キラ達がそんな会話を交わしていた中で、大人達の方でもそれなりに結論が出ていた。 「……じゃ、準備が出来た頃にキラを連れて行く。それでいいな?」 フラガがクルーゼにそう問いかけている。 「そうしてくれ。あれに関しては……ニコルとディアッカが責任を持って止めてくれるだろう」 あるいはイザークとシホが、と口にしながらクルーゼが彼らを見回す。そうすれば、即座に頷く姿が確認できた。 「なら、後はキラの体調だけか」 もっとも、体調が悪ければ抱いていけば良いだけか、とフラガが呟く。 「その役目は、僕が引き受けるからな」 すかさず、バルトフェルドが口を挟んできた。 「でないと、後々大変だよ」 あの子達が……と付け加える彼が指さした方向を見れば、イザークとフレイがそれぞれ自分達の様子を見つめているのがわかった。 「まったく……キラには何もしない、って言っているのに」 そんなに俺は信用がないのか、と思わずため息をつく。 「それに関しては自業自得だろう?」 「……あるいは、あの子達を戦いに巻き込んだことを、未だに恨まれているか、だな」 そんな彼を残りの二人が追い打ちをかける。 「それに関しては、いくらでも罵詈雑言を引き受けるし、最後まで責任を取るつもりだが……せめて聞く耳だけは持って欲しいよな」 言い訳とはともかく、こちらに謝罪の言葉ぐらいは言わせて欲しい。フラガは苦笑混じりに言葉を口にした。 「その点に関しては、私もまったく責任がない、とは言えない状況があるからな……だが、あそこまで強情だとは思わなかったが……」 自分たちの命令にまで耳を貸さないとは思わなかった、とクルーゼも珍しくも頷いてみせる。 「それに関しては、これからの行動で何とかして頂く、として……ともかく、あの二人をしばらく引き離しておくべきだからな。今後、また勝手に戻らないよう、しっかりと見張っていて頂きましょうか」 でなければ、また戻ってきそうだ、とバルトフェルドが彼に釘を刺す。 「肝に銘じておきましょう。そのために、申し訳ないがディアッカもこちらに返して貰ったのですから」 二人もアスランを見張っていてくれるだろう。クルーゼはそう口にする。 「そう、期待しますよ」 バルトフェルドが苦笑と共にこう言い返す。 「まぁ、作戦中は無謀な行動を取らない、とは思いますけどね、彼も」 それだけは信じてもいいだろうか、と彼は付け加えた。その中には希望も含まれているのだろう、とフラガは思う。 「どちらにしても、キラの前であいつの悪口を言うのは、フレイ嬢ちゃんだけ、にしておいた方が良いって言うのは事実だが」 ともかく、少しでも話題を変えないとまずいか……とこう口にした。 「でないと、また余計なことで悩むぞ、あいつは」 さらに付け加えれば、今度は二人の口元に浮いている笑顔が微妙に変化する。 「父親である僕よりも、君の方がよくあの子を理解しているようだねぇ」 「……いつの間に女性だけではなく、少年まで趣味を広げたんだ、貴様は」 そしてこう言われては、フラガとしても落ち込むしかない。 「俺はどう思われてんだよ、マジで……」 ため息と共に呟いた瞬間、クルーゼを呼びにニコルが駆け寄ってくるのが見えた。 「……アスラン、わかっていますね?」 ぴったりと横に張り付くようにして歩きながら、ニコルがこう言ってきた。 「今日、何かするようでしたら、もう二度とキラさんには会えないと思ってくださいよ」 きっちりと邪魔をさせて貰います、と彼は付け加える。 「……わかっている……」 結局、現状を打破するための方法を見つけられなかった。それは、つまり自分には現在打つ手がないと言うことだ、とアスランは心の中で吐き出す。 それは、この地にいる者たちがバルトフェルドという名将の元で一致団結している、という証拠だろう。 それは、ザフトとしては喜ぶべき事かもしれない。 だが、自分にとってはマイナスだ。 アスランはこう考えていた。これで、イザークの存在が、キラの心の奥底まで食い込むことは目に見えている。それだけは避けたかったのに、と。 だが、こうなってしまえば諦めるしかない。ここで無駄なあがきをして、永遠にキラに会えなくなるよりは、一度妥協をした方が良いだろう。 「……まだ、機会は残されているだろうしな……」 どんなわずかな可能性だ、とは言え、ゼロではないのであればかまわない。 アスランはそう考えていた。 「戦争さえ終われば……」 連中の監視もゆるむだろう。 その瞬間だけが、自分に与えられた最後のチャンスになるかもしれない。 だが、それがあるのであれば、しばらくは我慢できるのではないか。いや、我慢するしかない、とアスランは自分に言い聞かせるように心の中で呟く。 大切なのは、最終的に自分がキラを手に入れること。 それだけなのだから、とアスランは唇をかみしめる。 その表情のまま顔を上げれば、バルトフェルドに守られるように抱え上げられたキラの姿がわかった。その様子から、まだ体調が芳しくないのだろうと推測できる。 その原因の一端は自分にある。 この事実を認めるための時間は、不幸なことにたくさんあった。だから、あんなキラの姿を見ると、ほんの少しだけだが心が痛む。それ以上に、折角のチャンスを生かせなかった、自分の不甲斐なさが一番歯がゆかった。 「さて、皆さん……目標は確認しましたね?」 自分の目の前にいる兵士に向かって、アズラエルは言葉をかける。 「地球軍の苦境を見かねて幽閉されていたプラントから舞い戻ってきた少女を、何においても救い出さなければいけません。確かに、相手はコーディネイターです。ですが、我々も無慈悲ではない。協力をするものまで殺すつもりはない。そのことを、あの愚かな連中に知らしめましょう」 そうすれば、オーブもこちらに味方をするに決まっている。彼はさらにそう付け加えた。 「さすがはおっさん……口八丁だよな」 あれで、相手を煙に巻いて自分を有利な状況を作ってきたのだろう。 彼の本心は全く別のと事にある、というのに……とオルガは苦笑を浮かべた。それでも、文句を言うつもりにならないのは、自分も彼女の存在が欲しいからだ。 「さて、がんばるか」 そして、それは他の二人も同じ気持ちらしい。 「まずの優先権は、あれを手に入れた奴からな」 もっとも、それもアズラエルのそれには劣るだろうが。それでも、あの存在が側にいてくれるならいい。そう思ってしまう自分に、クロトは自嘲の笑みを浮かべた。 と言うわけで、そろそろ次の山場へ、と……これが最後の戦闘シーンになってくれればいいなぁ(^_^;(^_^; |