「いやになるくらい、壮観だよな」 ストライクのコクピットから近づいてくる地球軍の地上部隊を見つめながら、フラガはため息をつく。 「とは言っても、これは陽動なんだろうけどな」 あの三機がいない。 それだけで、フラガはこう判断をしていた。 いや、彼だけではないだろう。 同じようにMSのコクピットに乗り込んでいる者たちはもちろん、ブリッジで状況を確認している者たちも同じような判断を下しているだろう。 「いったいどこからどのタイミングで出てくるか、だな」 そして、キラが作ったあれを何処で使うか、だ。 こちらのタイミングも、一瞬でも狂えば厄介なことになる――特に、アイシャにとっては――というよりも、キラの努力が無駄になる、と言うことか。 「ほーんと、世の中はこんがらがっているよな」 だから、いい加減、その糸をほどかないとな、と思いながら、フラガはスロットルを握る手に力を込める。 「状況は?」 そして、ブリッジへと問いかけの言葉を発した。 『まだそのまま待機をしていてください! 肝心の三機が確認できていません』 彼の言葉に声を返してきたのはパルではない。何故かバジルールだった。 「了解……って、何でお前さんがCICを?」 時間があるのであれば、少しでも情報を引き出すか、とフラガはさらに問いかけの言葉を口にする。 『彼らには、今、地球軍の極秘コードを割り出して貰っていますので』 作戦開始までにそれを判明させないといけないだろう、とバジルールは言葉を返してきた。 「なるほど……変えられていたってわけか」 それも当然のことだろうな、とフラガは思う。でなければ、アークエンジェルのデーターを使ってハッキングできるだろうし、と。 「当然のことだな」 『ただ、変数の癖などはわかるそうですので、もうすぐ何とかなるかと』 でなければ、キラに迷惑をかけてしまう……とモニターの中でバジルールが眉を寄せる。 「わかった。連中に頑張れ、と言っておけ……キラはおそらく……別方面で忙しいだろうからな」 キラが余計なことを考えないように、あちらで別方面のハッキングをさせているはずだしな、とフラガは心の中で呟く。それがアイシャにとって特別なことだから、と言われれば、あの子供がやらないわけがないのだ。 『だ、そうだ』 あるいはこの会話も他のメンバーに聞かれていたのだろうか。 それならそれでかまわないか、とフラガは思う。 「そうそう。頑張れ。これ以上、キラの負担を増やすんじゃないぞ」 だから、軽い口調を作りながらこういった。 「……まだ、か?」 待つことにも、何もしないことにも慣れている。 だが、今回だけは事情が違う。 少しでも早く《あれ》を手に入れたいのだ、自分は。 そして、心地よい香りをもう一度感じたい。そして、あの細い体を抱きしめてみたい、とシャニは考える。 昔のことなんて、ほとんど覚えていない。 だが、あの香りはぽっかりと空いた胸の隙間を埋めてくれるような気がするのだ。 それだけではない。 何か、温かい気持ちすら思い出させてくれる。 「早く、あれ、欲しいのに……」 この気持ちがなんなのかはわからない。それでも、この渇望だけは間違いなく自分自身の《感情》だ。 「みんなだって、そう、思っているよな」 普段は気が合わないなどというものではない。 ただ、アズラエルがそうしろといい、そして、逆らうと薬がもらえないから仕方がなくつるんでいるような連中だ。 だが、今回だけは全員の思惑が一致している。 そうだからこそ、作戦が失敗をしないわけがないのに……と思う。 「早く、邪魔な連中を全部消して、あれが欲しいな」 ついでに、全部壊してしまえばいい。 あるいは、その先に自分が探しているものが見つかるかもしれないから、とシャニは心の中で付け加えた。 「まだ?」 そして、何処か無邪気な口調で同じセリフを口にする。 「早くしようよ」 ふっと口元に笑みを浮かべつつ、シャニはこう言った。 自分の気持ちを落ち着かせようと、イザークは息を吐き出す。 「……待つことは、やはり苦手だな……」 他のことならともかく、戦闘に関わることなら特に、と付け加える。 「キラのことなら、いくらでも気が長くなるんだが……」 何気なく付け加えた言葉に、イザークは思わず苦笑を浮かべてしまった。何でこんな事を呟いてしまったのか、という気持ちと、自分がそこまで彼女に心を奪われていたのかという二つの感情からだ。 だが、それもいやではない。 「……あいつ自身、まだ、戸惑っているところがあるしな……」 自分の性別はもちろん、置かれている状況に。 何よりも、アスランのことがあるからそれに拍車がかかっているのだろう。 だが、この戦争が終われば自分を見つめる余裕も生まれてくるのではないか、とイザークは思っている。 「あいつは……俺が『好き』だって言ってくれたしな」 だから、余計に待っていることが苦痛ではないのかもしれない。 「キラに関してだけだけどな、この感情は」 他の連中にまでそんな風に寛容になってやる筋合いはない、とイザークは呟く。 「だから、さっさと攻撃をしてこい。全部、俺がたたき落としてやる」 それが全てを終わらせるきっかけになるのなら、とイザークは笑った。 短いです。でも、ここで切らないと中途半端に(T_T) 次は戦闘シーンに入れるかなぁ…… |