キラとイザーク、それにシホの三人に、本国への帰還命令――キラに関しては要請だが――が出たのはそれから直ぐのことだった。
 命じられたまま、カーペンタリアへ向かった三人は、懐かしい顔を見つけた。
「よう、久しぶり!」
 ひらひらと手を振りながら、ディアッカが歩み寄ってくる。その隣にはニコルの人なつっこい笑みがあった。
 だが、ここにいるであろうと予想していた最後の一人の姿はない。
 また謹慎処分を受けたのだろうか、とキラは不安になる。
「アスランなら、一足先に本国へ戻りましたよ」
 そんなキラの気持ちを察したのだろうか。ニコルが穏やかな口調でこう教えてくれた。
「そう、なんですか」
 ほっとした表情を浮かべると、キラは彼に聞き返す。
「えぇ。ラクスさんとの結婚式がありますでしょう? その準備のため、だそうです」
 自分たちがあちらについて直ぐ、結婚式が行われる手はずになっているらしい、とニコルはさらに告げる。
「アスランと……ラクスの……」
 結婚式、という意味がキラには一瞬理解できなかった。だが、直ぐにふわりと笑みを浮かべる。
「よかった……」
 アスランもようやく、本来の自分に戻ってくれたのか、とキラは付け加えた。自分がこんな風になったから、彼は混乱しただけなのだ、と。
 アスランのことを考えれば、ラクスと結婚するのが一番いいのだ。そして、ラクスから言い出したのであれば、彼女がそれを望んでいたと言うことになるだろう。キラはそう判断をした。
 だが、その言葉にディアッカとニコルは何故か複雑な表情を見せる。
「……あの……」
 何か変なことを言ったのだろうか、とキラは不安になってしまう。
「心配するな。そいつらはうらやましいだけだ。まだ、決まった相手がいないからな」
 そんな彼女の耳に、イザークのからかうような声が届いた。
「そうなのですか?」
 イザークへと視線を移すと、キラはこう問いかける。
「そうだ。年下のニコルはともかく、ディアッカは俺と同じ年だからな。いい加減焦っているんだろう」
 きっぱりと言い切るイザークに、
「……あのなぁ……」
「何を言い出すんですか、貴方は」
 即座に二人が食ってかかってきた。
「本当のことだろうが。キラ、こいつらに付き合っていると疲れるだけだ。ハーネンフースと一緒に、先に部屋に行っていろ」
 まだまだ、疲労は敵だからな……という彼の言葉にキラは小さく頷く。あちらから出発するときも、バルトフェルド達にしっかり釘を指されてしまったのだ。
「そう言うことだ、ハーネンフース。頼んでかまわないな? 俺は、こいつらと打ち合わせがある」
 さらに付け加えられた言葉に、キラは彼らが軍関係の打ち合わせをしなければならないのだろう、と判断をする。
 そう言えば、あの三人も一緒に連れてこられていたのだし、と。
 彼らのことも気にかかるが、みんなが大丈夫だというのであればそうなのだろう、とキラは考えることにしていた。
「わかりました。でも、イザークさんもあまり無理をしないでくださいね?」
 ここまで移動するときも、彼はほとんど休憩を取っていなかったはずだ。自分よりも彼の方が体力があると知っているし、そんな心配は無用だと言われるかもしれないが、キラはこう口にする。
「わかっている。心配するな」
 言葉と共に、イザークの手がキラの頬に優しく触れてきた。そのぬくもりにキラは笑みを深める。
「また、後で」
 これ以上邪魔をしては申し訳ない。そう判断をして、キラは彼らに背を向ける。そして、シホと共にその場を後にした。

「ラブラブじゃん」
 二人の仕草を見ていたディアッカがこう告げる。それに、イザークは無言で拳を振るった。
「なんだよ」
 殴ることはないだろうが、とディアッカが反論をしてくる。
「俺に関してはかまわないが……キラには迂闊なことを言うな!」
 その言葉でキラに余計なストレスがかかったらどうするのだ、とイザークは彼を睨み付けた。
「お前もだぞ、ニコル」
 その表情のまま、イザークは視線をニコルに向ける。
「すみません……どうしてもアスランの態度が脳裏から消せなくて……」
 気を付けていたのだが、とニコルは素直に謝罪の言葉を口にしてきた。
「……それに関しては……俺にも想像できるがな……」
 どうせ『キラの諦めるつもりはない』と言ったのだろう、あの男は。それでも大人しく本国に戻っただけましかもしれない、とイザークは心の中で呟く。
「ただ、アスランにしても……自分が置かれた状況がわかっていらっしゃるようですから……」
 キラを巻き込んであれこれするような事はないのではないか。ニコルはこう告げる。
「出来れば……それを信じたいな」
 本当かどうかまではわからない。
 それでも、そうであってくれればキラの負担は大きく減るだろう。
「第一、ラクス嬢がしっかりと見張っていてくれるって」
 ようやく立ち直ったのだろうか。ディアッカも口を挟んでくる。
「それに期待をしなければならないのは悔しいが……な」
 アスラン・ザラという存在を、あの細い肩の持ち主に追わせてしまう、という事実が……とイザークは思う。
「俺達ではもう……手出しが出来ないからな……」
 アスランに関しては、とイザークは呟く。
「だよなぁ……戦争が終わった以上、四六時中一緒にいるって事はなくなるだろうからな」
 自分たちの立場を考えれば、本国勤務になるであろう事は目に見えている。そうなれば、自宅で何をしているのかわからないのだから、とディアッカも頷いた。
「キラさんにとっても、イザークにとっても、その方が良いのでしょうけどね」
 ゆっくりとした時間を過ごせるのだから、とニコルは微笑む。
「どうだろうな、それは」
 苦笑混じりにディアッカが告げた。
「ディアッカ?」
「本国にはエザリア様がいらっしゃるぞ。絶対、キラを引っ張り回すに決まっている」
 彼の言葉は当を得ているだろう。その光景が見えるような気がして、イザークは思わずため息をついてしまった。

「そうか。キラ・バルトフェルドは無事に着いたか」
 報告を受けてクルーゼは呟く。
「彼のことだから、あの事実を彼女に伝えることはしない……とは思うが……父君にはどう、だろうな」
 少なくとも、そうしない……と予測していたのだが、どうなるかわからないというのも事実だ。
 彼が本気でこの結婚をぶちこわすつもりなら、キラに関わる真実を伝えればいい、と言うことにもなる。
「……さて……どなたが、一番、冷静に真実を受け入れ、彼女のために尽力をつくしてくださるだろうな……」
 一番いいのは、何も知らせずにすめば良いだけのことだが、とクルーゼは思う。だが、何事にも不測の事態、というものは存在している。ならば、保険をかけておくべきだろう。
「彼らもいろいろと忙しいとは思うが……相談をしなければ後で厄介だろうな」
 そのくらいの時間は割いてくれるだけの余力は持っているはずだ。
 クルーゼはそう判断をすると、行動を開始した。



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ようやく、ディアッカ達と合流です。しかし、イザーク……いいオモチャですね(^_^;