翌朝、レセップスの周囲が騒がしくなる。 「どう、したの?」 それをしっかりと感じ取ったのだろう。キラがフレイに問いかけてきた。 「……クルーゼ隊、だったかしら? 彼らが本部に戻るんですって。大きな作戦があるから。その準備で忙しいみたい」 あの銀髪は残るみたいだけど。そう付け加えれば、不安そうだったキラが微かに安堵の色を見せた。 そう言うところが可愛いのだが、何か面白くない、とフレイは思ってしまう。自分たちよりも彼の方を選ぶのではないか、とそう考えてしまうのだ。キラの性格を考えれば、どちらも大切だと思っているだろうことはわかっているのに。 「まぁ、怪我人は邪魔って事なのかしら」 ぼそっと付け加えたのはイヤミのつもりだったのだ。だが、それでキラがこんなに落ち込むとは思っていなかったのだ。 「でも、その分、あいつはキラの側にいられるから、役得なのかもしれないわね」 慌ててフレイはこう口にする。 「ディアッカもニコルも、ここに残りたいって騒いでたわ」 つまり、キラの側が一番居心地がいいって事でしょう……と微笑めば、キラは困ったような表情になった。まさか、そんなことをフレイが言い出すとは思っていなかったのだろう。 「まぁ……あれはいなくなってくれて、私としては嬉しいけど。怒鳴る回数が減るから」 怒鳴ると、余計なところに皺が出来るのよね……とフレイは付け加える。 「……ゴメンね、フレイ……」 それをどう受け止めたのだろうか。キラが謝罪の言葉を口にしてきた。 「だから、どうしてあんたが謝るのよ」 悪いのはキラではないだろう。フレイはそう思っている。それなのに、どうしてそれがキラに伝わらないのだろうか。 そういう性格だ、とは知っていても、やはり歯がゆい。 だが、考えてみればそんなキラの性格を肥大させたのは自分たちだった。キラがまだ《彼》で、訓練もなにもうけていなかったのに、無理矢理戦いに巻き込まれたあの日々。自分たちは、彼が《コーディネイター》だから、なんでもできる、何をしても傷つかないと信じていたのだ。 「悪いのはあのばかで、キラは巻き込まれただけでしょう? あんなに、キラはあいつのことを『親友としか思えない』って言いまくっていたのに、聞く耳を持たなかったじゃない」 というより、脳内変換激しすぎだわ、あれ……とフレイはさらに付け加える。 「……昔から、思いこんだら一直線だったけど……アスランにはラクスがいるのに……」 ラクスの方が自分よりも何倍もすばらしい人なのに、どうして……とキラは呟く。 「まぁ……それは人それぞれだからね。確かにラクスさんはすてきで格好良いけど、私はキラの方が良いわ」 ラクスの側にいるのは疲れそうだから、とフレイは思う。彼女はあまりに強すぎて他人にも厳しいだろから、と。 「……フレイ?」 「だって、キラだと何の遠慮もなくこういう事が出来るんですもの」 理由を聞きたそうなキラにフレイは遠慮なく抱きついた。 「苦しいよ、フレイ……」 キラが微かに笑いながらこう言ってくる。 「そんなに力、込めてないわよ」 ようやく、キラのそんな表情が見られた、と言うことに安心しながら、フレイはさらにキラの体をさらにきつく抱きしめた。そうすれば、以前よりも柔らかな感触が伝わってくる。 「フレイってば! くすぐったいよ」 頬をすり寄せれば、キラが初めて小さく笑い声を立てた。 「いいじゃない、このくらい」 女の子同士なんだし、といいながら、フレイも笑う。そして、さらにぐりぐりとキラに頬をすり寄せた。 「こらこら……キラを襲うんじゃないって」 その時だ。ドアの方からフラガの声がする。 「襲ってません!」 フレイは視線を向けると、反射的に怒鳴りつけた。 「い〜や、襲っているようにしか見えなかったよな?」 だが、そこで珍しい人々の姿を見つけて、目を丸くする。 「マリューさん? ナタルさんも」 キラも二人の姿を認めたのだろう。嬉しそうに彼女たちに呼びかけた。 「いいんですか?」 ふわりと微笑むキラに、彼女たちも頷いてみせる。こんな風にキラが喜ぶなら、もっと早く彼女たちを呼び出せばよかったか、とフレイは内心で思う。もっとも、そんな暇はなかった、というのもまた事実だが。 「キラ君の体調が良くなった、と聞いたのでね。お見舞いに来たの」 ラミアスがこう言えば、 「我々は、ここではおまけみたいなものだからな」 多少なら艦を離れても大丈夫だろう……とバジルールも付け加える。 「そう、なのですか?」 彼女たちはそんな立場に置かれていたのか、と不安になったのだろう。キラが視線を伏せる。 「こらこら。そういう表情をするんじゃないって」 軽くバジルールを肘でつつきながら、フラガが口を開いた。 「ここの連中が有能だからさ。それに、ナチュラルだろうと気にしないで付き合ってくれる。おかげで、休憩時間がきっかりと取れるって言うだけだ」 しかも、今、あちらにいるのはアイシャだし……とフラガが付け加えた瞬間、キラが安心したように小さな吐息を付いた。 「そう言うことよ、キラ君。いつも、ムウばっかり会っているんだもの。たまには私達だって会いに来たいわよ、ね?」 雰囲気を察したのだろう。さりげなくフォローのセリフを口にしながら、ラミアスもバジルールに同意を求める。 「そう言うことだ。おまけ……というのは言葉の文で……我々も比較的自由にさせて貰っている。だから、安心してくれていい」 さすがに、男共を無差別に訪問させるわけにはいかないから……とバジルールもいつもの口調で謝罪の言葉を口にした。 「と言っても、ムウさんは……」 「これは、見張っていてもさっさといなくなるのよねぇ……だから、キラ君も気を付けなきゃだめよ?」 何をされるかわからないから、と真顔でラミアスが告げてくる。しかし、キラは意味がわからないのだろう。小首をかしげていた。 「マリュー、それはないだろうが……俺だって、別の相手に恋をしているような子には手を出さないって。第一、キラは妹みたいなもんだからな」 身内に手を出すような非道な人間じゃない……とフラガは即座に反論を口にする。 「それが信用できれば、どれだけ幸せでしょうね、世の中」 しかし、バジルールまでこう主張してきた。それがフラガにはショックだったらしい。 「キラ……お前だけは信じてくれるよな?」 こう言って、キラを抱きしめようとする。 「それが信じられないと言われる理由でしょう!」 しかし、しっかりとフレイがその邪魔をしたのは言うまでもない。そして、その光景に、キラが今日初めて笑い声を立てたのだった。 これで、少しはキラの気持ちが明るくなってくれればいい。 フレイは心の底からそう願ってしまった。 平和な時間。しばらく息抜ききシーンが続きそうです。というより、こっちの方が書いていて楽しい。いつまで続くかなぁ(^_^; |