結局、時間切れ……でアスラン達はアークエンジェルをのがしてしまった。その事実が気に入らない、とアスランは思う。 撃破までは行かなくても、その動きを止め、相手を拿捕するつもりだったのだ。 だが、どうしても基地から離れている自分たちの方が分が悪い。そして、ストライクはバックパックを換装すればバッテリーが更新できるのだ。 当初の設計目的の違い……と言ってしまえばそれまでなのだろうが、その事実が歯がゆい、とまで思ってしまう。 「ご苦労様でした、アスラン」 その時だ。ニコルの声が彼の耳に届く。 「ニコルもな」 即座に笑みを返しながら、アスランはようやく立ち上がった。 「……アスラン……」 そんなアスランに、ニコルがためらいがちに声をかけてくる。 「何だ?」 内心のいらだちを表に出すことなくアスランは彼に次の言葉を促した。 「ストライクの動き、変わったと思いませんか?」 ニコルのこの言葉に、アスランは反射的に頷き返す。彼もそう感じていたのだ。 キラであれば、間違いなく相手をロックしたとき、一瞬、ためらいのようなものが感じられた。だが、今日のストライクにはそれが感じられない。他にもいくつか自分たちが見知っているものとは違う《癖》のようなものが感じられた。 「ひょっとして、パイロットが変わったのでしょうか」 ふっとにニコルがこう呟く。 「……そうかもしれないな……」 少なくとも、地球に足つきが落ちる直前までは、ストライクのパイロットは《キラ》だったはずだ。と言うことは、降りてから何かあったのかもしれない。 ひょっとして……という思いもアスランの中で生まれる。 地球上に降りてきた……という安堵感から、連中がキラを《処分》したのではないか……と言う可能性がアスランの中に生じたのだ。 「だとすれば、奴らは……」 キラを《処分》した、と言うのか。 自分の手を振り払ってまで連中を守ろうとしたキラを…… 無意識のうちに、アスランは手近にあった壁を殴りつけていた。 「アスラン?」 どうしたのですか……とニコルが慌てて問いかけの言葉を口にする。 「あぁ、すまない。どうやら、今頃になってむかついてきたらしい」 先ほどの戦いの無様さに……とアスランは苦笑を返した。予想以上に自由に動くことが出来なかったから……とこう付け加えれば、ニコルは今の行動を納得してくれたようだ。 「それは僕も同じです」 自分も、そう動けなかった……とニコルは口にする。 「もっと自由に動けるものだ、と過信していたのでしょうね」 他の者たちの迷惑になったのではないか……とすらニコルは告げた。そこまで考えていなかったアスランは、それに苦笑を深めるだけだ。 「……あいつらはどうやっているんだろうな」 自分たちよりも先に落ちた二人は……とアスランは何気なく付け加える。 「さぁ……何とかしているとは思いますけど……」 連絡も寄越さないのだから……とニコルはどこか刺を含んだような口調で言葉を返してきた。もっとも、あちらで忙しいのかもしれないが……とも付け加えるあたり、彼はまだ二人を信用しているのかもしれない。 「……一度、顔を見に行くのもいいかもしれないな……確認したいこともあるし」 アスランの脳裏を、一瞬、キラの面影がよぎる。砂漠へ行けば、あるいは何か手がかりがあるのではないか。淡い期待とはわかっていながら、そう思わずにいられない。 「そうですね」 アスランの本心を知らないニコルは、どこかにこやかに頷き返してきた。 「そろそろ、外の空気も吸った方がいいのだろうが……」 キラの診察を終えたドクターが言葉を口にし始める。 「だが、自力で歩くことはまだ許可しない方が良さそうだね」 この矛盾する命題をどうすれば解決できるだろうか……と彼だけではなく、その場にいたアイシャやフレイも考え込んでしまう。 「……車いすを用意すればいいかしら」 アイシャは小首をかしげながらこう呟く。 「そうすれば、フレイちゃんでも、キラちゃんを外に連れ出せるわよね?」 二人の気分転換になるだろう……とアイシャは口にした。 「そうですね。そうしてくれれば、キラも楽しいわよね?」 敷地内であれば安全だろうし……とフレイはキラに微笑みかけた。そんなフレイに、キラは困ったような表情を作っている。 「でも……それじゃ、みんなの迷惑にならない?」 自分が外に出ることで警備その他に支障が出るのではないか……とキラは心配しているらしいのだ。 「大丈夫よ。フェンスの中なら。何なら、後で移動してかまわない範囲を教えて上げるわ」 彼らにも手伝って貰えばいいだろう……とアイシャは微笑む。それが誰のことを指しているのか、キラ達にもわかったのだろう。キラは微かに頬を染め、フレイは憮然とした表情を作っている。 どうやら、キラの中でイザークの存在が少しずつ大きくなっているらしい。それは目の前の少女にとってはいいことなのだろうが、もう一人にとっては面白くない、と言ったところなのか。だが、アイシャ個人としてはもちろんイザークを応援していることは否定できない。 「それとも、他の誰かにする?」 例えば、アンディとか……とさりげなく口にすれば、 「それはやめてください!」 キラが即座に反論を口にしてくる。 「そうですね。あの方じゃ、キラが緊張しすぎてだめだと思います」 フレイもまた、アイシャの言葉を否定した。 「なら、後はあの子しかいないわよ?」 他の者は皆、キラが緊張するだろう……とアイシャは口にする。彼ならば、いつもキラを抱きかかえて移動させているし……と言う言葉に、キラの頬がさらに赤く染まる。それは、彼女がイザークを意識している証拠だ、ということはアイシャにはお見通しだった。 いや、フレイもそのことは知っているのかもしれない。 「……妥協するしかないんでしょうね……」 だから、最終的には、彼女も折れるのだ。 それは、大好きな友達が恋し始めた瞬間、自分のことを顧みなくなってしまうのでは……という不安が引き起こした言動なのだ、と言うこともアイシャはわかっている。 「いい子ね、フレイちゃんも」 だから、微笑みを向けると、そうっとその気性を映した深紅の髪を撫でた。 「そう言うわけだから、彼を呼んできましょうね。後、アンディにも報告をしないと」 ついでにみんなでお茶をしましょう。こう言えば、二人はしっかりと頷いて見せた。 とうとう、奴が動き始めました。ほのぼの砂漠組に嵐が…… |