食事自体は和やかに進んだ。 少し前までは敵対していた者たちもいたのに、意外だと言っていい。キラはそう思ってしまう。 「悩むな。ここにいるのは、お前を守りたいと思っている者たちだ。だから、過去の遺恨はとりあえず棚上げにしているのだろうよ」 キラの表情から何を考えているのか推測したのだろう。イザークがこう囁いてくる。 「……そう、なのでしょうか……」 だとしたら嬉しいが、だが、そのせいでフラガ達を微妙な立場に追い込んでしまった。 いや、彼らだけではない。 アスランとイザーク達にしても、自分の存在があるからこうして敵対しているのではないだろうか。 そうとまで思えるのだ。 「そうだぞ、キラ! だから、あまり余計なことを考え込むな」 イザークの声が聞こえたのだろう。フラガも笑いながらこう言ってくる。 「これに賛同するのは忌々しいが、我々としても君も守りたい、という気持ちだけは間違いはない。だから、何があっても、これらに危害は加えさせないよ」 隊長二人の意見を無視するような上層部ではないからな、と笑いながら付け加えたのはクルーゼだ。 「それよりも、君は自分のことを第一に考えた方が良い。それだけで、皆の負担が軽くなりそうだからね」 その表情のまま彼が続けた言葉は、キラにとっては厳しいとも言える指摘だった。 「……はい……」 小さな声で、キラはこう呟く。何時までもそのことから視線をそらしていてはいけないのではないか、と思うのだ。だがそう思わないものもいる。 「うちの可愛い娘をいじめないでくださる?」 ただでさえ、アナタは怖いんだから……といいながらアイシャがキラの肩に自分の腕を回した。 「それに、体調を崩したのは誰かさんの部下のせいでしょ?」 アイシャがかばってくれるのは嬉しい。だが、自分を守るためとは言え、そこまで言わなくても……とキラは思う。 「アイシャさん、僕は……大丈夫ですから……」 だから、彼女を諫めるかのように口を開く。 「それに……クルーゼ隊長さんがおっしゃることももっともですし……」 みんなに心配をかけたのも事実だ。キラはアイシャにそう告げる。 「……本当にキラちゃんは……」 自分のことより他人のことを優先してしまうのか。アイシャはそう言ってため息をつく。 「本当、あんたはもう少しワガママになって、相手を振り回すぐらいが丁度良いのよ!」 特に隣に座っているような奴はなおさらだわ、とフレイまで口にする。 「そうだな。そのくらいの甲斐性は持っているよな」 あいつも、とフラガが問いかけたのはディアッカだ。 「……どうして、俺に聞くんですか、俺に……」 彼だけではなく、アークエンジェルの女性陣の視線まで受けて、ディアッカは小さなため息をついた。 「彼が素直に答えてくれるような性格だとは思えないもの」 違う、と笑いながらフラガをフォローしたのはラミアスだった。そう言うところは、さすがだ、とキラは思う。 「……俺をなんだと思っているんだ、彼らは……」 ぼそっとイザークが呟く声がキラの耳に届く。 「でも、正しい認識でしょう?」 それにニコルがしっかりと言い返す。 「さすがは人の上に立って指示を出す方ですね。もっとも、それでも判断を誤ることはあったようですが……」 ほんの少しだけ刺を含ませながら口にした言葉の裏には、キラに対する彼女たちの判断を非難する感情があるのだろう。それはアスランの言動を見ていたからなのだろうか。 「それも、あの方々だけの責任ではないようですからね。この場では何も言わない方が良いのでしょう」 自分たちにも責任はあるのだ、と素直に認められる彼は凄い、とキラは思う。同時にアスランも彼のように考えてくれれば、もう少し事態は変わってきたのだろうか、とも考えてしまう。 「……まぁ、幼なじみ、という点から言わせて貰えば、あいつは口に出したことは違えませんよ。それにかなりしつこい性格だし……」 第一、本気で惚れているようですから、彼女に、とディアッカが口にしているのがキラの耳も届く。 「……あいつは……」 何をべらべらと、とイザークが眉を寄せる。 「いいんじゃない? あれで納得してくれるんだし」 そんなかれをからかうようにフレイが声をかけてきた。そうすれば、ますますイザークの仏頂面が深まる。 「そうですね。仲良くできるのが一番です。イザークには……不本意なのかもしれませんが」 僕はここの現状が嫌いではない、とニコルが微笑む。 「……そうだな……俺も、昔ほどいやだ、とは思わん。少なくとも、我々を理解しようとしてくれているナチュラル相手、であればな」 だから、あいつらに関しては多少の引っかかりはあっても、別段、今更どうこうしようと言う気持ちはない、とイザークは言い返す。 「……本当、変わりましたね、イザーク」 ニコルがさらに笑みを深めながら、言葉を口にした。 「それも、キラさんとフレイさんの影響なんでしょうが……僕は、今の貴方の方がすてきだと思いますよ」 その瞬間、イザークが見せた表情は意外なものだったと言っていい。 「……ニコル、お前……」 だがそれは直ぐに変化をする。そして、腹の底から出すような声でこういった。 「本当のことですよ。ね、キラさん?」 いきなり話題を振られて、キラはどうしていいのか直ぐに判断できない。思わず助けを求めるかのようにイザークを見つめてしまう。 「キラが困っているだろうが」 即座にイザークが彼に言い返してくれる。 「……嬉しいでしょう、イザーク。キラさんに頼りにしてもらって」 しかし、これはわざとだったらしい。彼はしれっとした口調でこう告げた。それは図星を付いていたのか。イザークはさらに渋面を作る。 「だから、心配しないでください。僕も微力ながら、キラさんのお手伝いをさせて頂きます。地球軍に残っている人たちの中にも、キラさんに命を助けられた方々はいるはずです。そういう方々に呼びかけてみたい、と思います」 彼らの助力が得られれば、間違いなくこの戦争は終わるだろう。ニコルはこう言い切った。 「そう、でしょうか」 「そうですよ。それに……アスランも何時かは理解してくれるはずです。今は……意地になっているだけだ、と思いますから」 それさえなくなれば、きっと……と口にしてくれるニコルは基本的に優しい人なのだろう。 「そうですね……僕も、そうなってくれれば、と思います」 だから、キラはこう言って微笑んだ。 ニコルは白? それとも、黒か……悩むところですね。間違いなく、彼も猫を被っていることだけは事実でしょうが。 |