何時までも黙っているわけにはいかない。
 Xディを明確に示されているわけではないが、作戦の実行が発表された以上、なおさらだ。大がかりな作戦である以上、準備にも時間がかかるに決まっている。
 その後の騒ぎと、予想できる事柄に対する対処をバルトフェルド達と話し合ってから、クルーゼは部下を呼び集めた。
「……さて、一応、我々の役目は終わったようなのでな。次の指示が本部から送られてきた」
 バルトフェルド隊と一緒にいれば、キラは安全だろう……と判断されたのだ、とクルーゼは付け加える。その瞬間、アスランの表情が強張ったのが確認できた。しかし、それを無視してクルーゼは言葉を続ける。
「近々、地球軍のもう一つの拠点であるパナマを攻略する。あそこのマスドライバーさえ破壊してしまえば、地球軍は宇宙へあがれないからな」
 そうすれば、宇宙はザフトの勢力下に入るだろう。今後のことを考えればこちらが有利だ、と言うことになる。
 それがわかったのだろう。アスラン達四人の表情が一瞬で引き締まった。
「イザーク」
 だが、それもこの後に続く言葉を聞くまでだろうと思いつつ、クルーゼは次の言葉を口にした。
「君は、本日付でバルトフェルド隊転属だ」
 次の瞬間、微妙な沈黙が周囲を満たす。あるいは、直ぐに彼の言葉の意味が理解できなかっただけなのだろうか。
「隊長!」
「……それは……」
 あるいは、その衝撃が予想以上に大きかったのかもしれない。アスランとイザークが口を開くものの、次の言葉が続かないようだった。
「ハーネンフース嬢と共に、キラ嬢の護衛に当たるように。我々の作戦で地球軍の手がこちらに延びる可能性は少なくなるだろうが、それ以上に厄介な者たちが出てきかねん」
 その場合、フリーダムが必要になるだろう。クルーゼはそう締めくくる。
「なら……」
 アスランがクルーゼを睨みながら口を開く。
「ジャスティスでもかまわないのではありませんか?」
 自分でも良いはずではないか、とその言葉の裏に隠されている。
「ドクターからの報告や、本国からの指示を総合した結果、イザークの方が適任だろうと判断をした」
 キラにストレスを与えない、という点ではイザークの方がポイントが高かったのだ、とクルーゼは告げた。
「ですが!」
 だが、アスランはまったく納得する様子を見せない。なおも食い下がってくる。
 そんな彼の様子に、ニコルとディアッカがどうしたものか、と言うようなポーズを作っていた。
 だが、イザークはまったく表情を変えていない。それは、彼が望み通りここに残ることになったからだろうか。
 それとも、別の理由からか。
 そこまではクルーゼにもわからない。
「アスラン・ザラ!」
 だが、彼をこのまま放って置くわけにはいかないだろう。そう判断をして、クルーゼは口を開く。
「君はザフトの一員なのかね? それとも、ただの協力者なのかな?」
 後者である、というのであれば多少の文句を言ってもかまわないだろう。だが、前者だ、とするのであれば、今の態度は認められない、とクルーゼは厳しい口調で言葉をつづった。
「私は……別に……」
 それにアスランは慌てて何か言葉を口にしようとする。だが、クルーゼにはそれを聞くつもりはない。
「当日まで、君は自室で謹慎していたまえ。少しは頭を冷やすのだな!」
 自分自身で気づくことを期待していたのだが、とクルーゼは心の中で呟く。
 それとも、本気で誰かに執着をする、と言うことはこういう事なのだろうか。
 そうだとしても、本人はもちろん、その感情をぶつけられている相手にとっても幸福な未来が待っているとは思えない。
 まして、相手がキラであればなおさらだろう。
 彼が《ザラ》である以上、何があっても《キラ》と結ばれることは許されないのだ。
 もっとも、その事実を知っているのは自分だけかもしれないが。
「明後日の早朝、この場を出発する。準備をしておきたまえ」
 そして、自分以外にそれを知られるわけにはいかないのだ。そう思いながら、クルーゼは新たな命令を口にした。

「……明後日の、朝……だと?」
 ディアッカとニコルに監視されるようにして、与えられた部屋に入った瞬間、アスランはこう呟いていた。
 それでは、実質明日しか時間がない、と言うことだ。
 だが、その時間すら今の自分からは取り上げられてしまった。
「だからといって、何もしないでいられるか!」
 今、この場でキラの同意を得ておかなければ、間違いなくイザークが彼女を手に入れてしまうだろう。
 いや、相手が誰であろうと、自分以外の者がキラを手に入れるのは気に入らない。
 キラは、自分の側にいるのが本当なのだ。
「……隊長までもが、それを認めてくださらないなんて……」
 バルトフェルドを始めとした他の者は仕方がない。
 アスランがどれだけキラのことを気にかけていたのか、彼らは知らないのだ。そして、『キラの友人だ』というあの女から適当なことを吹き込まれ、それを信じているのだろう。
 だが、クルーゼは違う。
 彼は、最初から自分がキラをどれだけ気にかけていたのか、知っていたはずなのだ。
 そして、本国にいる父も、だ。
「だからといって、諦める気はない!」
 どのようなことをしてもかまわない。キラさえ手にはいるのならば……と言うのがアスランの本音だ。
 そう。
 例えば命令違反を犯しても、キラさえ認めてくれればかまわない。
 自分にとって、一番重要な存在は《キラ》なのだ。
「どう、すればいいかな」
 そのキラとの接触を邪魔されている以上、何か策を講じなければいけないだろう。
 出来れば、二人だけでじっくりと話を出来るような。
 だが、前回のような失敗は出来ない。
 キラを殺したいわけではないのだ。むしろ、彼女には自分が死ぬまで生きていて貰わなければいけない。
「難しい条件だが……必ず……」
 答えを見つけてみせる、とアスランは口の中だけで付け加える。
「お前に、絶対キラは渡さない!」
 この場にいない相手の面影に向かって、アスランはこう宣言をした。


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と言うことで、アスランが動き始めました。
ようやく、書きたかったシーンその2に突入できそうです。ここからがまた長いのですが(^_^;