だが、キラ達が他の誰かに相談する必要はなかった。 「……どこから……」 思いも寄らぬ方向から飛んできたミサイルを避けながら、シンはこう呟く。 センサーにはMSやMAはもちろん、戦闘機の姿すら映し出されていないのだ。 「……ひょっとして、どこかに隠されているのか?」 武器が……とシンは判断する。と言うことは、あのあたりが怪しいか……とモニターに映し出されている島影をにらみ付けた。だとするならば、カーペンタリアの連中はいったい何を見ていたのか、とも思う。 「あんな目と鼻の先に、地球軍の連中がいることに気づかないなんて!」 平和ぼけしていたのか、それとも地球軍の連中がよほどの注意を払って準備していたのか。 どちらが正しいのにしても、放っておくわけにはいかないだろう。 それに、このまま放っておいてまた攻撃をされては意味がない。あんなのでも、虚をつかれれば十分撃墜されかねないのだ。 『シン・アスカ? 何をする気だ?』 インパルスの動きでシンがこの場を離れようとしたことを察したのか。シホがこう問いかけてくる。 「あちらから攻撃が来ました! 確認してきます」 でなければ、自分たちだけでははなくミネルバも危険にさらされるのではないか。シンはそう言い返す。 『あくまでも確認だけだ……いいな?』 そこから後の判断はタリアをはじめとした者達の役目だ。シホがこう告げてくる。 つまり、疑問の答えを探してくるのはかまわないが、検証をするのは他の者達に任せろ、と言うことなのか。 そんな悠長なことを言っていていいのか、とシンは思う。 確かに、上の判断が必要なことはある。しかし、それで間に合わなかったら誰が責任を取るのか、と。 『シン・アスカ! 聞こえているのか?』 しかし、彼女は自分が同意しなければ許可を出さないつもりらしい。 「ワカリマシタ」 不本意だ、と言うことを隠さずにシンは言葉を返す。 『いいか? 越権行為だけはするな!』 ここはカーペンタリアが管理をしている地域だ。だから、彼等の指示に従わなければいけないだろう、と彼女は付け加える。 それがどうしたのか、とシンは思う。そのくらいに判断ができなければ《紅》を身に纏う資格はないじゃないかと。 「覚えておきます!」 もっとも確約はしないが。心の中でそう付け加えると、シンは目的の方向へとインパルスを向ける。そして、そのままバーニアをふかした。 「やっぱりかよ!」 即座にミサイルが飛んでくる。 と言うことは、やはりあの中のどこかに地球軍が潜んでいる、と言うことだろう。 「俺たちでなくても、きっと攻撃を仕掛けてきたな」 自分たちの居場所がばれると困るから……とシンは判断をする。 ひょっとしたら、自分たちが知らなかっただけでこんな風に攻撃を受けていた者達がいたのかもしれない。だが、それを伝えていない……というのであれば、カーペンタリアの怠慢なのではないだろうか。 それとも、自分たちで何かをしようとしていたのかもしれない。 「どちらにしても、あいつらのミスじゃないか!」 それなのに、どうして自分が連中の判断を仰がなければいけないのか。シンはそう思う。それよりも、さっさと片づけてしまった方がいいに決まっている。 だから、とシンは目標をロックした。そして、そのまま地球軍のミサイルランチャーをロックする。 「さっさと終わらせてやるよ!」 そのまま、引き金を引いた。 しかし、事態はそれだけですまなかった。 「……秘密基地?」 しかも、まだ建設途中らしい。 それだけならばまだ見過ごしていたのではないか。 「あれは……地元の人たちか?」 その人達が、無理矢理協力させられているらしい。 そんな人たちをこのまま見捨てて報告のためにミネルバに戻っていいものか。その間にも、彼等はここで地球軍に苦しめられ続けられる。そんなこと、許せるか。 シンが思ったときだ。 「……あれは……」 視界の隅に、木陰に身を隠しながら進んでいく人影を発見してしまう。 その姿から判断して、彼等はあそこで働かせている人たちの家族なのではないか。シンにはそう思えた。 おそらく、こちらに意識が向いている間に家族を助け出すのだ。彼等はそう考えたのだろう。 だが、彼等の手にあるのは農具や何かと言った身近にあるものだけだ。それで、地球軍の兵士達が持っている武器に太刀打ちができるはずがない。最悪、犬死にになるのではないか、とも思える。 「見捨てられるかよ!」 家族を守ろうとする人たちを……とシンは呟く。 それが、シホから命じられた内容を大きく逸脱しているのはわかっていた。 わかっていてもやらなければいけないことがあるだろう。その結果、罰を与えられてもかまわない、とシンは考える。 シンはインパルスをわざと敵に見つかるように基地に近づけていく。 当然のように、基地はパニックに陥った。それでも、何とかインパルスに向かって攻撃を仕掛けてくる。しかし、連中が今使っている武器では機体に損傷を与えることも難しいだろう。 それでも自分を攻撃してくるのは、やはりここを守らなければいけないと判断しているからだ。 インパルスに地球軍の視線が集中していることに気づいたのか。 人々はまっすぐに家族の元へと駆け出していく。 「……フェンスが邪魔なのか……」 しかし、家族が直接、触れあうことはできないらしい。それが、周囲を覆っている金網のせいだ、と言うことはシンにもわかった。 「危ない!」 中には焦れたのだろう。フェンスを乗り越えようとしている者達の姿も確認できた。だが、それは危険も伴う行為である。 「やめろ!」 銃声とともに、数名の人影が力を失って落ちていく。 それをやめさせたくて、シンはさらに彼等をねらっている者達へと照準を合わせた。 |