「四つ足、ばっかりじゃん」
 モニターに映し出された戦闘状況を見て、クロトは呆れたように呟く。
「他のは、撃墜されちゃったのかな?」
 だとしたらつまらない、と思う。あれであれば、十分楽しめたはずなのに、と。
『じゃなさそうだぞ。最初から出ていないらしい』
 その呟きを耳にしたのだろう。オルガの声がこう伝えてくる。
「出ていなかった?」
 と言うことは、自分たちの行動がばれていた、と言うことだろうか。
「なら、まだあれらは残ってるって事だよな」
 それならそれでかまわない。
 自分が楽しむ余地が残されている。その事実がクロトを高ぶらせてくれた。
「紅い奴はいるのかな」
 この前自分を邪魔してくれた、と楽しげに口にする。それならば、あれは自分の獲物だ、とも思う。
「いなければ、いなくてもかまわないけどね」
 それは少し残念だが、今ここにいなくても《あれ》さえ手に入れてしまえば必ず自分の前に現れるだろう。
 だから、優先すべきなのは《あれ》を手に入れることだ。
 第一、その後の方がいろいろと楽しめそうだし……と、クロトは目の前のことに意識を集中することにする。
「船以外は、壊しちゃっていいんだよな?」
 その一端として、クロトは再びアズラエルにこう問いかけた。
『奴らのことだ。あれをどちらかに隠しているはずだからね。だから、他の奴は好きにしてもいいですよ』
 そうすれば、即座に言葉が返ってくる。
『あぁ、そうですね。誰が一番、あの忌々しい機械人形を多く壊すか、競争しなさい。四つ足とそれ以外ではもちろん、ハンデをあげますよ? 一番得点が高いものにはご褒美をあげます』
 だからがんばりなさい、とアズラエルは付け加えた。
『ご褒美?』
 何、それ……とシャニが問いかけている声が耳に届く。
『内緒です。教えてはつまらないでしょう?』
 その時を楽しみにしなさい、という言葉に少しだけむっとする。だが、それもアズラエルだ、とクロトは考え直す。どうやら、それはシャニ達も同じだったらしい。
『なら、出ていいのか?』
 どちらしても、お仕置きでないならかまわないか。
 この切り替えの早さも、彼らが生き残るための手だての一つだったかもしれない。しかし、それを責める者は誰もいないだろう、とも思う。
『そうですね。そろそろ数が減っているでしょうし……好きにしなさい』
 何よりも、待ち望んでいた許可が出たのだ。
 目の前のウザイ連中をたたきつぶすべきだろう。
「出る!」
 だから、クロトはさっさと行動に出たのだった。

『出ました! 例の三機です』
 この言葉に、イザークは即座にフリーダムを移動させる。
「イザーク・ジュール、フリーダムだ。出撃するぞ!」
 そして、こう宣言した。
『了解です』
 即座に返された言葉に、満足すら感じる。上の判断を仰がずに即答できる、と言うことは、それだけ作戦が末端まで理解されている証拠だろう。
「ハーネンフース、無理はするな! 大切なのは、範囲内に多くの敵を誘い込むことだ」
 殺すことが目的ではない、と付け加えるものの、それは彼女にだけ言っているわけではない、とイザークは自覚していた。
 本当に言い聞かせたいのは自分なのだ。
「そうすれば、後は、キラのプログラムが奴らの動きを止めてくれる……」
 無駄な殺戮をする必要はない。連中が何を考えていても、だ。
 大切なのは、この戦いを終わらせること。
 そして、キラを守り抜くことだ、とイザークはさらに心の中で付け加える。例え、今でもブルーコスモスに協力する連中に対しては、少しも同情の念など抱けない。いや、この世から消え去ってもかまわない。
 だが、それではキラが悲しむ。
「キラが悲しむくらいなら、多少のことは妥協出来るだろうしな」
 自分が戦果を上げないことぐらい……とイザークは気持ちをそらしように呟く。
『わかっています。キラさんを悲しませるようなことだけはしません』
 シホも同じ結論に達したのか――もちろん、その理由はイザークのものとは違うだろう――きっぱりと言い返してくる。
「期待している」
 言葉と共に、イザークはフリーダムを発進させた。
 そのまま、背中の翼にも見えるバーニアを大きく広げると空へを舞い上がる。
「……しかし、数は向こうが有利でも、実力はこちらが上、か」
 ストライクもどきとバクゥの戦闘を上空から見て、イザークはそう判断をした。ならば、このままこの場はバルトフェルド隊に任せておいてかまわないだろう。
「俺達は、あいつらに集中すればいいな」
 こう呟いたとき、シホのデュエルが近づいてくるのがわかった。そして、エール装備のストライクも、だ。
 彼らもまた真っ直ぐにあの三機へと向かっていく。
「誰も……死ぬなよ……」
 いや、死なせはしない。
 それだけの性能を、この機体は持っているのだから。
 何よりも、この中で一番経験が豊富なのは自分だ。彼らも決して未熟なパイロットではない。だから、少しのフォローだけで何とかしてくれるだろう。
 必ず、三人でキラの元へ戻る。
 この決意を胸に、イザークはさらに速度を上げた。


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クロトの目標はここにはいません。書く方は楽ですけどね。
そして、とうとうイザークも出撃しました。この余裕はさすがだ、と言うことでしょうか。でも、施行の基準にキラが来るあたり、末期ですね、イザーク。