これだけの人数で探しているのに、キラ達の居場所は未だに見つからない。
「ったく……何処に隠れやがったんだ、あいつは……」
 ディアッカの苛立たしげな声がイザークの耳にも届く。だが、イザークはもっと別のことを心配していた。
「キラがあれを使わないとは……忘れているだけなのか……それとも、使えない状況にあるのか……」
 前者だったらばいい。だが、後者であれば……と心の中で呟いたときだ。
「トリィ」
 緑色の何かがイザークの視界を横切った。そう認識すると同時に、それは彼の肩へと舞い降りてくる。
「お前か」
 キラが大切にしているペットロボット。これも実はアスランが彼女に渡したものだったはず。だが、キラの話であれば、これにはキラを追尾するようなプログラムが組まれているという話だ、とイザークは思い出す。ならば、それを活用させて貰おうかとも。
「お前の主人は、今どこにいる? 教えてくれ」
 そしてこう問いかける。
 イザークの言葉に、トリィは、一瞬、何かを考え込むかのような仕草を見せた。だが、すぐに彼の肩から飛び上がる。
「イザーク?」
 その後を追いかけるように駆け出したイザークに、ディアッカが不審そうに声をかけてきた。
「あいつがキラの所まで案内してくれるかもしれない」
 こう返すと彼も納得したのか。ディアッカも彼の後を追いかけてくる。
「誰が作ったものでも、俺をキラの元に導いてくれるなら、かまわないさ」
 イザークはトリィの小さな姿を見失わないように注意しながらこう呟く。
 だが、同時に、どうしてアスランは……とも思わずにいられない。
 キラがイザークに教えてくれた、トリィを彼女に渡したときのアスランと、今のアスランはまるで別人だとしか思えないのだ。もっとも、イザークにしてみれば、今のアスランの方が《アスラン・ザラ》なのだが……しかし、それをキラに伝えて彼女の思い出を壊したくないと思っていたことも事実だ。
 今にしてみれば、その気持ちが裏目に出たのかもしれない。
 キラが信じる信じないは別にして、しっかりと知らせておくべきだったか……とイザークは唇をかみしめる。そうすれば、キラも少しは彼に警戒をしたかもしれない。それとも、そこまでしていても、今のアスランには無意味だったのだろうか。
「……俺の存在が、あいつを焦らせたのか?」
 キラが自分に好意を寄せてくれていることは、イザークでなくても共に過ごしている者たちには周知の事実だ。その間に、自分たちがどれだけ葛藤をしてきたかも、彼らは知っている。だからこそ、静かに見守ってくれているのだろう――もちろん、キラの体調も関係しているのだろうが――あのフレイですら、文句を言うもののイザークがキラに会うことを邪魔しないのだから。
 しかし、それがアスランには気に入らなかったのかもしれない。
「キラは、貴様の従属物ではない!」
 彼女には彼女なりの考えがある。
 そして、それを支えてくれた人々もいるのだ。
 それを否定することは今のイザークには出来なかった。
 だが、アスランは……と考えかけて、イザークは思考を断ちきる。これ以上、アスランへの怒りを募らせれば二人を発見したときに、自分でも何をしでかすかわからないのだ。それがキラにマイナスの影響を与えないとも限らない。
 一番優先すべきなのは、キラの安全。
 イザークは自分に言い聞かせるように心の中でそう呟いた。

 同じ頃、基地内で待機していたニコルは、端末に反応が出ていることに気がついた。
「ダコスタさん!」
 ニコルはとっさに、同様の理由でこの場に残っていたバルトフェルドの副官へと呼びかける。
「確認しました。隊長には私からも連絡をしますので!」
 イザーク達には頼む……と言う言葉に、ニコルは頷き返す。その方がいいだろうと判断してのことだ。
「ドクターの手配も」
「出来ている!」
 その点抜かりはない、とダコスタが叫び返してくる。
「では、イザークにもそのように伝えておきます」
 自分が口を挟むべき事柄ではないことと知っていながら、ニコルが問いかけたのはこういう理由からだ。
「安心させてやってくれ」
 それが彼にもわかったのだろう。ダコスタが言葉を返してきた。
「我々も、今の状況で彼女を失いたくないからな」
 一瞬の出来事で全てを覆されてしまったキラに、せめて新しい幸せを与えてやりたい……とダコスタは付け加える。それが、バルトフェルド隊の総意なのだろうか。しかし、それを確認する時間は今のニコルにはなかった。
 それよりも、早くイザークにキラの居場所を伝えたい。
 そして、アスランが愚行を犯す前に止めなければいけないだろう。
 キラの命はもちろん、その心を失うことになってしまっては後々後悔するのは彼なのだから、と。
「アスランの、キラさんへの思いがいけないとは思いませんが……今のやり方は間違いなくおかしいと思います」
 キラのことを考えるのであれば、その治療を優先させるべきではないか。同時に、彼女が誰を選ぶのかは、彼女自身の意思であって、他の誰かが強制すべきものではないではないか、とニコルは思っている。
 だからこそ、今のアスランの行動は正さなければならないと結論付けた。
「ともかく、それに関しても、キラさんを保護してからのことですね」
 最優先すべきなのはそれだろう。それからでも時間はあるのだから……とアスランに伝えても、彼は聞き入れてくれるだろうか。その不安はぬぐえない。しかし、それでは先に進めないこともまた事実なのではないか。
 ニコルは明確な答えを出せないまま、建物の外へと駆け出していった。そして、そのまま、この地に先に来ていた同僚達を探す。
 二人の姿は予想以上に簡単に見つかった。いや、むしろ、まだそこにいたのかと思わずにはいられない場所に彼らはいたのだ。
「イザーク!」
 そのうちの先頭を走っている相手の名を呼びながら、ニコルは二人に近づいていく。
「キラさんの居場所らしきものがわかりました」
 こう付け加えれば、二人の視線が一気にニコルへと集中した。
「何処だ」
 即座にイザークが問いかけてくる。
「こちらです。場所はわかっているのですが、僕には言葉で説明するのが難しいところなので……」
 案内します、と告げると同時に、ニコルは彼らの先頭に立つ。その理由がわかったのだろう。イザークもディアッカも文句を言う気配はない。
「……バルトフェルド隊長達には?」
「ダコスタさんが連絡をされるそうです。ただ、それよりも早く僕たちがキラさんを保護するべきだ、と判断しましたので」
 自分がこうして伝えに来たのだ、とニコルは言外に告げる。
「だな……あんなんでも、一応《同僚》だしな」
 自分たちの不始末は自分たちで何とかするべきだろう……とディアッカも頷く。
 しかし、ただ一人イザークだけはそんなニコルの言葉に返答を返してこなかった。



ようやく、キラの居場所がわかりましたね。と言うわけで、次回はイザーク達の反撃でしょうか。