破裂音がMSデッキ内に響き渡る。 「何故、指示を無視した?」 その後に続いて、シホの言葉が周囲の者達の耳を打つ。 「あのままでは、こちらの被害が大きくなる、と判断しました」 何よりも、あそこで強制労働をさせられている人たちが、口封じのために殺されていたかもしれないだろう、とシンは言い返す。 「だからといって、だ。無断で行って良い内容ではない!」 せめて、一言連絡をよこせば、まだましだったものを、と彼女はさらに付け加える。 「何故ですか?」 だが、どうしてもシンには彼女の言葉が意図することがわからない。 彼等は無事に解放されたのだ。 そして、少なくともあの場では感謝してくれているように思えた。 「俺は、自分の判断が間違っていたとは思いません!」 それに、ザフトの印象を良いものにする役目になったじゃないか、とシンは付け加える。 次の瞬間、また、頬に痛みを感じる。 「ヒーローごっこがしたいのなら、ザフトを辞めて、一人でやれ!」 そして、シホの言葉がシンの耳にたたきつけられた。 「何なんだよ、それは!」 ヒーローごっこなんて、したつもりはない。 ただ、自分と同じように地球軍によって今までの生活を壊される人間が増えることが我慢できなかっただけだ。 シンはシホに向かってそう言い返そうとした。 しかし、彼女の瞳を見れば、何故か舌が動かなくなる。 「お前がしたことは、完全に越権行為だ。その意味がわかるまで、一人で考えていろ!」 そういうと、シホはきびすを返す。 「ハーネンフース先輩!」 彼女の背中に向かって慌てたようにルナマリアが声をかけている。 「艦長と話し合う必要があるだろう。今後のことに関して」 シンがしてしまった行動を今更なかったことにはできない。それならば、今後の対応について話し合っておかなければ困るだろう、と彼女は口にした。 「……なんだよ、大げさな……」 シホの言葉を耳にした瞬間、シンはこう呟いてしまう。 「大げさでも何でもない思うぞ」 だが、レイがさりげなく言葉を口にしてきた。 「レイ?」 「その人達は、地球軍の機密の一端に触れてしまったのだろう? なら、地球軍に今後もねらわれる可能性がある、と考えなければいけないのではないか?」 もちろん、そのようなことが確実に起こるとは言い切れないが、と彼は続ける。 「お前がずっと彼等を守れるわけじゃないだろう?」 だからこそ、手配しなければならないこともあるのではないか。レイはこう付け加える。 「そんなこと!」 ザフトが勝てばいいだけのことではないか、とシンは思う。 「関係ないか? なら、何故また戦争は始まったのだろうな」 前の戦争も、ザフトの勝利で終わったはずだ。この言葉に、シンは思わず唇をかんでしまう。 「……だけど……」 「もう少し、いろいろと考えてみるんだな」 こう言い残すと自分の機体に向かってレイは歩き出す。その背中を、シンは黙って見つめているしかできなかった。 「そうなんだ」 シホの言葉に、キラはすっと視線を脇に流す。 「でも、シン君の気持ちも、わからなくはないかな……」 もっとも、それを認めてはいけないのだろうけれど、とも付け加える。 「キラ」 「キラさん?」 「多分、同じような状況なら、僕も悩んだ、と思うんだ……あの時のように」 キラが何を指してこうく地にしたのか、わかるとすればフレイだけだろう。 「……でも、キラは軍人じゃないもの」 そのための訓練も何もしていないのだから《人》としての《情》に流されたとしても、当然ではないか。フレイはそう言いながらキラの頭をそっと抱きしめる。 「でも、あいつは違うでしょう?」 シンは、ちゃんとその心構えもたたき込まれた《軍人》ではないか、と彼女は付け加えた。 「そうですね……軍人であれば、どのような理不尽だと思える事柄でも、命令であれば従わないわけにはいきません。自分だけの正義に従うわけにはいかないのですよ」 それだからこそ、あの時誰もが悩んだのだろう、とキラは思う。 だが、それでも彼等は自分のために必死に手を尽くしてくれた。だからこそ、自分は今ここにいるのだ。 それと同じ事をシンに望むのは、まだ難しいのかもしれない。 「あそこに住んでいる人たちは、どうなるのかな……」 「……わかりません。一応、カーペンタリアには保護を依頼しましたが……現状では、そこまで兵を割けるかどうか」 かといって、オーブに任せるわけにもいかないだろう。その言葉も、正しい。 「……イザークなら、どうするかな」 あるいは、バルトフェルド達なら、だ。 「……キラったら……真っ先に出てくるのがあの男の名前になっちゃったのね」 くすりとフレイが笑う。 「フレイ?」 何か、いけなかった? とキラは小首をかしげる。 「いいじゃないですか、フレイさん。キラさんがこういう方だからこそ、ジュール隊長が落ち着いていらっしゃるのですし」 そのおかげで、自分たちが安心して指示に従っていられたのだ、とシホが笑う。 「……まぁ、それはそうかもね」 いいことにしましょう、というフレイに、キラはますます訳がわからないというように首をひねってしまった。 |