「……何の意味があるんだ、いったい……」
 目の前の機体をたたき落としながら、アスランはこう呟く。
 それよりも、ここまで性能に差がありながらも、どうして地球軍の兵士は攻撃をしてくるのだろう。さっさと諦めてしまえば、このままキラの元へ迎えるのに……とアスランはいらだちを禁じ得ない。
「だから、ナチュラルはバカだ、と言うんだ」
 さっさと負けを認めれば、こちらにだって慈悲はあるのに。そう思う。
 だが、あきらめが悪い――というよりもバカだからか――連中は、無駄だとわかっていても攻撃をやめようとはしない。それがアスランには気に入らなかった。
 いや、一番気に入らないのは連中ではない。
「あいつらが……」
 こうは口にするものの、半分は八つ当たりだ、と言うことをアスランも自覚している。一番気に入らないと思っている相手には決して攻撃を加えるわけにはいかないのだ。そんなことになれば、いくら自分が《パトリック・ザラ》の息子であるとは言え、ただではすまないことはわかっている。
「こんな戦いさえ起こさなければ……」
 そもそも、自分がキラと引き離されることはなかったのだ。
 キラだって、きっと、イザークになど目を奪われることはなかっただろう。
「……それに関しては、お前が悪いわけじゃないな」
 目の前に飛び出してきたMSをビームサーベルでたたき落とす。
「それでも、何時までもこうして敵対しているのなら、意味はないが」
 そんなに、今の地位が惜しいのか、と考えれば反吐が出る。それは目の前の相手にだけではない。自分自身にも向けられた感情かもしれなかった。
 それとも、自分たちの上司にか。
「ザラの名が、いったいどんな意味を持っていると言うんだ!」
 自分のあずかり知らぬ所――あるいは、パトリックですら知らないかもしれない――で何かがあった、とクルーゼは口にした。だが、その内容を彼は決して教えてくれようとはしない。いや、正確にはこの戦いが終わるまで、と彼は言っていた。だが、それが余計に自分の気持ちを煽っていると彼は考えていないのだろうか。そんなはずはない、とも思う。だからこそ、余計にいらだちが抑えられないのだ。
「何で、誰も彼もが、俺からキラを取り上げようとするんだ!」
 小さな子供のようにだだをこねているような気がしてならない。だが、そうでもしなければ、今の自分の感情を押しとどめることが出来ないのだ。
「えぇい! 邪魔だ!」
 新たに目の前に現れた機体を、そのままシールドでたたき落とす。
 その手応えのなさが、アスランの思考を戦闘に集中させることを許してはくれなかった。

「……困ったものだ……」
 通信機からこぼれ落ちるアスランの言葉にクルーゼは小さくため息をつく。
「これでは、逆効果だったか」
 あの言葉は、と付け加えざるを得ない。自分が知っている彼であれば、あの言葉の裏に隠されている意図をきっちりと受け止めてくれる、と思っていたのだ。
 だが、現実には、まるで小さな子供が鬱憤を晴らそうとするかのような行為が見える。
「真実を知らぬ方が幸せだ、と言うこともあるのだがな」
 そして『諦める』と言う行為が周囲にも幸福をもたらす、という事態もあるのだ、とクルーゼは心の中で付け加える。それを知らないというのは《子供》の特権なのかもしれない。
 しかし、それではいつまで経っても成長が望めないと言うことでもある。
「さて、どうしたものかな」
 キラのためにも、現状をどうにかしなければいけない。
 例え彼が《ザラ》の血を持つものだ、としても、何も知らぬ《キラ》にとっては大切な友人なのだから。過去から切り離された形になっている彼女のためにも、せめてそれだけは残してやりたい、と思う。
「地球軍を撃退するよりも、難しいかもしれないな、これは」
 アスラン・ザラの意思を変えさせるのは。
 だが、それでもやらなければいけないこともあるのだ、と言うことをクルーゼはよく知っている。そして、今までにそのような状況を何度も経験してきたのだ、彼は。
「ともかく、それは、この作戦が終了してからだな」
 そして、少しでも早くキラを安全な状況においてやらなければいけない。もっとも、こちらに関してはクルーゼの個人的な考えだが。それでも、自分にとっては重要なことなのだ。
 そう。
 本来の目的を捨ててもかまわない、と考えるほどに。
「さて……地球軍の機体は、予定通りの動きをしてくれているのかな?」
 ともかく、意識を切り替えよう。クルーゼはその思いのまま状況を確認する。
「……大丈夫なようだな……では、次の段階に進めさせて貰おうか」
 そして、冷徹な指揮官の口調に戻ると、クルーゼは指示を出すために端末に手を伸ばした。

「うざーい!」
 どうして、こんなに抵抗をするのだろうか。
 シャニはいい加減、自分たちが置かれた状況に怒りを隠せなかった。いや、今にも爆発寸前だ、と言うべきか。
「さっさと諦めろよ!」
 言葉と共に目の前の機体――ストライクに向かってニーズヘグを振りかぶる。だが、それを振り下ろすよりも先に、ストライクのビームライフルがその柄に当たる。
「ちぃっ!」
 さすがにこんなものにまではTS装甲が施されているわけはない。
 あっさりと折れたそれを放り出すと、仕方がなく体型を変形させ、エクツァーンを使用することにした。
「嫌いなんだよな、これ」
 一発で相手を破壊しちゃうから、とシャニは呟く。そうすれば、楽しみが半減してしまう、とも。
 だが、この状況では仕方がないか、とあっさりと考えを改める。
 大切なのは自分が楽しむことではなく、あれを手に入れることだ。
 そうすれば、全てが解決をする。
 アズラエルの言葉が全て真実だ、とは思えない。
 だが、これだけは信じてもかまわないだろう……と考えられるのだ。
「だから、さっさといなくなってよね」
 邪魔だから、とシャニは相手をロックする。そしてそのまま引き金を引こうとした瞬間だ。
「緊急通信?」
 何でこんな時に、とシャニは思う。だが、アズラエルからの指示であるのならば、確認しないわけにはいかないだろう。
 そう判断をして、手早く内容を確認するためにメールを開く。
「なんだよ、これ!」
 次の瞬間だった。
 いきなりOSが勝手に起動する。
 慌てて何とかしようとキーボードを引っ張り出した。だが、それよりも早く、機体が勝手に動き出す。
「なんでだよ」
 自分は何もしていないのに……とシャニはパニックに陥る。
 その間にも機体は地面へと近づいていく。
 そして、安全と思える場所にたどり着くと同時に、全てのOSが沈黙をした。


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意味ありげなクルーゼさんのセリフの真意はまだもう少し先でしょうか。でも、それを聞いて諦めるようなアスランじゃなさそうですね。
しかし、切るシーンを間違えたか……ちなみに、一連の動きもキラがプログラムしました。らしいと言うべきかなんと言うべきか。これがなければ、もっと早く完成していたのは事実です。