「かなり良くなっているね。ただ、まだ激しく動かさないように」
 でなければ、傷口が開くかもしれない。ドクターはイザークの傷を見ながらこう告げた。
「……MSの操縦は……」
「出来れば避けた方が良いね。もっとも、緊急事態であれば仕方がないだろうが」
 傷口が開く可能性は否定しない。ドクターはこう口にする。それにイザークは微かに眉を寄せた。
「イザークさん……」
 そんな彼に向かって、キラが声をかけてくる。その声には自責の念が現れている。
「お前のせいじゃない、と言っただろう? ただ、いざというときに動けない、というのではここにいる意味がないからな」
 それではお前を守れない、と言いながら、イザークはキラの頬に触れた。
「お前を守ることが、俺の第一の義務だからな」
 それが果たせないかもしれないと言うことが悔しいと言うことだ、とそのままイザークは告げる。
「ですが、それももとはと言えば……」
「あのバカのせいだな」
 キラのせいではない、と言外に告げた。もっとも、それを素直に受け入れるかどうか、というとまた別問題だろう。彼女の場合、培ってきた性格が性格なのだ。
 そう言うところもまた自分にとっては魅力の一つなのだが、とイザークは思う。自分が考えようともしなかった視点で、彼女は世界を見ているのだから。
「それに、好きな相手のために負った傷なら、男にとっては勲章と同じだしな」
 怪我のことを気にする必要はない、とイザークは微笑む。
「そうだね。それ以上、君がそんな表情をしていると、隊長達まで落ち込むよ?」
 イザークをフォローするかのように、ドクターが口を開く。
「イザーク君を派遣したのは隊長の判断だからね」
 彼であればそう考えるだろう、と言われて、キラは困ったように視線を伏せる。
「それに、これ以上君がそういう表情をしていればアイシャ様が爆発するよ?」
 それはまずいだろう、とドクターは苦笑と共に付け加えた。
「確かに……現状で一番怖いのはあの人だな」
 バルトフェルドが本気で怒らなければ、の話だが……とイザークも同意をする。実際、彼女が先に爆発をしているからこそ、バルトフェルドは比較的冷静でいるのかもしれない。そう思わせる節もあるが。
「……アイシャさんは……そんなに怖いんですか?」
 だが、キラはこんなセリフを口にする。
「……お前はそれでいいんだよ」
 アイシャが彼女に自分のそんな一面を知らせたくない、と思っているのであればかまわないだろう。イザークはその思いのまま微苦笑を浮かべると言葉を口にした。
「クルーゼ隊長もおっしゃっていただろう? お前の今の仕事は、体調を整えることだ。その他のことは、俺達に任せておけばいい」
 普通に生活できるようになってから、あれこれ考えればいいだろう? とイザークはキラの瞳を覗き込みながら告げる。
「それで……いいのでしょうか……」
 キラがおそるおそると口にした。そんなに周囲の人間に甘えていいのか、と。
「少なくとも、俺はそうしてくれた方がうれしいな」
 イザークはこういうと目を細める。
「ともかく、検診だろう、お前は……俺は席を外すから、その間、ゆっくりと考えてみればいい」
 少なくとも自分の気持ちだけは覚えておいてくれ。この言葉と共に、イザークは腰を上げる。そして、キラが検診を受けやすいよう、カーテンの外へと移動をした。

「……それは本当なのかね?」
 クルーゼからの連絡に、バルトフェルドは眉を寄せる。
『残念ながらね……ジブラルタルもその事実を確認したそうだ』
 苦虫を噛み潰したような口調でクルーゼはさらに言葉を重ねてきた。
『そちらに、地球軍のものとおぼしき艦隊が向かっているそうだ。もっとも、あれだけの数であれば、地上を移動するのに多少時間がかかるであろうが……』
 かなり状況が悪い、というのは否定できないぞ、と告げる彼の言葉は間違いはない。
「……こちらの動きをチェックしていたような、タイミングだな……」
 フラガがため息と共に言葉を口にする。それは、バルトフェルドも考えていたことだと言っていい。
「ここにらに、連中の監視がいるんだろうね」
 何処にいてもおかしくないが……とバルトフェルドは口にする。同時に、脳内ではこれからの事を考え始めていた。
 最初はバナディーヤに戻ろうかと思っていた。
 だが、それではあの地にいる民間人まで巻き込むことになるだろう。自分はかまわないが、その事実をキラが許容できるとは思えない。
「なら、それを逆手にとって、人気のないこちらに有利な場所まで移動するべきかな?」
 そうすれば、連中が来るまでの間にあれこれ準備も出来るだろう。バルトフェルドはこう口にする。
「そんな場所があるのか?」
「あぁ。ここいらは僕たちの庭みたいなものだよ? 地図に載っていないようなこともよく知っている」
 それなりの代償を払うことにはなったが、とバルトフェルドは苦笑を浮かべながら答えた。
「そうか。キラにしてみれば、周囲に誰もいない方が精神的に良いんだろうな」
 本来であれば、何処か安全なところに隠したい。だが、何処に監視の目があるのかわからない以上、自分たちの手元から放さない方が良いだろう。フラガはこう付け加える。
『では、その場所が決まり次第、こちらにも連絡をいただけるかな? 出来るようであれば、援護をしよう』
 もっとも、もう片方の作戦とのかねあいを考えなければいけないだろうが。クルーゼはため息と共にこういった。
「無理はしなくてもかまいませんよ? こちらにしてみれば、援護が来ないとわかっているだけでも安心できますからな」
 彼らの作戦が成功すれば、地球軍に連中をフォローする余裕はないだろう。
 だが、とも思う。
 奴ら――正確に言えばアズラエルか――も精鋭だと言っていいはずだ。あの三機もこちらにいるに決まっている。と言うことは、フリーダムとデュエル、それにストライクはそれらにかかりきりになると言っていいだろう。
 いや、彼ら三人だけでは手に余るかもしれない。
 それでも、こちらにはレセップスだけでなくアークエンジェルもいる。彼らが協力をしてくれるのであれば、作戦の立てようもあるだろう。
「……確かに、バスターあたりがいてくれれば、もっと楽になるのはわかっていますが……」
 それは高望みというものだ。
 ならば、現状で最良と思える布陣を考えるしかない。
 バルトフェルドは心の中で決意を新たにした。
『そう悲観されることはない。こちらも出来る限りの援助はしましょう。ディンあたりであれば、回すことが出来るはずです』
 キラを失うわけにはいかないのだから。
 クルーゼの言葉に嘘は感じられない。
「あてにさせて頂きましょう」
 だから、バルトフェルドもこう言い返したのだった。



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ついつい無駄に甘いシーンを入れたくなるのは、本気で逃避しようと思っているからかもしれません。戦闘シーンを書くのを送らせたいだけかも(T_T)
はい、無駄な努力と言います(苦笑)