一体どうして……とアスランは思う。
 ザフトの中でも中核をになっているのでは……という名将と、そして共にエリートと呼ばれている者たちがみな、そろいもそろってナチュラルごときに肩入れしているのか。その理由がわからない。
 そして、一番わからないのは《キラ》だ。
 彼――今は彼女か――がナチュラルを擁護したい理由はわかる。彼女の周囲にいたのは、あの日からナチュラルばかりだったのだろう。そんな者たちを否定しては生活できなかったに決まっている。
 それ以前に、キラのご両親はナチュラルだから。
 だから、目の前にいる者たちほどナチュラルにこだわっても気にならない。
 いや、そう言うところも愛しいと言えるかもしれなかった。
 ただ一つ文句があるとすれば、どうして自分の手を取ってくれないのか……という一点だけである。
 今のキラは、どう見ても自分よりもあの女やイザークの方を信頼しているように見えるのだ。
「……アスラン・ザラ……人の話を聞いているのか、君は」
 バルトフェルドの苛立たしげな声が彼の耳に届いたのはその時だ。
「もちろんです」
「それにしては、私の質問に返答がなかったが?」
 彼の言葉にイヤミが含まれている……という事実をアスランが気がつかないわけがない。
「どうして、バルトフェルド隊長がそこまでナチュラル共に思い入れなさるのか、その理由を考えておりましたので」
 それがわからないから返答が出来なかったのだ、とアスランは言い返す。
「では、質問の内容を変えよう」
 バルトフェルドが言葉と共にアスランを睨み付けた。
「どうしたら、この戦争は終わると思う?」
 次の瞬間、彼の唇から飛び出したのはアスランが予想していた以上の問いかけだった。
「戦争には時間制限も、得点もない。なら、どうやって勝ち負けを決める? 何処で終わりにすればいい?」
 それに答えられる者が果たしているだろうか。
 いや、その答えを見つけられていれば、既にこの戦争は終わっていたに決まっている。誰も見つけられないから、こうしてだらだらと続いているのではないだろうか。
「敵である者を、全て滅ぼして……かね?」
 アスランが答えを見つけられないまま、唇をかみしめていれば、バルトフェルドがさらに言葉を重ねてくる。
 確かに、それは真実だろう。
 だが、そのようなことをした場合、コーディネイターに待っているのは緩やかな滅亡だけではないか。その程度の自覚はアスランにもある。
「……それは、いくら何でも不可能でしょう。それに、我々に協力的なナチュラルまで滅ぼす必要はないと考えます」
「だが、君はそうしようとしていたのではないかな?」
 アスランの答えに、バルトフェルドは即座にこう突っ込んでくる。
「と、おっしゃいますと?」
 一体何処をどう考えれば、そんな結論が導き出せるというのだろう。アスランは本気で疑問に思う。
「敵……と言う言葉を《キラ・ヤマトの周囲にいる者》と言い換えればどうかな?」
 君は、彼女の側から自分以外の存在を排除しようとはしていないか……とバルトフェルドはさらに言葉を重ねてくる。
「それは……キラにとって奴らの存在はマイナスでしかないからです」
 だが、殺そうとまでは思っていない……とアスランは言い返す。
「……マジ、何処に目を付けているんだか」
 その瞬間だ。黙って成り行きを見ていたディアッカがこんなセリフを呟いたのは。
「ディアッカ」
 ニコルが即座に彼を押しとどめようとする。いや、それとも彼の言葉の意味を問いかけようとしたのか。
「フレイ――あの赤毛のお嬢ちゃんな――がいるから、イザークのお姫様は何とか生きようって言う気力を保っているのさ。あぁ、後、他の連中との約束もあるか。それがなければ、どんなに俺達が彼女を助けてやりたいって思ったって無駄だったろうな。それ以前に、足つきの奴らが俺達に頭を下げてこなけりゃ、ここに彼女がいないって」
 知らないまま戦って、今頃は死んでいたかもしれない。ディアッカはニコルにこう言い返す。
「……ですが……それは……」
「イザークにも聞いてみな。ここにいたのは足つきの連中の中でも《エンデュミオンの鷹》とフレイ嬢ちゃんだけだったが、あの二人がどれだけ献身的にキラを守ろうとしていたのか、あいつだって見ていたぜ」
 だからこそ、あのイザークが自分の主義主張を変えたのだ……とディアッカは付け加える。
「あちらにしても同じだったようだがな。その中心にいたのが《キラ・ヤマト》だ」
 そんな彼女の存在を否定することは出来ない。そう言いきるディアッカに、アスランは憎々しいものを感じてしまう。
「だが、それが奴らの保身だと言い切れないだろう」
 アスランは即座にこう言い返す。
「お前は本当に……」
 ディアッカが呆れたように視線を向けて来た瞬間だ。
 ドアが勢いよく開かれる。
 そして飛び込んできたのは、もちろんイザークだった。




今回は、故意に本編のセリフを使っています。まったく状況は違うのですがね。アスランにまずジャブを(^_^;