震動が伝わってくる。
「始まったわ……」
 フレイが冷静さを作りながら、こう呟く。
「大丈夫だよ、きっと」
 キーボードを叩きながら、キラはそんな彼女に言葉を返した。
「みんな、強いし」
「それに、キラが作った秘密兵器があるしな」
 サイもことさら明るい口調でフレイにこう言った。それは彼女を安心させるためだったろうか。それとも、自分を、か。
 どちらにしても、かまわないだろうとキラは思う。
 実際の所、自分だって不安を抱いているのは本当なのだから、と。
「……本当は……僕も一緒に戦えたらいいんだけど……」
 そうすれば、少しは不安が消えるだろうか。少なくとも、こんな風に守られているだけ、という状況ではないだけましなのだろう、とキラは心の中で呟いた。
「何、バカなことを言っているの!」
 即座にフレイが諫めるような言葉を口にしてくる。
「今のキラじゃ無理だって……わかっているでしょ?」
「わかっているけど……でも……」
 このままでいいのか、とも思うのだ。それでも、手を止めることをしないのは、キラ自身の意地なのかもしれない。
「それに、キラが今していることだって大切なことなんだろう? 直接戦うことだけが大切じゃないって言うのは、キラだってよく知っているじゃないか」
 キラがやっていることも、大切なことだろう……とサイも横から覗き込むようにして口にしてくる。
「アイシャさんのために、さ。これがわかれば、あの人は戦闘に集中できるって言っていたじゃないか」
 だから……と言われれば、納得するしかない。
「……みんな、こんな気持ちだったのかな……僕が戦っているとき……」
 その代わりというように、キラは手を止めてこう呟く。
「少なくとも……俺達はそう思っていたよ。ブリッジでキラの戦いを見ていたからこそ、余計に」
 逆に、手助けが出来ないことが歯がゆかった、とサイは付け加える。
「そりゃ……他のことも考えたけどさ。それでも、一番重要だったのは、キラが無事に帰ってきてくれることだったから」
 例え、気まずくなったときでも、それだけはいつでも考えていた、とサイはすまなそうな表情で笑う。
「それだけは……知っていたから……」
 何もなかった頃とは違い、自分たちの間にあった差があからさまになったのだから。彼が複雑な感情を抱いていたとしてもおかしくはないだろう。
 だが、とも思う。
 それでも彼は他の者のように自分を《道具》として見なかった。
「サイも、フレイも……他のみんなも、僕を《人間》として見てくれていたから……」
 だから守りたい、と考えていたのだ、とキラは囁くように口にする。
「……バカね、キラは……」
 そんな彼に向かってフレイが困ったように抱きついてきた。
「だから、私につけ込まれたんじゃないの……」
 だから好きになったんだけど……とフレイは苦笑混じりに囁いてくる。
「僕も……みんなが好きだよ……」
 でなければ、あんな風に戦って来られなかった、とキラは微笑む。
「そして、今、戦ってくれている人たちも……」
「わかっているわ。私だって、みんなが大好きだもの」
 だから、彼らのために、いまできることをしよう。フレイの言葉に、キラは小さく頷いて見せた。

 戦闘が始まったというのに、いつまで待っても出撃許可が出ない。
「……で、何で俺が出ちゃいけないんだよ!」
 その事実に、ストライクのコクピットの中で、フラガが叫ぶ。
「他の連中は出ているんだろうが!」
 そして、戦力差を縮めるためには、ストライクの存在も必要なはずだ、とフラガは訴える。
『だからです。まだ、あの三機が確認できません!』
 それが出てきたときに、十分に戦えないようであれば意味がないだろう、と言い返されて、フラガは眉を寄せた。
「だが、その前にこちらがやられても意味はないだろうが! ストライクであれば、バックユニットを交換すればすむだけだ!」
 だから、出撃させろ! とフラガはさらに付け加える。
『許可できません! デュエルはもちろん、フリーダムですら出撃を許可されていないのですよ!』
 バルトフェルド隊のバクゥと、ジブラルタルから派遣されているディンだけで支えられると判断されたのだ、とパルは言い返してきた。
「ちきしょう……」
 黙って待っているだけ、というのは性に合わない……とフラガは唇を咬む。
『焦らないで、ムウ』
 そんな彼の耳に、CICに繋がっているのとは別の回線からラミアスの声が届く。どうやら、艦長席のそれから声をかけてきたらしい。
「わかっているがな……さすがにな」
 外で戦っている連中がいるのに、自分は待機しているだけという状況は辛い、とフラガも素直に口に出した。
 今までも、こんな状況がなかったわけではない。
 だが《エース》と呼ばれていた自分が待機を命じられたことはほとんどないのだ。まして、ここしばらくは先頭に立って戦っていたと言っていい。
 だから、余計にじりじりとしたものを感じているのだろうか、とフラガは思う。
『だからといって、焦ってはだめでしょう? 冷静さを失うな、といつも言っていたのは貴方じゃない』
 そんな彼に向かって、ラミアスがこんな言葉をかけてくる。だが、そんな彼女の言葉の裏に、フラガは自分と同じような焦りを感じていた。
 どうやら、彼女も同じように焦りと戦っていたらしい。
 それがわかった瞬間、不思議とフラガの焦りは収まる。
「だよな……だが、少しでも早くカタを付けたいんだよ」
 それでも、こう口にしてしまうのは、不安な気持ちのままこの状況を見つめているであろう子供達のためだ。
 特にキラは、動けない自分を責めているのではないか……と考えれば、今までとは違う焦りを感じてしまう。
『それは、私達だって同じだわ』
 地球軍を離脱したのは、上層部に対する不信感も要因の一つだ。だが、この場でこうして戦っているのは、間違いなく《キラ》のためだ。
『だからこそ、余計に冷静さが必要でしょう? 決して、死ぬわけにはいかないんだもの』
 違う、とラミアスが問いかけてくる。それに言葉を返そうとしたときだ。
『敵影確認! データーからあの三機だと思われます!』
 アークエンジェルではなく、外部からの声がフラガの耳に届く。
「出せ!」
 それを認識すると同時に、フラガはこう叫んでいた。


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戦闘に突入しましたが、戦闘シーンは書いていません(^_^;