控えめなノックの後、ドアが開かれた。 「アンディさん?」 「……お義父さん、どうしたの?」 ひょっこりと顔を覗かせた彼に、キラとフレイがこう問いかける。 「久々に、一緒に朝食でも……と思ったんだが、大丈夫かな?」 部屋から出られるか、と彼は言外に告げているのだ。 「……大丈夫だと……」 思います、と言いかけたキラの言葉を制して、 「変な人はいませんよね? キラの負担になるような人は」 フレイが彼にこう問いかける。そのいい方は何なのだろうか、とキラは思う。まるでザフトの中に変な人間がいるようではないか、と。あるいは、婉曲に彼のことを告げているのかもしれない。本当にフレイとアスランは犬猿の仲なのだから、とキラはため息をついてしまった。二人が仲良くとまではいわなくても、せめて同じ場所にいられるようになって欲しいと、何度目になるかわからない呟きを、キラは心の中で繰り返した。 「もちろんだとも。僕が可愛い娘達をいじめると思うのかな?」 しかし、それが二人にとっては普通の話題だったのだろうか。穏やかなとも言える口調でこんな会話を交わしている。 「僕とアイシャにサイ君、それにイザーク君とディアッカ君、ニコル君、シホ嬢……後は少しだけ不本意だがクルーゼも来る。その代わり、アークエンジェルの三人にもおいで頂いたから、我慢してくれ」 本当は、他にも呼び出したいのだが、さすがにそこまで収容できるような広い部屋がない、とバルトフェルドが苦笑混じりに付け加えた。その言葉にフレイはほっとしたような表情を作る。だが、キラにはどうしても引っかかるものがあった。 「……あの……アスランは……」 そういえば、昨日一日彼の顔を見ていない。どんな困難があっても、必ず顔を出していたのに、と考えれば、少しだけ不安になるのだ。 その瞬間、フレイが思い切り嫌そうな表情を作る。それは、彼女がアスランを嫌いだからだろうか。それともやはり何かあったのかもしれない、とキラは不安そうな表情を作った。 「彼なら……現在、お仕置き中だよ。まぁ、出発の時には顔を合わせてもかまわないだろうが、それまでは禁止、と言ってあるだけだ」 でないと、お仕置きにならないだろう? とバルトフェルドは気軽な口調で告げてくる。しかし、それが本当の理由ではないのでは、とキラは思う。 「まぁ、私のためには嬉しい事よね」 朝からあの顔を見なくてすむなら、とフレイがわざとらしい口調で告げる。 「フレイ……」 「だってそうでしょう? あいつ、私の顔を見ると睨んでくるのよ。見つめてくるなら妥協するけど、睨むって何よ、睨むって!」 こんなに可愛い私に向かって、と口にするのは、キラの気持ちを考えてのことだろうか。 「そうでしょう、キラ? 確かにコーディネイターには美人が多いけど、ナチュラルにだって負けていない美人がたくさんいるじゃない?」 アイシャもラミアスもバジルールもそうだ、とフレイは口にする。そんな彼女も、その中に自分を加えるのは抵抗があるのだろうか。 「フレイも……アイシャさんぐらいの年齢になれば、美人だって言われるよ」 だから、キラは彼女が望んでいるであろうセリフを口にする。 「だといいんだけど……キラは間違いなく美人よね」 本当に、とフレイは微笑む。 「でも、ちゃんと食べないと……と言うことで、お義父さん?」 「わかっているよ」 言葉と共にバルトフェルドがキラの体を抱え上げた。 「あの?」 「いいから、いいから。少しでも体力を使わないようにしないといけないからね」 それに、たまには父親らしい気分を味あわせなさい、と彼はキラを抱きかかえたまま歩き出す。 「そうよ、キラ。あいつが怪我をしているときぐらい、お義父さんに甘えてあげないと」 ふてくされるわよ、というフレイの言葉は何なのか。だが、それに関して、バルトフェルドは反論をしようとはしない。と言うことは、自覚していると言うことなのだろうか、とも思う。 「……重くないですか?」 ここで下手に断ってはいけない。そう判断をして、キラはこう問いかける。 「もう少し重くなってもいいよ、君は」 でないと、体力も付かないだろう? と彼は笑う。 「と言うわけで、がんばって食べような」 今日は力作揃いだぞ〜〜といいながら嬉しそうにしている彼に、キラは大人しく体を預ける。 「こういう事は、アイシャさんにしてあげればいいのに……」 それでも黙っているのが悔しくて、キラはこう呟いてしまう。 「何を言っているのかな? アイシャにはちゃんと毎日やっているよ」 だが、こういう事に関して言えば、相手の方が上手だったらしい。しっかりとこう言い返されてしまう。 「そ、うなんですか?」 自分で降った話題とは言え、その状況を考えれば頬が熱くなってしまう。 「……お義父さん……仲が良いのは良いけど、のろけないでくださいね」 聞いている方が恥ずかしくなるから、とフレイがわざとらしいため息と共に告げる。そういえるのも、彼女だからだろう、とキラは思う。自分には絶対出来ないだろうと。 「そうかな?」 普通のセリフだろう、とバルトフェルドはまったく意に介さない。だが、それがフレイの逆鱗に触れたようだ。 「そうです。キラの熱が上がったらどうするんですか!」 アイシャさん達に相談しますからね、と彼女は付け加える。 「それは困るな。アイシャは怒らせると怖いんだよ」 本気で言っているのだろうか。判断に悩む口調で彼はこう口にした。 「そう思うなら、少しは控えてください」 とばっちりを受けるのは自分だ、とフレイはさらに言い返す。 「ひょっとしたら、今は私だけじゃなくキラも危ないですよ? アイシャさんの気分転換は、着せ替えですしね」 キラは丁度良い着せ替え人形だ、ともフレイは付け加える。ある程度自覚していたとは言え、面と向かって指摘をされると辛い、とキラは思う。それに、今であればアイシャだけではなくラミアス達まで参戦するかもしれない。そう考えただけで、キラの唇からは思い切りため息が出てしまった。 「……それはいけないね。気を付けないと」 それを耳にした瞬間、バルトフェルドが慌ててこう言う。 「他にも問題がありそうだし……しばらくは自重しよう」 バルトフェルドがまじめくさった口調で告げた内容をどう判断すればいいのか。キラがその答えを見つけ出す前に、三人は食堂へと着いた。そこには確かにバルトフェルドが口にした面々がそろっている。 「さて……家のお姫様の席は何処かな?」 この言葉に、アイシャが指さしたのはイザークと自分の間の席だった。それを認識した瞬間、バルトフェルドがわざとらしくため息をつく。 「まだ『お義父さん』とも呼んで貰っていないのに、もう、他の男に取られそうなのか、僕は」 本気で悲しい、と彼が付け加えた瞬間、周囲から笑い声がもれる。だが、キラは恥ずかしさに顔を隠したくなった。 ほのぼのシーンです。親子の会話? フレイとキラの性格の違いは……こう言うところにも現れますね(苦笑)ということで。 |