外的要因による性転換。 「体中の細胞を一から作り直したようなものだからね。彼女の体は、今、少しの刺激でも耐えられないのだよ。我々が状況を飲み込む前にMSを操縦し、そして、足つきからここに移動してきただけでもかなり危ない状況へと陥っていたからね」 だから、ここから移動させることは命の危険と紙一重なのだとバルトフェルドは告げた。 キラだけにその症状が出たのも、彼――今は彼女か――が第一世代だからだという。 あるいは、元々キラの遺伝子が不安定だったのかもしれない、とバルトフェルドは口にしていた。 「まぁ、昔からキラは女の子みたいに可愛らしかったから」 そうだったのかもしれない、とアスランは呟く。 「……それに、キラが女だというのであれば、好都合かもしれない……」 自分の側に縛り付けておくのに……と言う言葉は敢えて口に出さない。 だが、キラが女であれば、法的にも可能だろう。そして、一度手に入れてしまえば、誰の目にも触れさせないようにすることも出来る。 「そうすれば、もう誰もお前を傷つけることは出来ないよね」 そして、月にいた頃のように信頼しきった視線を自分に向けてくれるだろう。そう考えただけで、アスランはうっとりとした微笑みを口元に浮かべることが出来る。 あの頃の自分たちが望んでいた幸せ。それを取り戻すことが出来るに決まっているのだ。 しかし、今のままではそれは無理だろう。 キラの意識はアスラン以外に向けられているのではないか。 いや、間違いなくアスランにも向けられている。だが、それ以上にキラの心を占めている連中がいるのだ。 「……その前にあいつらから、キラを引き離さないと……」 しかも、早急に、だ。 正式にバルトフェルド隊に派遣されているイザーク達とは違い、自分とニコルは数日中にカーペンタリアへと戻らなければならない。 出来れば、その時にキラを連れ帰りたい……とも思う。不可能なのであれば、ザラ家の息がかかったものに彼女の世話をさせたいと。 「どう、すればいいかな」 イザークの方はある意味簡単だといえるかもしれない。 彼はMSのパイロットであり、そして足つきとストライクはまだ健在なのだ。なら、それを撃破するために必要だと言えば、彼だって異議を申し立てるわけにはいかないだろう。 となると、問題はあの女、ということになる。 アスランに食ってかかった、愚かなナチュラルの女。 そして、キラを自分から遠ざけた元凶でもある。 はっきり言って、この基地の中で一番気に入らない相手だ。 しかし、その一番気に入らない相手を、キラは思いきり信頼しているらしい。 それは、今まで親切にして貰ったからだろうか。それともキラが《男》だった頃に関係があったのか。さすがのアスランでも、そこまではわからない。 「キラは、優しいから……」 だが、今でのも彼女を振りきれないのは、きっとそのせいだ、とアスランは思う。 キラの美点でもあるそれが、こんなにも厄介な状況を引き起こすとは思わなかった……とアスランはため息をつく。 「……だから、もう、誰にもキラを利用されるようなことがないようにしないとね」 そのための方法をアスランは検討し始めた。 「……あの子、危険だわ」 アイシャがため息と共にこう告げる。 「あの子……というのは、アスラン・ザラのことかな?」 そんなアイシャに、バルトフェルドがこう問いかけてきた。 「そう。キラちゃんの幼なじみだ、と言うあの少年よ」 バルトフェルドに視線を移すことなく、彼女は言葉を返す。その瞳は、キラ達の部屋のドアを不安そうに見つめていた。 「まぁ、それは僕も同意見だけどね」 彼もまた、ドアから視線をそらすことなく言葉を口にする。 「間違いなく、キラ君を自分の掌に収めようと行動を起こすだろうな」 本人の意思を無視して……と告げる彼の口調は、どこかとげとげしい。それは、キラの状況を説明しても変わることはないアスランの態度に向けられたものなのだろうか。そこまではアイシャにもわからない。 「本当、彼は父君にそっくりだよ、あの強引さは」 さらに付け加えられた言葉の裏に隠されているのは、嫌悪だろうか。 「それがキラちゃんのためになるって言うなら、多少は妥協するけど……」 彼の様子では違うと、断言できる。 「……ともかく、彼女たちの周囲を信頼できるもので固めるようにしよう。幸か不幸か、今はレジスタンスもブルーコスモスも大人しいからね」 だから、人手はあるのだ……とバルトフェルドは苦笑を浮かべた。 「私も、出来る限り、彼女たちの側にいるわ。その方が貴方も安心でしょう?」 夜は貴方と一緒の方がいいんでしょうけど……とアイシャはからかうように、ようやくバルトフェルドへと視線を移した。 「アイシャ……君ね……」 「あら? 違うって言うの?」 くすくすと笑いながら、さらに言葉を重ねれば、バルトフェルドは小さくため息をつく。 「否定は出来ないが、それよりも優先しなければならないことがあるのであれば、妥協するしかないんじゃないのかな?」 優先順位を間違えてはいけないだろう……とバルトフェルドは言葉を返してきた。 「そして、君がそのつもりなら、僕も動かないわけにはいかないだろうね」 自分も出来うる限りの手を打とう、とバルトフェルドは口にする。 あるいは、その中には彼が今まで取りたがらなかった方法も含まれているのかもしれない。それほどまでに、今は《少女》になってしまったキラを彼は気に入っているのだろう。 「だから、大好きなのよね、貴方が」 そんな彼に向かって、アイシャは微笑みと共にこう告げた。 アスランの心中と他の面々の対処……と言うところでしょうか。次回はイザークとフレイの場合です(^_^; |