「一体、いつまでここにいればいいのでしょうかねぇ」 ため息と共にマードックがこう声をかけてくる。 「さぁな。連中が俺達から何を聞き出したいのか、それがさっぱりわからん」 そんな彼に言葉を返しながらも、フラガはストライクを見上げていた。その先では、地球軍の技術士官達があれこれデーターを取っている。 それはあらかじめ覚悟していたことだ。だが、果たして、連中にあれを解析できるだろうか、とフラガは思う。 「ただ、これでまた坊主の希望が遠ざかっていくことだけは事実だな」 もし、あれを解析できれば地球軍はMSを大量に戦争に導入するだろう。そうすれば、ザフトの優位が崩れるかもしれない。 もちろん、全員が全員、あちらのパイロットのような優秀さを持っているわけではないこともわかっている。だが、地球軍にも少数とはいえフラガと互角の実力を持っているパイロットはいるのだ。 それに、どんな優秀なパイロットでも、虚をつかれればやられる。それが変えようのない真理である以上、質より量という結果になりかねないのだ。 「坊主は……平和を望んでいましたからな。だから、オーブにいたんでしょうが……俺達が巻き込んじまいましたからね」 でなければ、今でも平和に暮らしていたかもしれない。言っても仕方がないとは知っていても、口にしないわけにはいかないのだろう。マードックはため息混じりに呟く。 「どちらにしても、俺達が地球軍の軍人である以上、あれを止める権利はないんだよな」 だが、とは思う。 どのような結果になろうとも、最終的にあの子供が微笑んでくれればいい。口に出すこれはできないが、心の中でそう祈ることは可能だろう。 「さて、と……そろそろ時間じゃないですかい?」 手を止めるとマードックが声をかけてくる。 「本当、暇だよな……あれ以上聞かれても、もう何も出ないって言うのに」 正確に言えば、誰も口を割らないはずだ。 それだけ、自分たちにとってあの子供は大切だったのだ。そして、その命を守るためなら、貝になることぐらい厭わない。それがアークエンジェルの乗組員に共通した思いだった。 「それにしても、俺達はどうなるんでしょうかね」 「さぁな。それも上次第だ」 もっとも、ろくな事にはならないのではないか。フラガはそう考えていた。 「どちらにしても、こいつとは離れたくないがな」 苦笑混じりにフラガは再びストライクを見上げる。 「こいつだけが、坊主は俺達のために残してくれたもんだからな」 第一、もう既にこれは自分の体の一部だ、と感じているのだ。そう簡単に奪われてたまるか、とも思う。 「大丈夫じゃないですか? これのOSは、少佐でなければ使えないはずですからね。本人がいればともかく、現状では載せ換えることも不可能でしょう」 そんな時間があるのであれば、フラガに使わせた方がまし、と上層部は考えるのではないか。マードックはこう言ってくる。 「それを期待しますか……でなきゃ、これごと出奔するか、だな」 実際には出来ないとはわかっていても、ついつい呟いてしまう。 「そんときゃ、お供しますぜ。これの整備は、少佐じゃ無理でしょうからな」 だから、おつき合いしますぜ……と笑うマードックに、フラガは手を振ることで答えを返した。 はっきり言って、ここでも着せ替え人形なのか、自分は……と、目の前に広げられた色とりどりの服を見ながら、キラは思わずため息をついてしまった。 「……こちらの方が似合うと思うの……違うかしら?」 ディアッカもそうなのかどうかは断言できないが、ひょっとしてクルーゼ隊の面々は全員が母親似なのだろうか。目の前のロミナとエザリアを見ているとそうなのかもしれない、とキラは思う。 「そうね……キラちゃんはシンプルな服の方が好きなようだけど……レースやフリルも似合うわよね」 ロミナにエザリアが同意を見せている。その言葉にすら、思わずキラは涙ぐみそうになってしまった。 はっきり言って、ようやくスカートをはくという事実になれたのだ。だから、もう少し妥協してくれないかな、と考えても罪はないのではないか。キラはそう口にしたいのだが、 「……すまんな……諦めてくれ……」 ユーリに先にこう謝られてしまえば逃げ道はない。 「それにしても、これだけの服をキラさんのためだけに用意された、のでしょうか」 キラの前にそうっと紅茶が入ったカップを差し出しながら、シホがこんな疑問を言葉にする。それは、彼女も目の前の光景に圧倒されているからかもしれない。 「……あれは……ニコルに着せて楽しんでいる分だよ……」 娘が欲しかったらしい、と言いながら、ユーリが乾いた笑いを漏らす。 「……ニコル君、ですか……」 脳裏に若草色の髪の少年の容貌をを思い浮かべながら、キラも乾いた笑いを返した。 「確かに、彼に似合いそうですが……」 しかし、本人が喜んでいるとは思えない。 「うちの息子はまだましな方か」 タッドが苦笑と共にこう告げる。 「ディアッカ君は体格がいいから、似合わないだろうからな。ニコルも、もう少し体格が良くなるように考えればよかったのだろうが……」 でなければ、娘を産めばよかったのかもしれないが、とユーリは言葉を返した。だが、どうしても跡取りとしては息子を望んでしまうものだし、女性にしてみれば二人目はいいと思う可能性が強いのだとか。だから、プラントではどうしても男性の方が人口が多くなると言う弊害が出ているのだと。 「どちらにしても、良いことではないとわかっているのだがな」 だが、子供ををコーディネイトできる……と言うことはそういう考えを持つという現実を生み出すのだ、と。 「だから、エザリアがあれほどまでにキラ君の側に寄ってくる《男性》を威嚇するのだろうよ」 他の誰かに取られないように、と言いながらタッドが笑う。 「そうだな。キラ君には不幸かもしれないが」 諦めてくれないか、とユーリが付け加えたときだ。 「キラちゃん、どちらが好み?」 ロミナのうきうきとした声がキラ達の耳に届く。視線を向ければ、彼女が両手にそれぞれワンピースを広げているのが見える。 「……僕、ですか?」 どちらが好みか、と言われると非常に悩む。 いや、正確に言えば、好みだけならすぐに答えが出るのだが、自分が着なければならないことを考えればためらわれる、と言うべきなのか。 「そう、キラちゃんの好み」 どちらも似合うと思うのよね、と微笑みながら口にしたのはエザリアだ。 「そうですね。キラさんなら、どちらでも似合いますね、きっと」 さらに、シホまでが頷いている。 「シホさん」 彼女にまでこう言われては逃げ道がないだろう、とキラは瞳で訴えた。 「本当にお似合いになりますもの。ラクス様も同じ結論に行くのではないかと」 だから、とシホが困ったような表情を作る。そんな彼女に罪はないだろうとは思うのだが、それでも恨みがましく思ってしまうことも事実だ。 「でも……あんなに派手なのは……」 自分で着るのは……とキラは涙目になる。 「派手ではありませんよ。ともかく、どちらかに決めないと、どちらも着なければならなくなりますって」 だから、諦めて……とシホは口にしれくれる。その意見も正しいのだろうが、出来るなら逃げたいとキラは思う。 「そうよ、キラちゃん」 イザークにも後で写真を送るから……というエザリアは妙にうきうきとしている。完全に逃げ道を塞がれてしまったキラだった。 久々に出てきてくれた兄貴達……マードックさんとの会話は書いていて楽しかったですね。 しかし、キラの受難はまだ続いていました(苦笑)というか、終わらないかもしれないですねぇ(^_^; |