バルトフェルドがものすごい表情で飛び込んでくる。 「アスラン・ザラは、何処にいる!」 そう認識した瞬間、彼はこう問いかけの言葉を口にした。その声に怒りが滲んでいたのはニコルの錯覚ではないだろう。 「彼は……」 だが、その理由を問いかけるよりも先に、ニコルはアスランのことを考える。 「……申し訳ありません。午後から一度も見かけておりません」 そして、この結論に達してしまった。 「そうか……」 この言葉を耳にした瞬間、バルトフェルドはさらに渋面を深める。 「あいつがどうかしたのですか?」 バルトフェルドの言動から、アスランが何かやらかしたのだろうと判断したのだろう。ディアッカがまじめな口調で問いかけた。その隣でイザークもまたゆらりと姿勢を直す。 「……アイシャ達に嘘の伝言を伝えさせ、二人が部屋を離れている隙にキラを連れ出したのだよ」 バルトフェルドがこうは来だした瞬間、イザークの表情が一気に悪化した。 「あいつ……キラを殺す気か……」 そして、うなるようにこう呟く。 「そこまでは考えていないと思うが……ようは、キラを説得しようって考えているだけだろう」 その機会を与えられなかったことと、タイムアップが目の前に迫ったせいでとうとう実力行使に出ただけだ、と言うディアッカの言葉にニコルも同意をする。 キラの体調を考えれば、そんな無謀な行動に出てはいけないのだ。 もし、彼女に何かをしたいというのであればその後からでもいいだろうとも、ニコルは考えてしまう。キラさえ生きていれば、その機会はいくらでもあるはずなのだ。 だが、それでも彼が行動を起こしたのは、ディアッカの言うとおりに自分たちがあちらに戻らなければならないから、だけだろうか。それ以外に、何か、アスランを彼らしくない行動に走らせたものがあるのではないかとニコルは思う。 「だから、と言って……許されることではありませんけどね」 ともかく、アスランを捜し出そう……とニコルは腰を上げた。 「……イザーク?」 真っ先に飛び出していくのではないか、と思われた彼は、意外なことに部屋の奥へと進んでいく。そして、彼が普段使っているパソコンを起動し始める。 「イザーク?」 何を……とディアッカがその手元を覗き込む。 「あいつには、万が一の時のために発信器を持たせてある。存在を思い出せば、きっと、使うはずだ」 そうすれば、すぐにでも迎えに行ってやれる……イザークは冷静のように見える。だが、それが必死に怒りを押し殺しているからだ……と言うことはニコルにはわかってしまった。本来であれば、すぐにでも探しに行きたいだろうと考えていることも。 「それは、そのパソコンでなければいけないのか?」 バルトフェルドがイザークに歩み寄りながら問いかけた。 「ここの端末でも確認できれば、君たちも自由に動けるのではないかね?」 もちろん、自分たちも……と彼は言外に告げる。 「そうできりゃ、キラが発信器の存在を思い出せなくても見つけてやれるかもしれないぞ」 ディアッカがバルトフェルドをフォローするかのように言葉を口にした。 「発信器自体は、本国の迷子用に使われているあれです。ですので、十分対処できると思いますが?」 イザークは二人に向かってこう言い返す。 「なら、指示を出そう」 そして、そのまま二人を捜しに行くか……と言う彼に、イザーク達は頷いてみせる。 「……僕も行きます」 そんな彼らに向かって、ニコルも声をかけた。 「あの男……」 やっぱり、あいつは……とフレイは怒りを隠せない。 「……よりにもよって、今のキラを連れ出すなんて……」 キラに万が一のことがあったらどうするつもりなのか、と思う。自分にとって残された数少ない大切だといえる存在なのに……と。 「落ち着きなさい、フレイちゃん」 そんなフレイの耳に、アイシャの優しい声が届く。 「でも!」 「焦ると、大切な手がかりを見逃すことになるかもしれないわよ。怒ることはいつでも出来るでしょ? まずは、キラちゃんを見つけることが大切」 違う? と言う彼女に、フレイは小さく頷いてみせる。確かに、今はキラを取り戻すことが最優先だろう。 「それに、ドクター達は既に待機してくれているし、もうじき、本国からのお医者様もいらっしゃるわ。だから、何があっても対処できる」 キラさえ確保できれば……とアイシャは付け加える。その彼女も、実は怒りを押し殺しているのだ、と言うことはフレイにも伝わってきていた。 「わかっています」 自分がまだ子供だからだろうか。それでも、怒りを抑えきれないのだ、とフレイは心の中で呟く。 「それに……彼がキラちゃんを害するために連れ出したわけではないのなら……最悪の事態だけは避けられると思うわ」 不意にアイシャがこんなセリフを口にする。 「……最悪の事態?」 それは何なのだろか、とフレイは思ってしまう。 「今のキラちゃんでは、本気で命に関わると知っているでしょうからね」 さらに付け加えられた言葉で、フレイにもアイシャが何を言いたいのかわかってしまった。 「そんなことしていたら、私があいつを殺してやります!」 例え、その後にどのような処罰が待っていてもかまわない、とフレイは付け加える。 「そう興奮しないの。貴方の声があの子達の耳に入れば、逃げられてしまうわ」 それでは、無駄足でしょう? と言われて、フレイは口をつぐむ。 そんなことになれば、キラの体にさらに負担がかる、と言うことなのだ。自分のせいでキラの体に支障が出てしまうのはいやだ、と言うのが彼女の本音だ。 「二人が見つかったら、ぶん殴ろうと何しようと、許可して上げるから」 二人ががりであれば、いくらコーディネイターでもそうそう逃げられないだろう、とアイシャは告げる。必要であれば、バルトフェルドに押さえつけさせればいいだろうとも。 「そうですね。そのくらいをしても鬱憤が晴れるとは思えませんけど、キラさえ無事に帰ってきてくれるなら妥協します」 たぶん、その無事な姿を見れば怒りよりも安堵の方が大きくなるだろう。 あるいは、キラの看病をする方が優先されてしまうかもしれない。 こんな事を考えながら、フレイは頷き返す。 「そうしましょ」 だから、少しでも早くキラを見つけよう……と彼女はまっすぐに前を見つめながら呟いた。 追いつめられていますね、アスラン……でも、本人がこの状況を知っても驚く気配はなさそうです(^_^; |