「また、戻ってこられるのかな?」 シャトルのシートに体を沈めながら、キラは呟く。 プラントに戻ることがいやなのではない。 ただ、大切な人々に二度と会えなくなることがいやなのだ。 「心配するな。俺がまた、連れてきてやる」 砂漠でも約束したとおり……とキラのベルトを止めてやりながら、イザークが囁いてくれる。その言葉が信じられないわけではない。それでも、不安を感じてしまうのはどうしてなのだろうか。 或いは、再び重力の底から何もない世界へ戻るからなのかもしれない。 それが今までは日常だったのに……とキラは不思議な思いにとらわれた。 「イザークさんがそう言うのなら……」 だが、彼の気持ちも嬉しい。だから、微笑みを浮かべると言葉を返す。 「そうしてくれ。その前に……体の方をもう少し何とかしないといけないだろうが」 さすがに、無理をさせたようだしな……とイザークも微笑み返してくれた。それに関しては、別段かまわないのだが、とキラは思う。 「誰も、死なないでくれたから……」 その方が自分にとっては重要だったのだ、とキラはさらに笑みを深めた。 「本当にお前は……」 イザークが優しくキラの頬に触れてくる。そのまま彼は、何かを口にしようとした。だが、上手く言葉が見つからないのだろうか。 「そういうお前だからこそ、俺は好きになったんだがな」 その代わり、と言うようにこんなセリフを口にする。 「イザークさん」 秀麗な彼の顔を見つめているだけでも心臓がどきどきするのに、面と向かってこんなセリフを言われては、どうしていいのかわからない。 「顔が赤いが……熱か?」 その上、こう言いながら額をくっつけられては困る。 だが、どうすればいいのだろうか。 今更彼を突き飛ばしたりしたら、それこそ問題なのではないか。そう考えれば、ますますキラの思考は混乱してしまう。 「イザーク……キラの顔が赤いのは、お前が歯が浮くようなセリフを言ったからだって」 さすがにキラを気の毒に感じたのだろうか。ディアッカが助け船を出してくれた。 「……俺は、本当のことしか言っていないぞ」 ため息と共に、イザークはキラから顔を離していく。そして、ディアッカを睨み付けた。 「自覚していないって言うのが一番問題なんだって」 キラも可哀相に……とディアッカは付け加える。そう言うことが出来るのは、二人が本当に親密な関係だからなのだろう、とキラは思う。同時に、自分とアスランも昔はあんな関係だったよな、とキラは考えてしまった。それがまた悲しいとも思う。 「お前は、一応、エザリア様そっくりの顔をしているんだから。それだけでも、普通の人間には心臓に悪いらしいぞ。その上、キラには笑顔振りまきまくりだろうが。恋する乙女には辛いんじゃないのか?」 そう言うところも察してやらないと、嫌われるぞ……とディアッカはますます笑いを深めながら口にした。 「ディアッカ!」 イザークはますますむっとした表情で彼を睨み付ける。 「そこまでにしておいてくださいませんか?」 そのまま口論が勃発しようか、と誰もが思ったときだ。ニコルが口を挟んでくる。 「……ニコル?」 何で邪魔をするんだ、とディアッカが不審そうに声をかけた。どうやら、彼はこの状況を楽しんでいたらしい。 「もうじき発進の時間ですし……それよりも、キラさんがますます困っていらっしゃいますよ?」 精神的に良くないのではないのか、と彼は指摘をする。 「……第一、今の会話を隊長達の前で出来ますか?」 クルーゼはともかく、シホは怒ると思うが……と彼はさらに言葉を重ねた。 「わかった……やめておく……」 しかし、それだけで彼ら――と言うよりはディアッカには十分だったらしい。こう口にする。 「……クルーゼ隊長さんはともかく、シホさんに聞かれても困らないんじゃないですか?」 だが、どうしてそこにシホの名前が出るのか、キラには不思議だった。 同時に、少しでも話題を変えようとこう口にする。 「シホさん本人はともかく、その背後にいらっしゃるのがラクスさんとエザリア様とアイリーン様ですからね。ディアッカは遠慮なくいたぶられるんですよ」 それが嫌なだけなのだ、とニコルが微笑みと共に教えてくれた。 「三人とも、お優しいじゃないですか」 だが、それもキラの疑問を解消してはくれない。ますます疑問だけが膨れあがっていく。 「お前は、それでいいんだよ」 イザークが苦笑と共に言葉を口にした。 「母上達も、そういうお前が気に入っているんだしな」 イザークのこの言葉が、ますますキラの中の疑問を膨れあがらせる。 「母上もアイリーン様も、あれでも最高評議会の一員だ。だから、政治家として断固とした態度を取らなければならないこともある。そういう一面をお前には見せたくない、と考えている、と言うことだ」 それを察してくれたのだろうか。イザークはキラに向かってこう告げた。 「バルトフェルド隊長達が、軍人としての行動を取らなければいけないことがある、と言うことと同じですよ」 さらに、ニコルもフォローをしてくれる。 「それでも、あの方々をキラさんは優しいと思っていらっしゃいますでしょう? それでいいんです」 そう思ってくれるキラだからこそ、彼らはキラが好きなのだろう……と彼は付け加えた。 「イザークにしても、キラには優しいだろうが。その代わり、お前に危害を加えようとする相手には容赦がないって言うことだよ」 さらにディアッカまでこう口にすれば、キラには納得するしかできない。それに、彼らの例えは十分理解できる内容だったし、とキラは思う。 「僕には見せない一面が……皆さんおありなんですね。ちょっと寂しいけど、そうしなければならないとおっしゃるのでしたら、仕方がありませんね」 アスランもそうだったのだろう。ただ、今回のことでそれがキラの前にさらされてしまった。それがよかったのかどうかわからないが、少なくともショックだったことは事実だ。 だから、最初から見せようとしないように努力してくれているのであれば、気づかないふりをするべきなのだろう。キラはそう判断をする。 「その代わり、他のことでは好きなだけわがままを言ってやってくれ」 母上が喜ぶからな、とイザークがキラの髪を撫でてくれたときだ。 「待たせたかな」 言葉と共にクルーゼ達が入ってくる。 「出発の時間だそうだ」 シートに座りながら、彼はさらにこう告げた。それを証明するかのように、シャトルのエンジン音が激しくなっていく。 「眠っていてくださってもかまいませんよ?」 イザークとはキラを挟んで反対側のシートに腰を下ろしながら、シホが声をかけてくる。それに、キラは大丈夫だというように微笑んで見せた。 開き直ったイザークは天然のたらし、ですね。もっとも、これらは全部ディアッカとフラガの入れ知恵の結果だったりします。それで迷惑を被っているのはキラだけなのですが……いいのでしょうかね(^_^; |