「……やはり、見つかったか……」
 ストライクのコクピットに滑り込みながら、フラガは呟く。
「まぁ、あいつのような奴はそうそういないからな」
 見逃してもらえるとは思っていなかった……というのは間違いのない本音だ。同時に、子供達をあの男に預けてきてよかったとも思う。
 少なくとも、巻き添えになるような形で乗り込んだこの艦と共に沈むことはない。
 そして、あの様子であれば、安全にオーブまで辿り着けるだろう。だから、自分たちが守ってやる必要はもうない。つまり、いつ死んでもかまわない――もちろん、そのつもりはさらさら無いが――と言うことでもある。
「……あいつのことだ……俺が死んだと知ったら、悲しむだろうな」
 最悪の場合、せっかく落ち着きつつある体調が一気に悪化するかもしれない。そうなれば、命に関わるだろう。もちろん、そんなことをさせないように彼らが配慮をするだろうが……
「と言うわけで、死ぬわけにはいかないんだよな」
 何も言わずに姿を消したのだ。それだけでもキラは心配をしているはず。そして、いつの日か、戦争が終わったときには、今回のことに関して謝罪をしに行かなければ……と思っていることもまた事実だ。
『少佐、異常なし、ですぜ』
 そんなことを考えていたフラガの耳にマードックの声が届く。
「了解」
 機体の方は彼に任せておけばいい。
 そして、キラが作ったOSはこの機体をメビウスゼロ以上に自分と一体化させてくれている。
 だから、大丈夫だ……とフラガは心の中で呟いた。
 自分は――自分たちはここで死ぬようなことはない。
 必ず、もう一度彼らに会えるのだ、と。
『フラガ少佐! 敵はディンです。他に、海中にグーンがいると思われますが……』
 確認が出来ない……とチャンドラが伝えてくる。
「わかった! まずは空中の連中を何とかする。下の奴らは頼むぞ!」
 今の自分では両方からの攻撃を避けることは難しい。ならば、どちらかに限定をして戦うしかないだろう。フラガはそう判断してこう口にする。
 同時に、出撃のための準備を始めた。
『了解です……何? イージス?』
 そんなフラガの耳に、驚愕を隠しきれない声が届く。
「まぁ、あの坊主らがいる以上、考えられる状況だよな。少なくとも、デュエルとバスターが出てこないことだけは感謝しねぇとな」
 それらはまだ、あの砂漠にいるはずだ。
 そして、その一人は《キラ》を守ろうとしている。だからといって、自分たちと戦わないと言うことではないのだが、今は出てこないとわかっていた。
「ストライク、出る!」
 言葉と共に、フラガはストライクを出撃させた。

「私は残るわよ!」
 言葉と共にフレイはキラに抱きつく。いや、しがみつくと言った方が正しいのだろうか。
「……キラは仕方がないが、どうしてお前まで……」
 そんな彼女に向かってカガリがあきれたように言葉を投げつけている。その彼女の背後ではアークエンジェルから来た子供達が不安そうな表情を浮かべていた。
「私までいなくなったら、誰がキラの面倒を見るのよ! その銀髪だってアイシャさんだって、仕事があるんでしょう? 四六時中、キラの側にいられないわ」
 彼女の言葉はもっともなものだ。そして、キラはかなり良くなってきたとは言え、まだ予断を許さない状況と言うこともまた事実である。誰かが側にいることが好ましいのだ。
「だけどだな……」
「それに、みんなと違って、私はパパもママもいないの! オーブに戻ったって一人なの! なら、キラと一緒にここにいた方がいいじゃない」
 少なくとも、そうすれば自分もキラも、ひとりぼっちじゃなくなるのだから……とフレイは主張する。
「……フレイ……」
 そんな彼女の態度に一番驚いているのはキラなのだろうか。
「でも、そうしたら、ザフトの人たちと一緒にいなきゃないんだよ?」
 いいの? とキラが彼女に問いかけている。
「キラがいればいいって言っているでしょう?」
 今の自分にとって一番大切なのはキラだ! とフレイは言い切った。その瞬間、サイが微妙な笑みを浮かべた、と言うことは、彼の方は彼女にそれなりの好意を持っている、と言うことだろう。
 しかし、フレイの言葉もまた真実を付いているのだ。
 キラにしてみれば、見知らぬ誰かが側にいるよりも、フレイがいてくれた方が安心できるだろうし、余計な気遣いもしなくてすむだろう。そして、彼女の体にすれば、その方がいいのは分かり切っている。
「……だがな。私はフラガ達に約束をしたんだ。お前達を無事にオーブに連れ帰るって」
 その中にはフレイの存在も入っている、とカガリは付け加えた。だが、彼女の言葉から先ほどまでの力が失われているのは、フレイの言葉を耳にしたからだろう。オーブにいっても一人ならば……と悩んでいるに決まっている。
「……フレイがキラの側にいてくれれば、安心できるのは事実だけど……」
 不意に今まで何かを考え込んでいたサイが口を開いた。
「でも、本当にここにいて安全なのか?」
 それはキラも同じだけどさ……と言われては、そろそろ口を挟まないわけにはいかないのではないか。バルトフェルドはそう判断をする。
「100%とは言えないかもしれないが、出来うる限り保証しよう」
「バルトフェルドさん」
 この言葉に、子供達は皆視線を向けてきた。
「キラ君はもちろん、彼女の顔も皆知っている。だから、ここでは安全が確保できるしね。それに、ここに攻撃をしかけてくるようなバカはそう、いないはずだ」
 だから安心して貰っていい、とバルトフェルドは笑みを浮かべた。
「フラガ氏にもそう約束をしているからね」  彼の信頼を打ち砕くようなことはしない……ときっぱりと言い切る。その時だ。
「キラとフレイのことをお願いします」
 サイがこう言って頭を下げてくる。
「俺達にとって、二人とも大切な存在なんです」
「元気になったキラとまた会えるって信じていますから……」
「……そうしたら、またあれこれやり直したいし……」
 サイの態度に促されたのだろうか。次々と他のメンバーもこう言ってくる。その様子は、バルトフェルドにとっても好ましいとしか言いようがないものだった。
「任せておきたまえ。状況が許すなら、連絡も取れるように努力しよう」
 だから、何も心配しなくて言い、と笑えば、子供達は安心したのだろうか。我先にとここに残ることを決めた二人に駆け寄っていく。そして、その華奢な体を抱きしめている。
「……砂漠の虎の高名、信用させて貰うからな」
 その中で一人、カガリだけはバルトフェルドを睨み付けたままだ。
「もちろんだとも。守ると決めた以上、全力を尽くさせて貰うよ。私も彼らも」
 言葉と共にバルトフェルドはそんな彼女から視線を移す。そこにはエリートの印である深紅の軍服を身にまとった少年達の姿がある。
「だから、君は君の役目を果たしたまえ」
「わかっている!」
 カガリのこの言葉が、子供達の別離の合図だった。



と言うわけで、アークエンジェルの事情とオコサマ達の別離、ですね。