激しい砂嵐が建物の外壁を叩いている。
 だが、それすらも今のキラは気にならない。
「……どうして……」
 みんながここにいるの? とキラは目を丸くする。そんなキラの言葉に、彼らは一様に視線を伏せた。
「フレイ……少佐は? どうして、カガリやキサカさんが一緒なの?」
 その表情に、キラはますます不安を感じてしまう。そして、矢継ぎ早に言葉を口にする。
「ねぇ……黙ってないで、教えてよ」
 言葉と共に、キラが毛布の上を叩く。その手を、脇から伸びてきた手がそうっと包み込んだ。
「教えてやれ」
 そして、イザークが静かな口調でこう言ったのがキラの耳にも届く。
「でなければ、こいつは自分で調べに行こうとするぞ。それが、どれだけ危険なことか、簡単に想像できるんじゃないのか?」
 特にお前は……とそのままイザークは視線をフレイへと向ける。自分よりもずっとキラの側にいたのだから、とも言われて、彼女は悔しそうに唇を咬んだ。だが、どう説明すればいいのか、彼女にもわからないらしい。口を開くことはない。
「フラガ達は……この砂嵐が続いている間にこの地を離れると言っていた。そうすれば、こいつらも『気がつかなかった』と言い訳できるからな」
 その代わりのように口を開いたのはカガリだった。
「……嘘……」
 嘘だよね……とキラは呟く。
 フラガが、自分を見捨てていくなんてあり得るわけがない、とも。
「残念だけど……本当だよ、キラ。少佐達はアラスカに行かなければならない。でも、ザフトの方で何かあったらしくて……キラが戻ってくるまで待てなくなったから……俺達が下ろされたのは、そうしないと、キラがもっと心配するからだって」
 意を決したような表情でサイが言葉を口にし始めた。
「……でも、キラのせいじゃないからってフラガ少佐は言ってた。戦争が終わったら、絶対に会いに来てくれるって言ってたから……馬鹿なことを考えちゃだめだからな」
 でないと、自分たちも悲しいから……と言いながら、サイがゆっくりとキラの瞳を覗き込んでくる。そして、一瞬ためらった後で、その頬に触れてきた。
「だから、さ。キラも信じてやれよ……」
「っていうか、キラが一番フラガ少佐を信じないといけないんじゃないのか?」
 サイに続けてトールも言葉を口にする。
「そうね。フラガ少佐が強いのはキラが一番よく知っているでしょう?」
「少佐が、そう簡単にやられるわけないわよ」
 そんな彼らの態度に枷が外れたのか。ミリアリアやフレイもまたキラに駆け寄るとこう言ってくる。そんな彼女たちに場を明け渡そうというのか。イザークがキラから離れていく。
 その仕草があまりに自然だったせいで、キラはすぐにはその事実に気がつかなかったほどだ。
「……で、みんなはどうするの?」
 ようやく、昼間のラクスの言葉の意味がわかった……と思いながらキラは新しい疑問を口にする。
「心配いらない。私が責任を持って連れて帰ってやる。でなければ、マリュー達の気遣いが無駄になるからな」
「カガリ?」
 どうして、そんなことが出来るのだろうか。その思いのまま、キラは彼女の顔を見つめた。
「私は……私の本当の名前はカガリ・ユラ・アスハ、だ」
 そんなキラに向かってカガリはこう宣言をする。その事実をサイ達は事前に知らされていたのだろう。平然とした表情を作っている。だが、この場で始めて聞かされたキラは信じられないと言う表情を彼女に向けた。  それはイザークも同じだったらしい。彼にしては珍しく驚愕の表情を露わにしている。だが、それもすぐに消えた。
「なるほど。だから、バルトフェルド隊長もそいつらのことは心配いらないとおっしゃったわけだ」
 そして、こう口にするとカガリに苦笑を向ける。
「俺は何も聞かなかったことにしておこう」
 そうすれば、知らぬ存ぜぬで通せるからな……と言いながら、イザークは歩き始めた。
「イザークさん?」
「後はお前達だけでゆっくり話をしろ。俺がいない方が気兼ねなく話が出来るだろうしな」
 食事時になったら呼びに来てやる……と言い残すと彼はそのまま部屋を出て行った。
「なんか……キラの王子様って感じよね、彼」
 その後ろ姿を見送りながら、ミリアリアが感激した、と言うように口にする。
「ミリィ! 何を言っているの? あれはキラをかっさらおうとする害虫なの!」
 即座にフレイが反論を返す。だが、その口調がいつもほどの力を持っていないような気がするのはキラの気のせいだろうか。
「……でも、優しい人だよ、イザークさんは……」
 ともかく、彼の名誉のためにフォローをしておいてあげよう。そう思いながら、キラはこう口にしたのだった。
「それは認めないわけにはいかないけど……」
 意外なことに、フレイが同意の言葉を口にする。
「フレイ?」
 その事実に驚いたのはキラだけではない。サイ達も目を丸くして彼女を見つめていた。
「気に入らなくても、真実だけは認めなきゃいけないって、ここで覚えたの。でなきゃ、ザフトの連中の中でなんか生活できなかったわ」
 それも自分のせいだろうと、キラは視線を伏せる。
「どうして、そこで自分のせいだって思っちゃうのよ、あんたは」
 それに気づいたフレイがため息と共にキラの顔を覗き込んできた。
「あんたは被害者。一番威張っていていいのよ」
 でしょう? とフレイは皆に問いかける。それに、みんなが大きく頷いてみせた。
「そうだな。お前は余計なことを考えなくていい。それは私達の役目だ」
 カガリが何かを決意しているかのようにこう呟く。
「お前にとって一番いい方法を、あいつと話し合ってくるか」
 どちらにしても、お前の身の安全もオーブが出来うる限り保護をする……と宣言をすると、カガリもまた部屋を後にする。
「……僕は……」
「迷惑をかけているなんて言ったら、怒るわよ?」
 キラの言葉をフレイがしっかりと取り上げた。
「だから、あんたは自分の体を治すことだけを考えなさい」
「そうよ。そうして、また、少佐達に会わなきゃないんだから」
 フレイの反対側からミリアリアもキラに抱きついてくる。
「……女の子っていいよな……堂々とキラに抱きつけて」
 目の前の光景にトールがこう呟く。それが一同の笑いを呼んだ。



しばらくの平和な光景……と言うことにしておいてください。しかし、フレイ……とうとう、イザークのことを認めちゃいましたねぇ……