「……あんたねぇ……」
 怒りを隠しきれないというフレイの表情を見て、キラは反射的に首をすくめる。
「ごめん、フレイ……」
 でも、と彼女は言葉を続けた。
「あのままだと、みんな、死んでしまいそうだったから……」
 だから、つい手を出してしまったのだ。キラはそう告げる。
「それについては怒ってないわよ、別段!」
 それは嘘だ、とキラは心の中で呟く。現実に今自分を怒鳴りつけているではないか、と心の中で呟く。しかし、それを指摘すると、彼女の怒りに油を注ぐことになってしまうことは経験から知っていた。
「問題なのは、あんたがシミュレーターに乗り込んだってことよ!」
 自分が妊婦だって、わかっているの! とフレイはさらに詰め寄ってくる。
「……あのだな、フレイさん……」
 フレイのあまりな剣幕に、さすがにキラが気の毒になったのか。エイブスが声をかけてくる。
「うるさい!」
 しかし、フレイは一刀両断に彼の言葉を切り捨てた。
 これは本気でまずい、とキラは思う。同時に、彼女の瞳に涙が浮かんでしまった。
「キラ……あんたねぇ……」
 これが予想外の効果を彼女に与えたのだろうか。フレイは小さなため息をつく。
「……フレイ……」
「何も泣くことはないでしょう……」
 まったく、あんたは……と言いながら、フレイはキラの涙を指先でぬぐってくれる。
「でもね。あんたのお腹の中にいる子供に万が一のことがあったら、悲しむのはあんただけじゃないのよ」
 キラの子供が生まれるのを楽しみにしていたみんなが悲しむのだ、と言われてしまえば納得するしかない。
「……わかってるよ、フレイ……でも、そのためには、僕たちが生き残ることが優先でしょう?」
「それもわかっているから、頭に来ているんじゃないの!」
 自分たちが生き残るためにキラに重荷を背負わせてしまう。今も昔もそれが変わらない、という事実が頭に来るのだ、とフレイは口にする。
「ついでに、キラに頼らなきゃならないこの艦の連中にも頭が来るわよ!」
 彼等がもっとしっかりとしていれば、キラが手を貸さなくてもすんだのではないのか! とフレイは部屋の隅にいる者達に視線を向けた。
「……耳が痛いわね、それに関しては……」
 確かに、自分たちの経験不足のせいでキラに負担をかけてしまったのは事実だ、とタリアは素直に認める。
「今後はできるだけそのようなことはないようにつとめる、と言うことで、今は許して頂けないかしら」
 この言葉に、フレイはすっと目を細めた。
「あたしはいいですよ、あたしは」
 別段、それでも……と彼女はかすかに声のトーンを下げると言葉をつづる。
「フレイ……」
 ちょっと待って……とキラは慌てて彼女を止めようとした。しかし、今の彼女がその程度で止まってくれるはずがない。
「ただし、キラに何かあった場合、暴走するのはあたしだけじゃないですからね!」
 はっきり言って、地球軍よりも厄介で恐い人たちが暴走することは目に見えている! とフレイは言い切る。
「イザークはもちろん、エザリア様にラクスにお義父さんに、アイシャに……あぁ、カガリ達もそうよね。もちろん、アークエンジェルのみんなもそうだわ」
 こう言って、フレイは思いついたメンバーを口にし始めた。
「……ついでに、一番厄介なあれも動くわよ」
 そうなったら、ミネルバがザフトに追い回されるかもしれない、ととんでもないセリフをフレイは告げる。
「フレイ、大げさだよ、それは……」
「大げさじゃないわよ! エザリア様なんて、そうなったらご自分で押しかけてくるわよ!」
 はっきり言って、それに関してはキラも否定できない。
「だから……次からはそうならないように気を付ける。シミュレーターにはもう乗らないから……ね?」
 それで許して、とキラは懇願する。そんな彼女たちを見つめながら、タリアとエイブスは冷や汗を浮かべていた。