「アスラン……お願いだから、僕の話をちゃんと聞いてよ!」 キラは自分を逃がさないようにとその腕の中に囲い込んでいる相手に向かってこう告げる。 「聞いているだろう?」 そんなキラに対して、彼は優しい笑顔と共に言葉を返してきた。 「それに、そう言うならキラも同じじゃないかな?」 自分の言うことを聞かずに友人達を守った挙句、こんなにぼろぼろになって……と彼は続ける。 「違う! 僕は……」 そう言うことを言っているわけじゃない、とキラは言葉を続けようとした。だが、最後まで言い切る前にアスランによってキラは言葉を遮られてしまう。 「キラは優しいから、どんな連中でも関わった人間を悪く言われるのはいやなんだよな?」 でも、自分の前ではそんな無理をしなくてもいいんだよ? とアスランは甘いと言っていい声で囁いてくる。だが、それはキラの望んでいる言葉ではない。むしろ、嫌悪すら感じられるのはどうしてなのか。 アスランが大切な親友だって言うのは間違いないのに……どうしてそんなことを考えてしまうのだろうか。キラはこの状態のままそんなことを考えてしまう。 「キラ、いい子だから。ゆっくりと考えてごらん?」 俺が間違ったことをキラに教えたことがあったか? と言うアスランの言葉は間違っていないのかもしれない。だが、それを認めることはキラには出来なかった。 「アスランは……僕の三年間を間違っていたって言うの?」 その代わりというように、自分がどんな思いでいたかも知らないくせに……とキラはアスランを睨み付ける。 だが、そんなキラの精一杯の抗議も、彼には意味を持たなかったらしい。 「そうは言っていないよ? 平和な場所であればかまわなかった。でも、戦時では連中は信用ならなかった。違うか?」 アスランはさらに笑みを深めるとこう囁いてきた。 「違う! みんな……みんな、僕のことを守ろうとしてくれたんだ……」 そして、そんな彼らを自分も守ってやりたかったんだ、とキラは言い返す。その目尻に知らず知らずのうちに涙がにじんでいた。 「それは、キラが連中にとって利用できる存在だったからじゃないのか?」 だが、アスランは何を言ってもこうして悪い方へとすり替えようとするのか。 「だから、どうしてそんな風に……」 話をすり替えようとするのか、とキラは口にする。 「すり替えてなんていないよ?」 本当のことだろう、アスランは言い切った。その口調からも、彼の表情からも、本気でそう考えているのだとキラにはわかってしまう。つまり、アスランはみんなが《ナチュラル》だからどうしても《悪意》を持ったまなざしで見つめてしまうのか、と。 「……ナチュラルは、ナチュラルはみんな悪なの?」 「そうは言っていない。おばさま達は違うってわかっているよ」 でも、あいつらは……とアスランは付け加える。 一体どう説明をすればいいのか。 一体どうすれば彼のこの頑ななまでの態度を打ち砕くことが出来るのか。 キラにはそれがわからない。 それでも、アスランの存在を切り捨てられないのは、キラの中にまだあの優しかった頃の彼の姿が焼き付いているからかもしれない。 「アスランは……みんなのことを知らないくせに……」 精一杯の不満の主張として、キラはこう呟いた。 「そうだな」 その言葉を、アスランはあっさりと認める。 「だが、キラだって知らないことがたくさんある。そう言うことだろう?」 だから、自分が真実を告げるのだ、と言うアスランに、キラの頬をまた涙が濡らした。 「あそこですね」 ニコルがこう囁いてくる。 「……いると思うか?」 ある意味、盲点とも言える場所だろう。だが、確実にキラがそこにいるのだろうか、とディアッカは疑問なのだ。アスランであれば、フェイクの一つや二つ、用意しておいてもおかしくはないだろう。その程度の信頼感――というとおかしいだろうが――は相手に対して抱いていた。 「いる」 だが、イザークはきっぱりと断言をする。 「何故、そう思うんですか?」 さすがにここまでイザークが言い切るとは思っていなかったのだろう。ニコルが目を丸くしながらこう問いかけた。 「トリィが、あそこに入りたがっているからだ」 イザークは彼の問いに視線を空に向けながらこう言葉を返す。その視線の先へと顔を向ければ、確かにキラが大切にしているペットロボットの姿を確認することが出来た。しかも、それはあの《アスラン》が別れの際、キラに渡したものだったという。 「トリィにはキラの位置を追尾するシステムが組み込まれているらしい。そのトリィがあそこに入りたがっているのであれば、キラがいるに決まっている。そうイザークが判断してもおかしくはないだろう。 「ってことは、問題は、アスランがどうしているかってことか」 キラの今の状態を知っている以上、彼がキラに《無体》な真似をしているとは考えられない――それは彼女の《死》とイコールだからだ――だが、彼女を追いつめている可能性はある。 キラから聞き出したあれこれから判断すれば、アスランの言動の一つ一つがキラの精神状態に大きく左右しているらしいことは簡単に想像できたのだ。 同時に、それと同じくらいの影響をイザークにも感じているらしいことにもディアッカは――いや、この隊にいる者たちはみな気づいていた。そして、それがキラにとって良い影響を与えるものではないかとも。 だからこそ――あのフレイですら――当人達に気づかせることなく、二人の間を少しでも近づけようかと画策していたのだ。 お互いが犯してしまった罪。 お互いがお互いを傷つけてしまった事実。 それすらも乗り越え、ゆっくりと歩み寄っていこうとしていた二人だからこそ、お互いがお互いの支えになってくれるだろう。 だが、アスランは違うのではないか。 あのラクスですら、アスランをキラに合わせないで欲しいと連絡を入れてきたのはつい先日のこと。 それが、今の状況を予想してのことであれば、彼女の慧眼には感心するしかないだろう。 「どうする?」 それら諸々の思いを一端振り切ろうとするかのように、ディアッカはイザークに問いかけた。 「中の様子が知りたい。あの状況では、アスランがあそこにトラップをしかけている可能性は低いだろうからな」 近づいても大丈夫であろう、とイザークは口にする。そして、実際に行動を開始したのだ、彼は。 「まったく……」 冷静なように見えてはいたが、実はかなりキていたのか……とディアッカはため息をつく。年がら年中キレまくっているように見える彼だが、本気でキレている時の彼は、触るのが怖いくらいにとぎすまされた空気を身にまとう。そして、それは今目の前の彼の全身を包み込んでいる空気と同じなのだ。 「バルトフェルド隊長達を待つって選択肢は、あいつにはないわけだな」 フォローが大変だ、とディアッカがぼやき半分に呟いた、その時である。 「アスラン! やめてっ!」 建物の中から耳になじんだ声が響いてきた。それは、叫びと言うよりは悲鳴と言った方が近いかもしれない。 「キラ!」 同時に、イザークが我を忘れたように建物のドアへと突進していった。 まだ踏み込んでいません。しかし、アスラン……キラが嘆く理由もよくわかります。でも、まだキライになれないのは過去の積み重ねがあるからでしょうか。イザーク、頑張れ。しかし、70回で終わるのは無理そうです、はい。と言うより、諦めました。 |