「お前さぁ……あの二人を邪魔したいのか? それとも、応援しているわけ?」
 歩きながらディアッカがフレイに問いかけてくる。
「仕方がないじゃない。キラが嬉しそうなんだから」
 邪魔したいけど、キラのかなしそうな表情は見たくないのだから妥協するしかないだろう……とフレイは言い返す。
「だからといって、認めたわけじゃないわよ!」
 自分は、キラの恋人としてイザークを認めていない、とフレイは主張をした。キラが喜ぶから、側にいることを許しているだけだ、と。
「わかってるって……そう怒鳴るな」
 お前の気持ちも……とディアッカはそんなフレイを落ち着かせようとするかのように言葉を口にする。
「何がわかっているっていうのよ」
 言ってみろ、とフレイは彼に詰め寄った。
 自分達――キラ――が戦争に巻き込まれてどんな気持ちでいたのか、本当にわかっているのか、と。自分達は彼らのように自分から望んで戦っていたわけじゃないのに、とフレイはまっすぐにディアッカに感情をぶつける。
「……それに関しては……あの時は正しいと思っていた……ってしか言いようがないし、お前らの状況を知らなかったから、てっきり乗っているのは地球軍の連中ばかりだ、とも思っていたんだよな、俺は」
 知っていたら、もう少し違った行動を取っていた……という彼に、フレイは不審そうな表情を作る。
「……知らなかった?」
 そして、こう呟く。
「俺達はな。本当に何も知らなかった」
 フレイの言葉の裏に潜んでいる《何か》に気がついたのだろう。ディアッカはさらに言葉を重ねてくる。
「ずっと、お前らを追いかけていたわけじゃないし……一度見失っているからな、俺達が乗っていた方の艦は」
 合流できたのは、第八艦隊とアークエンジェルが接触をする直前だった……と彼は告げた。
「あちらからは何の指示もなかったしな」
 こう付け加えられ瞬間、フレイの中で怒りが湧き上がってくる。
「って事はなに? あの子も、あの子を受け取った相手も、キラのことを誰にも告げなかったっていうわけ? そんな相手のために、キラがあんなに傷ついていたっていうわけ?」
 だとしたら、許せない……とフレイは思う。
 確かに、キラは立場上、ザフトと敵対することになってしまった。それは、自分たちを守ってくれていたからだし、そもそも、ヘリオポリスさえ攻撃されればそんなことにはならなかったはずだ。
 それでもキラは、あの少女を逃がした。その理由が《イージス》に乗っていた相手がキラの《親友》で、あの少女がその婚約者だったからだ、とカズイに教えられていた。
 それなのに、誰もアークエンジェルにヘリオポリスの民間人が乗っていると教えなかったのか……と。
「もう一人が誰のことか、だいたい想像が付いているし、あいつが何を考えているのかなんて知りたくもねぇが……そうだな、ラクス嬢に関してはフォローさせて貰うと、時間的に見て、彼女が本国にたどり着いた時期と俺達が第八艦隊に攻撃をしかけたときはほぼ同時のはずだ」
 だから、彼女がフレイ達のことを誰かに伝えようとしても手遅れだった可能性はある……とディアッカは告げた。あの時期、Nジャマーの影響で、本国との通信は非常に困難だったから、と。
「それにさ。ラクス嬢はキラのために今、本国であれこれ骨を折ってくれている。だから、キラがこれから罪に問われる可能性は少ないはずだ」
 それで相殺してくれというディアッカに、フレイは少しだけ怒りを収める。
「そうね……あの子に関しては、私もあれこれしたから、妥協するしかないわね」
 パパが殺された怒りで……とフレイは呟く。
「そうしてくれるとありがたいな」
 これからのために、とディアッカは笑いかけてきた。平然とそんな行動が取れるこの男は、実はとても懐が深い相手なのではないだろうか……とフレイは思う。それは彼が《コーディネイター》だから……ではなく、彼個人の人間としての資質だろう。それがわかる程度には、コーディネイターへの偏見がフレイの中で消えてきたことは事実だ。
「……と言うことは、許せないのはイージスのパイロット……って事かしら……」
 みんなの話を総合すれば、そいつがキラの存在を知っていたことは疑う余地がなさそうなのだ。それなのに、適切な対処を取ってくれなかった。だから……とフレイは心の中で呟く。
 もっとも、それをキラの前で口に出すことはもちろん、態度に出すことも出来ないことはフレイもわかっていた。
 そんなことをすれば、やはりキラは悲しむだろうから、と。
 どんな相手であっても、キラは『大切な友人だ』と今でも思っているらしいのだ。
「……まぁ、あれこれ複雑だよな、お互い」
 そんなフレイの気持ちを読みとったのだろうか。ディアッカがこう声をかけてくる。
「こうして、側にいれば誤解も解けるってもんだが」
 だからこそ……と言う言葉の後に続くべきセリフは飲み込まれた。
「そうね。少なくとも、あんたらに関しては妥協できるようになったもの、私も」
 あんなに、コーディネイターは憎いって思っていたのに……とフレイは呟く。特別なのは《キラ》だけで、他のコーディネイターはそうは思えないと信じていたのに、とも思う。
「そう言うものよ」
 今まで黙って二人の会話を聞いていたアイシャがさりげなく口を挟んでくる。
「私だって、コーディネイターなんていなくてもいいって思っていたのに、今はこういう状況だわ」
 アンディと出会わなければ、今でも地球軍にいたはずなんだけどね……と笑いながら告げられた言葉に、どう反応を返せばいいのか、フレイはわからない。
「……キラが幸せになれるなら、多少のことは妥協できるんだけど……」
 その代わりというように、こう呟く。
「それに関しては、イザークが間違いなく手を尽くすって」
「アンディもね」
 だから、何も心配することはないのだ、と左右からフレイの耳に言葉が届いた。
「わかっています。状況さえ許せば、少佐達だってそうしていたに決まっていますから」
 そして、オーブに戻った友人達も……とフレイは口にする。
 誰もが、キラの幸せを望んでいるのだ。
「だから、絶対にキラを幸せに出来る人間じゃなきゃ、渡す気にはならないの」
 誰よりも幸せになっても割らなければならない相手だから、とフレイは言い切る。自分にそれを納得させられれるだけの相手でなければ認められないのだ、と。
「……それもかなりきつい条件だが……俺達にはどうこう言えないんだよな」
 それだけのことをしてしまった以上……とディアッカが言い返してくる。
「まぁ、あの子の事に関しては、アンディが責任を取るっていっているし……少なくとも、身の安全だけなら私も保証してあげられるわね」
 ここにいる間は、もう、誰にも傷つけさせないから……とアイシャは微笑みをフレイに向けてきた。
「それに、貴方も側に付いていているんだもの。少なくとも、キラちゃんはかなり心強いはずよ」
 彼女が言えないようなことを、貴方が言う。それを他の者の耳に届いている、と言うことが……と言う言葉をどう判断すればいいのか、フレイは一瞬悩む。
 自分の言動が、キラを傷つけてきた事実をフレイはどうしても忘れられないのだ。
「それに……もう一つの問題の方は、イザーク君にがんばって貰うしかないでしょうね」
 少なくとも、キラの心の傷を少しでも癒すことに関しては……とアイシャが付け加える。
「もっとも、今の状況が続くのであれば……という過程での話だけど……」
 この言葉を耳にした瞬間、ディアッカがため息をつく。
「だよなぁ……あいつらが下りてきた以上、俺達も呼び戻される可能性があるってことだ」
 そして、それには逆らえないだろう……とディアッカは付け加えた。
「……あんたらがいなくなったら……キラは間違いなく寂しい思いをするわね」
 仕方がないことだ、とはわかっている。だから、キラは離れたくないと思っていてもそれを口にしないだろう。
「その時のことも、よ〜く考えてくように、あの銀髪には言っておきなさいよ」
 自分でも矛盾しているとはわかっている。それでも、キラのためなんだから……と思いながら、フレイは言葉を口にした。



実は、この話の中で一番成長しているのはフレイかもしれない……と勝手に思っています。次はイザークか、それともディアッカか……どっちでしょうねぇ。