けないんだ!」
「だったら、何で協力をしようと思ったんだ!」
 シンはこう言い返す。
「あんた達を信頼したわけじゃない! この人達を信頼したから、だよ!」
 彼等は、自分たちの訴えを真摯に聞いてくれたから、と少女は叫ぶようにこう言い返した。
「……どうして、この人達でなきゃダメなの? あなた達なら信頼できたのに」
 そのまま少女はアイシャに向かって問いかけた。
「しょうがないわネ。こちらの手持ちの機体では、作戦を遂行できないと判断されたのだもの」
 インパルスでなければ、不可能だと、そう結論が出たのだ、とアイシャが言葉を返している。
「インパルス?」
 と言うことは、自分なのか、とシンが心の中で付け加えたときだ。
「誰なの、それのパイロット」
 この言葉に、周囲の者達の視線がシンに集まる。
「……やっぱり、信用できない!」
 あいつが中心になるくらいなら、自分たちだけで勝手に動く! と少女は言い切った。
「お前なぁ!」
 何でそう言いきられなければいけないのか。シンは自分の言動を棚に上げてこう言い返す。
「そうじゃない! どうせ、あたしの言葉なんて、適当に聞き流すつもりなんでしょう!」
 信じられないと、少女はまた怒鳴った。
「任務なら、気に入らない相手だってちゃんと守るさ!」
 シンはそう言い返す。
「任務に、私情は挟まない!」
 この言葉に、少女はまっすぐにシンへと視線を向けてくる。
「確かに、聞いたからな! 失敗したら……あたしがお前を殺してやる!」
 この言葉に、シンは黙って頷いた。