「何なんですか、あれは」 目の前で起きていることが、アズラエルには信じられなかった。 次から次へと自軍のMSがその動きを止めていく。 いや、それだけではない。彼らが乗り込んでいる装甲車にすら、その影響が出ているのだ。 「おそらく、ウィルスかと……」 何処かおそるおそると言った様子で同乗している兵士が口を開く。 「……それも、新種のもので……こちらのシステムにのみ作用するようです……」 つまり、地球軍のMSを動作不能にするためだけに作られたものだ、と言いたいのだろう。 「いつから、準備をしていたのでしょうね……」 忌々しい、とアズラエルは吐き出す。 「しかも、ストライクは無事、ですか……情けをかけずに、さっさと墜としておくべきだったようですね、あれも」 地球軍のエースであろうが何であろうが、こうして邪魔をするのであれば……と思う。 そうしなかったのは《あれ》があの男に懐いているらしい、と聞いたからだ。手に入れた後の世話をさせておくのに丁度良いだろう、と判断したのである。 だが、そんな自分の温情をこんな形で裏切られるとは思っても見なかった……というのが本音だ。 「しかし、あれらも向こうの手に渡ってしまいましたか……まぁ、放っておけば壊れるものですし、かまいませんけどね」 データーさえ残っていれば、また新しく作ることも可能だろう。 確かに《あれ》もあれらも諦めるのはもったいない気がするが、自分が生き残っていればどうとでも出来る。アズラエルはこう結論を出した。 「と言うわけで、撤退してください」 まだ呆然としている兵士に向かって、アズラエルはこう命じる。 「はっ、はい」 それに我に返ったのだろうか。彼は慌ててアクセルを踏もうとした。 だが、その動きは直ぐに止まる。 「どうしたんです?」 何をぐずぐずしているのだ、と言外に付け加えながら、アズラエルは彼を睨み付けようとした。だが、そんな彼の視線の先に、銃を構えた男達の姿が確認できる。 「……誰です? あなた方は……」 何故、自分に銃口を向けているのだろうか。 どう考えても彼らもナチュラルのはず。そして、ナチュラルならば自分に従うべきだろう、と彼は思っていた。それなのに、何故、と。 「……僕が誰なのか、知らないんですか?」 ならば、納得できる……とアズラエルが心の中で付け加えたときだ。 「もちろん知っている」 苦々しいという口調で男の一人が口を開く。 「俺達は、コーディネイターはあまり好きじゃない……だが、こちらに関わってこないなら気にするつもりはないし、協力してくれるなら、受け入れる。だが、ブルーコスモスは別だ!」 「俺の妻と息子は……貴様らのテロに巻き込まれて死んだんだ!」 しかも、狙われた場所は、コーディネイターの医師がいた病院だったんだぞ、と別の男が口にする。 「だから、何だと言いたいのですか?」 そんな場所にいるのがいけないのだろう、という言葉は敢えて口に出さない。 「俺達はな……正当な場所で貴様を裁いて欲しいだけだ」 「貴様を連れて行けば、あちらも交渉の席に着いてくれるし、オーブも後押しをしてくれる、と言っていたからな」 だから、付き合って貰おう。 そう告げる男達の瞳には、信念という光があふれている。それに、アズラエルは何故か圧倒をされてしまった。 地球軍のパイロット達がそれぞれの機体から降りてくる。そんな彼らの様子を、イザークはフリーダムのコクピットから見つめていた。 「……あちらは、任せておけばいいな……」 一般兵でも彼らの掌握は可能だろう。 問題なのは、あの三人だ……と心の中で付け加えながら、イザークは視線を向ける。そうすれば、その周囲をバクゥと地上兵が取り囲んでいた。と言うことは、まだ出てこないのだろう、奴らは。 「素直に、応じる気配はないのか……それとも、応じられないのか……」 どちらだろうな、とイザークは思う。 前者であればいいのだが、後者であれば、厄介だ。こちらは連中に関する情報をまだ手に入れていないのだから、と。 「何故、あいつが……」 さて、どうするか……と思ったときだ。イザークは信じられないものをモニターの中に見つけてこう呟く。同時に、ハッチを開け、下に降りるための準備を行った。 ちらっとしか見なかったが、側にダコスタらしい姿があったことは確認している。だからそう簡単に危害を加えられることはないだろうが、だからといってのこのこと危険と思われる場所に出てくる理由がわからなかったのだ。 「キラ!」 ワイヤーを使って降下しながら、イザークは彼女の名を呼ぶ。 「イザークさん」 そうすれば、彼女は嬉しそうな表情を作ってイザークを見上げて嬉しそうな表情を作った。その反応は嬉しいと思うが、だからといってあっさりと認める気にはならない。 「どうしてここにいるんだ!」 大人しくレセップスの中にいれば安全なのに、と言外に含ませた。 「隊長がお呼びなんですよ」 そんなイザークにダコスタがこう告げる。どうやら、キラの責任ではないのだ、と言いたいらしい。 「バルトフェルド隊長が?」 いったい、どうしたというのだ……と思いながら、ダコスタが指し示す方向へと彼は視線を向けた。そうすれば、彼の他にアイシャとフラガの姿も確認できた。 「何か……あったのか?」 あの三人がそろっているシーンは珍しくはない。だが、その場にキラを呼び出すとなれば、何か特別なことが起きたのだろうと考えるのが普通ではないか。イザークはそう判断をした。 「……まぁ、そう言うことだね」 苦笑混じりに、ダコスタがこう告げてくる。 「だから、ね。君はそのまま、デュエルにいてくれ。非常時には直ぐに動けるように」 この言葉は、シホに向けられたものだろう。 自分がフリーダムから降りてしまった以上、彼女には非常時に備えていて貰わなければいけない。だが、自分がキラの側にいた方が良いのだ、とイザークは心の中で呟く。 「俺は……付いていってかまいませんね?」 戻れ、と言われる前にイザークはこう問いかける。 「もちろんだよ。君には彼女のことを第一に考えて貰おう。それでかまわないね?」 そうすればあっさりと許可が出た。 「そう言うことだ。俺の側から離れるな」 キラに視線を向けながら、イザークはキラの肩を抱く。そうすれば、彼女は素直に体を寄せてくれた。 と言うわけで、キサカさんが声をかけていたのはレジスタンスの方々……でした。 しかしイザークはさりげなく周囲を牽制していますね。もっとも、一番牽制したい相手はここにはいない。それはそれで平和かもしれませんが(苦笑) |