ふっと、意識が戻る。 「キラ?」 その瞬間、いつものようにフレイが顔を覗き込んできた。そんな彼女の仕草が、キラを安心させてくれる。 「どうしたの? 泣いてたなんて……」 怖い夢でも見たの? といいながら、フレイはキラの頬を優しくぬぐってくれた。 「夢……見ていたのかな?」 よく覚えていない……とキラは口にする。 「覚えていないなら、かまわないわよ。特に、嫌な夢なら、ね」 それよりも汗をかいたでしょう? 体を拭いて上げる……とフレイは微笑む。それにキラは一瞬ためらうような表情を作った。 「シャワーは、だめだよね、やっぱり」 体もそうだが、髪も洗いたいと思ってしまったのだ。 「……まだね。明日なら許可してもらえるんじゃないかしら」 もちろん、一人では無理だろうが、とフレイは付け加える。それに関しては、仕方がないだろうと思うし、諦めるしかないこともわかっていた。 「でも、髪の毛なら何とかして上げるわ」 工夫すれば洗って上げられると思う……とフレイは口にしてくれる。その気持ちはとても嬉しい。 「ゴメン……迷惑かけて」 だが、結局手間をかけさせてしまっているのではないか、とキラは思うのだ。 「だから、そうやってすぐに謝る癖はやめなさいって」 嫌なことは、どんなに頼まれてもしないって……とフレイは笑い飛ばす。それが彼女らしくて、キラもつられたように微笑む。 「そうそう。感謝をしてくれているなら、謝るよりも笑っていてよ」 その方がうれしいから……とフレイはキラの頬を軽く叩く。そのまま彼女は立ち上がった。 「フレイ?」 「ちょっと待ってて。今、アイシャさんに声をかけるから」 バルトフェルドと端末で話をしているのだ、とフレイはキラに教えてくれた。 「バルトフェルドさんと? だったら、終わるまで待った方がいいんじゃない?」 何か大切な話をしているかもしれないから……とキラは付け加える。 「大丈夫よ。キラの容態を教えて欲しいって言うことだったし、気がついたことを教えて上げないと、心配している人もいるようだもの」 特に、あの銀髪が……とフレイは笑った。でないと、体を拭いているときに飛び込んでくるかもしれない、と。 「……フレイって、どうしてイザークさんの名前を素直に口にしたりしなかったりするんだろうね」 普通に口にすることもあるのに、どうしてだろう……とキラは今更ながら疑問に思ってしまった。 「そんなの、決まっているじゃない! あいつがキラの側にいるのは気に入らないけど、存在を認めないわけにはいかないからよ!」 キラが嫌いでないんだから……とフレイが吐き出す。 「フレイ」 「だって、キラが誰かを好きになることまで止められないじゃない」 自分が誰かを好きになると言う気持ちを止められないんだから……とフレイは口にする。 「だからね。キラがあの男を好きなら、認めて上げなきゃならないでしょ。でも、あいつがしてきたことをまだ完全に許せないんだもの」 仕方がないことだとわかっていても、感情が付いていかないのだ……と言う彼女の気持ちもキラには理解できた。それは、ストライクで自分が誰かを傷つけるたびに心の中で呟いていた言葉でもあるのだから。 「そう、だね」 そうできないから、戦争なんて起こっちゃったんだろうし……と言う言葉をキラは飲み込む。 「でも、お願いだから、あんまり変な呼び方はしないであげてね」 その代わりというようにキラはこう口にする。 「わかっているわよ」 じゃ、少し待っていてね……とフレイは言い残すとそのままキラから離れていく。その後ろ姿を見送った後、キラはまた瞳を閉じた。 「そうか……意識が戻ったか」 フレイの言葉を耳にして、バルトフェルドは安堵の表情を作る。 『でも、まだ疲れているようで、すぐに寝ちゃいました』 だから、絶対にキラの側で騒がしくするようなことだけはさせないで欲しい……とフレイは付け加えてきた。 「わかっているよ。心配しなくていい」 ともかく、キラを不安にさせないようにしてくれ……とバルトフェルドが言葉を返せば、フレイはしっかりと頷き返す。 「では、そちらに関しては任せてかまわないね?」 こちらはもう少し話し合いが残っているから……と言うと同時に彼は通話を終わらせた。そのまま、背後を振り向く。その時には、もう表情は一変していた。 「さて……」 先ほどの続きをしようか。こう口にしながら、彼は再び少年達を見つめる。 「今の彼女の言動が、演技だ……と思うかね?」 それ以前の、キラとの会話も含めて……と言う言葉に、アスランを除く三人は即座に首を左右に振って見せた――自分たちが聞いていると知っていれば演技もするかもしれないが、実際には盗撮をしている状況なのだ。後で彼女が知れば、どれだけ怒り狂うかわかったものではないだろうとバルトフェルドは心の中で付け加える――彼らの目にも、フレイの言動は本心からのものだ、と理解できたらしい。 だが、肝心のアスランだけは何の反応も返してこなかった。 ただ黙って、今は何の映像も映されていないモニターを睨み付けている。 それは、決して彼が現状を認められないからではないだろう、とバルトフェルドは思っていた。 認めたくないとは思っていても、否定しきれないからこそ、彼は何も言わないのではないか。 今までの彼であれば、即座に大声で否定をするに決まっているからだ。 彼の中で、間違いなく葛藤が生まれている。 それをどうすればよい方向へと導いてやれるだろう。 バルトフェルドは心の中でそう呟く。だが、迂闊に手を出せば逆の方向に転ぶことは分かり切っている。 「あれが、私が目にしたナチュラル達の彼女への態度だよ。まぁ、彼女の場合、かなり過保護だと言えるかもしれないが」 キラの現在の様子を考えれば仕方がないだろう……とバルトフェルドは付け加えた。自分たちでさえ、彼女に関しては過保護だと言い切れると自覚しているのだ。 「ともかく、先ほどの影響は少ない……と言うことだけは喜ばしい事実だが、まだ楽観は出来ない。許可が出るまで、彼女たちがいる一角への立ち入りを禁止する。かまわないな、アスラン・ザラ」 だが、これだけは釘を刺しておかなければならない。そう判断をして、バルトフェルドはこう声をかける。 「……わかっております……」 固い声で、アスランがこう言い返してきた。 その言葉を信頼すべきか……とバルトフェルドは一瞬悩む。だが、それ以上の言葉を彼にかけることはなかった。 と言うわけで、後はラストパートに突入するだけです。と言っても、まだまだ続きそうな気がしないわけでもないですねぇ……明確な形で決着が付くのか、だんだん不安になってきました。アスラン、納得してないし…… |