「彼女なら……そう考えても不思議じゃないな」 キラの言葉を聞き終わったイザークはこう口にする。 「どうして、ですか?」 その言葉に、キラは小首をかしげた。 「シーゲル様とパトリック様は……現在のプラントを作り上げた方々だからな。その二人の血筋が一つになればいい、と考えている人間は多いんだ」 自分の母も含めて……とイザークは付け加える。 そして、あの二人が対の遺伝子を持って生まれた男女である以上、結ばれるのが普通なのだ、と。 「月で育ったアスランはどうかは知らないが……ラクス嬢は自分のことよりも人々のことを優先するよう、教育されていたはずだしな」 それが悪いとは思えないし、可哀相だと言うつもりもない。イザークはそう告げた。彼女にとって、それが普通であると同時に、そうなるべく自分も努力してきたのだ、彼女は。 「……僕には……よくわかりませんが……それで、ラクスが不幸だ、と言うわけではないのですね?」 自分の気持ちを優先できない状況でも、とキラは呟く。 「ラクス嬢がわがままを通そうとするのは、俺が知る限りお前のことだけだな……或いは、お前と出会って、彼女にもそういう感情が生まれたのかもしれないぞ」 この言葉に、キラはわからない、と言うような表情を浮かべた。 「僕、のこと……ですか?」 どうしてラクスが、自分のことでわがままを言わなければいけないのだろうか。それがわからないのだ。 「……どうして……」 「それはきっと……お前が義務ではなく、本心から他の者たちのことを考えているからだろうよ」 そんな姿が、彼女の琴線に触れたのだろう、とイザークは微笑む。そして、自分自身の意思で誰かのために何かをしてやりたい、という欲求が生まれたのだろうとも。 「それは、お前がお前だからだろうな」 だから、自信を持っていいのだ、とイザークはさらに付け加えた。 「でも、僕は……」 ラクスのためになにもしてやれないのに……とキラは呟く。 「お前は、お前だからいいんだよ。こうして生きていてくれるだけで、ラクス嬢だけではなく俺も幸せになれるしな」 さりげなく付け加えられた言葉に、キラは思わず頬を赤らめてしまう。 だが、それはまだ序の口だったらしい。 「だから、ずっと、俺の側にいろ」 「イザーク、さん?」 今だって側にいるのに、何で急に、とキラは思う。 それとも、別の意味があるのだろうか。 「……あの……」 だが、それはわからない自分の方がまずいのかもしれない。そう思えば、問いかけることもはばかられてしまう。いったいどうすればいいのか、とキラは唇を咬んだ。 「……その、だな……」 そんなキラの反応をどう思ったのだろうか。イザークがさらに言葉を口にしようとする。だが、珍しくも彼は口ごもっていた。 「あの……そんなに、言いにくいこと、なのですか?」 だとしたら、聞かない方が良いのだろうか、とキラは付け加える。 「お前に、聞いてもわらないと、意味がないことだから、な」 だが、イザークはこう言ってキラを見つめてきた。そして、そのまま、大きく深呼吸を繰り返す。 「今でなくてもいい……何時か、俺のためにウェディングドレスを着てくれないか……と言うことだ……」 そして、秀麗な顔を真っ赤に染めながらこういった。 さすがに、ここまできっぱりと言われては、キラも彼が何を言いたいのかわからないはずがない。 そう言えば、今までに何度も同じようなセリフを言われた覚えがある。 だが、とも思う。 「……僕は……イザークさんの重荷にしか、なれません……」 だから、彼のためにはならないのではないか。キラは言外にそう告げた。 「それでもかまわない。暴走しそうになる自分を止めてくれる存在が欲しいんだ、俺は。いや、それは、お前でなければだめなんだ……」 だから……とイザークは言葉を重ねる。 「直ぐに、答えが欲しいわけではない。ただ、俺にとって必要なのはお前だけだ、とそれだけは忘れないでいて欲しい」 どんな重荷になってくれてもいい。ただ、キラという存在が隣にいてくれれば。そう口にする彼の瞳に、嘘は感じられない。 だが、それにどう答えるべきか、キラには判断が付かなかった。 『キラったら……』 結局、キラが頼ったのは地球にいるフレイだった。エザリア達に頼んで、特別に直接回線をつないで貰い、彼女にイザークの言葉を伝える。そうすれば、彼女から戻ってきたのは、呆れたような言葉だった。 『本当に気づいていなかったのね。まぁ、それもあんたらしいけど』 苦笑と共にこう付け加えられて、キラは視線を伏せる。 「……ゴメン……」 と言うことは、そんな自分の態度で彼女たちに迷惑をかけていたのかもしれない。そう判断したのだ。 『怒っているわけじゃないわよ。そう言うところも、大好きだもの』 だから、謝るな、とフレイは微笑む。 『あの銀色こけしだって同じだと思うわ。そういうキラだからこそ、結婚して欲しいって言ったんでしょ。だから、自信を持ちなさいってば』 イザークの言葉を疑う必要はない、と、彼女はそうも付け加えた。 「そう、なのかな?」 フレイがそういうのであれば、そうなのかもしれない……とキラは思う。だが、同時に彼の気持ちが自分に対する同情を錯覚しているだけではないか、とも考えてしまうのだ。それは、アスランの言動があったからかもしれない。 「本当に……僕、なんかで良いのかな……」 思わずこう呟いてしまう。 『あの男がいいって言ったんだから、いいんじゃないの』 嘘を付くような存在ではないのだから、とフレイはさらに付け加える。 『もっとも、それを決めるのはキラだもの。待ってくれるって言うなら、ゆっくりと考えればいいわ。どうしても困ったりわからなくなったら、また連絡をくれればいいし……愚痴だろうとのろけだろうと、いくらでも付き合ってあげるから』 それ以外に出来ないけど……とフレイは微かに苦いものを笑みに含ませた。 「ゴメンね、フレイ……フレイも、忙しいのに……」 『実はね。最近、私の仕事はないの。みんなに取られちゃって』 だから、キラのことを優先してかまわないのだ、とフレイは笑う。そんな表情が、とても大人びてみせるのはどうしてなのだろうか。 或いは、自分が他人に甘えているだけだからなのかもしれない。 『それよりも、後で荷物が届くと思うから……ラクスさん宛のはちゃんと渡してね! 結婚のお祝いが入っているの』 不意にフレイが話題を変えてくる。 「わかった。ちゃんと渡すよ」 そんな彼女に向けて、微笑みを返すのがキラには精一杯だった。 ようやっと、イザークがプロポーズのセリフを口にしてくれました。本当、このセリフには悩みました。民俗学を趣味にしている彼だから、もっとこったセリフを言わせようか、とも思ったのですが、チャットで話題に出したら、絶対ストレートに言うに決まっている……という意見が多かったので(苦笑)付き合ってくださったみなさま、ありがとうございます(^_^; |