目を開いた瞬間、キラの瞳に飛び込んできたのは見覚えがある天井だった。 「……キラ?」 そして、フレイの声が耳に届く。 「フレイ……」 どうしてここに……とキラは問いかけようとする。と言うよりも、どうして自分がここにいるのだろうか、と思ったのだ。 先ほどまで自分は、アスランといたはずなのに……と。 「しゃべんないの。みんながキラを捜していて、イザークが熱があるってここに運んでくれたの」 だから、何も心配しなくていいのだ……と言われてもキラには納得が出来ない。アスランがどうなったのか、そして、イザークがどうしているのか気にかかるのだ。 「……あのばかについては後でバルトフェルドさんが教えてくれると思うわ。で、あいつなら外よ」 ドアの前で仁王立ちになっている……とフレイは苦笑を浮かべる。 「会いたいなら、呼ぶわよ?」 どうする、とさらに付け加えられて、キラは反射的に頷き返してしまった。そんな行動を自分が取った、と自覚した次の瞬間、キラは呆然としてしまう。 「……何で……」 自分はそんな行動取ってしまったのだろうか、と。 「あんたが会いたいって思っているからでしょ。今、呼んできて上げるから、大人しくしているのよ?」 いいわね、と微笑みかけると同時にフレイはキラから離れていく。その後ろ姿を見送りながら、キラはフレイの言葉の意味を考えてしまう。 「僕が……イザークさんに会いたがっている?」 確かにそうかもしれない。 だが、どうして……ともキラは考えてしまうのだ。 「アスランよりもイザークさんを優先してしまっているって事、だよね」 アスランは大切な幼なじみで親友で……それは今も変わっていない、と思う。いや、キラの中で彼はその地位を確固たるものとしていると言うべきか。 では、イザークは。 彼は自分の中でどのような存在だ、と言うのだろうか。 いつも側にいてくれるフレイとも彼は違う。それでも、側にいてもらえれば、どこか安心できるのだ――一時はあんなに憎しみ合っていた、と言っていいのに――そう感じるようになったのも本当にいつからなのだろう……とキラが本気で考えようとしたときである。 「何を考えている?」 そんなキラの上に、柔らかな声が降って来た。それが誰のものであるかなど、確認しなくてもわかってしまう。 「イザークさん」 キラは一時的にそれまでの考えを意識の奧へと押しやる。 「何でも、ないです」 そして、微かに微笑むとこう言い返す。だが、イザークは小さくため息を返してくる。 「そう見えないから、聞いているんだろうが」 ごまかせると思ったのか? と言う彼の言葉にキラは小さく頷く。 「本当にお前は」 呆れたようにこう呟きながら、イザークはキラが眠っているベッドの脇に置かれたいすへと腰を下ろす。 「そうやって余計なことを考え込むから、お前はいつまで経ってもストレスが消えないんだぞ」 こう言いながら、イザークはキラの頬へと優しく触れてきた。 「思っていることを口に出してみろ。答えを教えてやれなくても、お前が吐き出した言葉ぐらいなら受け止めてられるぞ」 その方が、気持ちが軽くなるはずだ……とイザークは付け加えながら、キラの頬を優しく撫でてくれる。その指の感触が心地よくて、キラはほっとため息をつく。同時に、どうしようか、と本気で考えてしまった。 彼らの言動から、イザークとアスランはかなり仲が悪かったらしいと推測できるし…… だが、決してフレイには相談できないと言うこともまたわかっている。 「キラ……そんなに、俺は頼りないか?」 その時だ。イザークのこんなセリフがキラの耳に届く。 「……そんなこと、ないと思います」 それどころか、彼と同じかそれ以上に頼れる相手、と言われて真っ先に思い出せるのはフラガだ。そして、かつては……とキラは心の中で付け加える。 「だから、そこで言葉を飲み込むな……と言っているんだよ、俺もみんなも」 呆れたりしないから教えろ……とイザークは言葉を重ねた。 「……三年前、別れる前は……」 そんな彼の言葉に促されるようにキラは言葉をつづり出す。 「アスランは誰にでも優しくて……ナチュラルとコーディネイターの間で戦争なんか起きるわけがないって言ってくれたんだ。だから、みんな仲良く暮らせる日が来るって」 それなのに、ここで再会した彼は、キラの言葉に耳を貸してくれるどころか、別れてからの三年間を全て否定しようとしているように感じられる。その事実が、キラにはとても悲しい。そして、ナチュラルだろうとコーディネイターだろうと、同じ《人間》なのだから、分かり合える可能性はあると言うことを否定しないで欲しいとも思うのだ……と、ぽつぽつと口にした。 「僕が……アスランより、みんなを選んだから……アスランは……」 あんなに意固地になってしまったのだろうか……とキラは呟く。 「……それとも、おばさまがなくなられてしまったから……」 どちらなのだろうか、と思う。 もし、自分のせいなのであれば、一体どうすればいいのだろうか、とも。 「フレイやアイシャさん、それにみんなのことを認めて欲しい、とはまでは言わない。でも、頭から否定しないで欲しい……って思うんだ」 せめて、同じ《人間》だと認めて欲しい。 それだけが、キラの願いだと言ってもいいだろう。そうでなければ、何も始まらないのだから、と。 「……そうだな……」 イザークがそんなキラの言葉に同意を示してくれる。彼の立場からすれば、あるいはそれは認めがたい事実なのかもしれないのに、だ。その事実が、キラには嬉しかった。それは、先ほどのアスランの言動がキラの脳裏に焼き付いているからなのかもしれない。 「知らないと言うことと、真実を見ようとしないこと、そのどちらも罪なんだろうな」 イザークの指が頬からキラの髪の毛へと移動していく。そのまま、彼はキラの髪を玩ぶようにすき始めた。 「でなければ、いつまで経ってもこの戦争は終わらない。そして、戦争が終わったとしても、その火種を消すことは出来ない、と言うことだからな」 それでは、また新たな戦争を引き起こすと言うことでもある……というイザークの言葉に、キラは眉を寄せる。 「心配するな。少なくとも俺やディアッカ……それにバルトフェルド隊の連中は、そんな愚かな連中の仲間には入らない」 そして、本国にいるラクスも同じであろう……と彼は付け加えた。 「イザークさん」 不思議と、彼の言葉はすんなりとキラの中に滑り込んでくる――それが嬉しいと思えることでも、辛いと思えることでもだ――そして、キラの中にある不安を消してくれた。 「僕は……」 「お前はそのままでいい。そういうお前だからこそ、あいつや俺は惹かれているんだしな」 そしてあいつらも……と彼が飲み込んだ言葉が指し示す相手が誰なのか、キラにもわかってしまった。 「だから、お前は今のままでいろ」 俺が……俺達が守ってやるから、と言うイザークの言葉にキラは素直に頷くことが出来る。 「少し眠れ。次に起きたときには、もう少し良くなっているだろう……」 それが何を指しての言葉なのかわからない。 だが、イザークは嘘を言わない相手だ。だから……とキラは素直に瞳を閉じた。 キラのセリフが、この話の中で書きたかったセリフです。後二つぐらいあるかな? ともかく、これが書き終わったと言うことはあと一息だ、と言うことです。しかし、本当にどうしてここまで長くなったのか自分でもわかりません(^_^; |