検診が終わったところで、キラは衣服と整えていく。そんな彼女をフレイと看護兵が手伝ってくれた。 「取りあえず、心配はいらないようだが……」 モニターを見つめていた医師が口を開く。 「あまり無理はしないように。もっとも、今回はそうしてもらわなければいけない状況だったわけだが」 医師としてはあまり許可したくはないな……と付け加える。 「ともかく、二、三日は部屋で安静にしていること。検診の方は、私の方から出向かせて頂くから」 暗に部屋から出るな……と彼は言いたいらしい。 「わかりました。あたしが見張っています、キラは」 でも、艦のクルーまでは無理だ……とフレイが口にする。特に整備クルーが不安だと告げれば、彼も納得したらしい。 「そちらに関しては私の方からも注意をしておくよ」 ドクターストップをかけておけば、彼等にしてもうかつなことはしないだろう、とドクターは確約する。 「お願いします。でないと、何をしでかすかわからないですから、キラは」 頼まれればいやといえない性格を取りあえず何とかして欲しいわ……とフレイがため息をついた。 「フレイ……あのね……」 「何?」 「……あのね、のど乾いたんだけど……談話室にも食堂にも寄っちゃダメなんだよね?」 本当にいいたかったのはこんなセリフではない。しかし、それを今のフレイに告げればどうなるかぐらいはキラにもわかる。だから、その代わりにこう言ったのだ。 「それくらいなら……かまわないと思うけど……」 問題はクルーよねぇ……とフレイはため息をつく。 「これがレセップスかアークエンジェル、でなきゃ、ゴンドアナだったら話は簡単なのよ。信頼できそうな人達がいるし、側で番犬代わりをしてくれる人もいるのに」 その《番犬》というのは何なのか。キラは思わず心の中でつっこんでしまう。 「でも、ここで信頼できそうな人って……いる?」 ドクター達はまだお忙しいだろうし、とフレイ付け加えた。そのままキラへと視線を向けてくる。 「多分、だけど……」 その視線に小首をかしげることで答えながら、キラは口を開く。 「レイ君は、信じても大丈夫だ、と思うんだ。クルーゼ隊長さんとデュランダル議長の両方の知り合いだし……クルーゼ隊長さんは、わざわざ紹介をしてくれたから」 それは彼が信頼をしていると言うことだろう、と付け加える。そして、クルーゼはバルトフェルド達とは微妙に意味合いが違うが、それでもキラの中では無条件で信頼してもかまわないと思える人物として位置づけられているのだ。 微妙な感情だろうが、フレイも同じ印象を彼に抱いているのだろう。 「クルーゼ隊長さんのお墨付きなら、大丈夫なのかしら」 でも、本当なら誰か知っている人が側にいてくれるのが一番いいんだけど……と彼女はため息をつく。 「さすがにそれはね」 「すぐに来てって言える距離じゃないものね」 プラント本国かでなければザフトの支配地域であればそれも可能だろうが、現状では不可能だ。 「それに、レイ君もお仕事あるんじゃないかと思うんだよね」 戦闘が終了したばかりでも、パイロットにはそれなりの仕事があるはずなのだ。特に、機体に関わることは……とキラは口にする。 「……難しい話よね」 戦闘中の戦艦での暮らしはフレイもよく知っていた。だから、あっさりと頷いてみせる。 「それでも、声をかけてみよう。うまくいけば、休憩中かもしれないからね」 休憩中であれば、彼が二人と一緒にいても誰も何も言わないだろう、と彼は頷いた。 「艦長にも声をかけておくから、心配はいらないよ」 ここまでいわれては、断る理由はない。 「お願いします」 しかし、キラが口を開くよりも早くフレイがこういった。 「もちろんだよ」 ドクターも笑いながら頷いてみせる。 「……だから、どうして僕を蚊帳の外に置いておいてフレイが決めちゃうのかな」 当事者は自分なのに……とキラは呟く。 「だって、あんた、グルグル悩むじゃない」 それだったら、自分が決めた方が時間的に無駄がないだろう、とフレイは言い切る。 「それに、あんたにはもっと他のことを考えてもらいたいし」 だから気にしないの! と言われても納得できない。 「……でも……」 「いいの!」 それで、とフレイは声のトーンを高くする。 「あんたやあの銀色こけしだけじゃなく、みんながあんた達の子供が生まれるのを待っているの! だから、あんたはそのことを優先すればいいだけ」 他の雑事は自分が引き受けるから……とフレイは微笑む。 「あたしは、そのためにあんたと一緒にいるんだもの」 その権利は、他の誰にも渡さない……と彼女は言い切った。 「だから、あんたはまず、お腹の子供のことを考えなさいって」 いいわね、と言われて、キラは反射的に首を縦に振ってしまう。 「と言うことで、この話はこれで終わり」 さらに笑みを鮮やかなものに変えるとフレイは会話を終わらせる。 「と言うことですので、ドクター」 「わかっているよ。まずは艦長に声をかけるから」 それまではそこでゆっくりとしていたまえ、と彼はキラに声をかけてきた。少しでも体を休めるように、と付け加える。 「あぁ。もし食べられるようなら、軽く何かつまむように」 母体のためではなくお腹の中の子供のために……とドクターは告げた。 「食べられるものでかまわないが……そうだね、乳製品か何かがいいだろう」 カルシウムとタンパク質を少し多めに取った方が良さそうだね……といわれて、キラは首を反対側にひねった。そう言われても、何を食べればいいのかすぐに思い浮かばなかったのだ。 「ヨーグルトなら食べられるんじゃない?」 しかし、フレイは即座にキラの好みの食べ物の中から必要なものをチョイスしたらしい。こう言ってくる。 「後は……って、ここがオーブならあれこれ作ってもらえたのにね」 カリダさんはお料理が上手だったから、とため息をつく。 「仕方がないよ、それは」 戦艦だし……とキラは苦笑を浮かべた。 「味よりも栄養価の方が重要だからね、戦艦では」 それについても、配慮をしてもらえるようにしておこう……と彼は苦笑を浮かべる。 「お願いします!」 「だから、フレイ……」 どうしてこうなのか……とキラは盛大にため息をついて見せた。 |