「それは……本当なのか、キサカ!」
 自分の元へ届いた報告書に目を通した瞬間、カガリは自分の護衛に向かってこう怒鳴っていた。
「確認した。間違いなく、彼らを拉致しようとした者がいる。今、尋問をしているが……地球軍の関係者である可能性が強い」
 奴らが狙ったのが自分であれば、まだ納得で来る。だが、この国ではあくまでもただの民間人でしかない彼らが狙われた。そこから導き出される答えは一つしかないのではないか。カガリはそう判断をする。
「……キラ、か……」
 彼女の性格であれば、友人達を餌にされれば、例えそれが罠だ、とわかっていても誘い出されるに決まっている。
 そして、地球軍の連中の事だ。手に入れてしまえば、キラを利用するだけでフォローなんてするはずがない。体調の不良を訴えても気にするどころか、使い捨てにするに決まっている。つまり、彼女の命が危ないと言うことと同意語だろう。
「あいつらの護衛を強化しないといけない、と言うことか……」
 厄介だな、とカガリは呟く。
 それは、どうしても本人達に気づかれないようにしてやらなければいけないのだから、と。
「そちらに関しては、手配が終わった。後は……本人達に対する警告だな」
 相変わらずそつがない。それがキサカの言葉に対する感想だ。だが、今はそれがありがたい、とカガリは心の中で付け加えた。
「本人よりも、あれの方が良いだろうな」
 キラが知れば、絶対に無理をするに決まっている。それならば、彼女の側にいて、一番確実に目を光らせていられる相手に忠告を入れた方が良いだろう。問題は、自分が最後まで冷静にそれを行うことが出来るかどうか、だ。
「バルトフェルド隊長ですか? 確かに適任でしょうね」
 しかし、キサカは平然とこんなセリフを口にしている。
「その交渉が、貴方の評価に繋がり、最終的にはオーブにおける彼女の身の安全を保証するのです。がんばりなさい」
 さらに付け加えられた言葉が、カガリの上に重くのしかかってきた。だが、それを嫌だ、とは思わない。
「わかっている……キラは……私にとっても大切な相手だからな!」
 どんなに気に入らないことでも、彼女の命を守るためなら妥協する。カガリはこう怒鳴った。
「ともかく、あいつらに連絡を取らないといけないだろう? 手配は任せてもかまわないんだよな」
 それに関しては、自分では手違いが起こる可能性がある。それよりは、木坂に任せてしまった方が良いだろう。カガリはそう判断して確認を求めた。
「そうして頂いた方が良いですね。では、これに関しては私で処理できることは処理させて頂いてかまいませんね?」
 キサカが逆にこう問いかけてくる。
「任せる」
 カガリはそれに即答をした。
「では、そちらに専念をさせて頂きたいので、しばらくは大人しくしていてくださいね」
 そこまでフォローできないから、とカガリの言質を取ったキサカが釘を刺してくる。
「わかっている!」
 どうして自分はそこまで信用がないのか。今までの言動を省みることなくカガリは小さくため息をついた。

 そのころ、アスランはレセップスの入口でフレイとにらみ合っていた。
 もっと正確に言えば、にらみ合っていたのは彼ら二人だけではない。フレイにはレセップスの他の乗組員も味方をしていたのだ。しかし、この二人が中心だと言うことは否定出来ないだろう。
「俺は、キラに用がある。何故、お前が邪魔をするんだ」
 必死に怒りを押し殺しながら、アスランはフレイに声をかけた。
「キラは、今寝てるの! あんたを会わせるわけにはいかないでしょう?」
 ケンカ腰を隠すことなく、フレイはこう言い返してくる。
「それとも何? 女の子の寝室に勝手に進入して、何かする気なの? まさか、そんな常識のない行動を取ることはないでしょうね、ザフトのエリート様が」
 しかも、さらにこう付け加えた。もちろん、それはイヤミだ。
「……大人しく話を聞いていれば、好き勝手なセリフを……」
 アスランは拳が白くなるほどきつく握りしめるとこう呟く。
「本当の話でしょうが! 貴方、自分が前に何をしたのか忘れたの?」
 まだ体調が悪いどころか、一瞬も目を離せなかったキラを連れ出して、監禁したのは何処の誰だ、とフレイは言い返す。
 それがまた当を得ているからこそアスランのしゃくに障るのだ。
「ただでさえ、キラは今までの疲労が一気に出て熱を出しているの! その原因の一端を会わせるわけにはいかないでしょうが!」
 ドクターストップがかかっている以上、文句があるならそちらに言え! とフレイはさらに付け加える。
 そう言われてしまえば、アスランに反論の余地はない。
 しかし、納得できないのは他のメンバーが平然とレセップス内に足を踏み入れいているからだろう。
「なら、どうしてあいつらはいいんだ?」
 アスランはこう呟く。
「決まっているでしょう。ドクターから許可が出ているからよ! ムウさんもマードックさんも他のメンバーも、キラを連れ出そうなんて考えていないもの!」
 むしろ、ベッドに縛り付けたがっている。
 だから、キラがあきないように顔を出しているのだ、とフレイは主張をした。
「……なら、お前らが側で監視をしていればいいだろうが!」
 ともかく、キラの顔を見られればそれでいい。
 それができるのならば、どんなことでも妥協をしよう、とアスランは考えていた。
「それこそ、ドクターの許可を貰ってきなさいよ! それなら妥協するわよ。もっとも、私達だけではなく、お義父さんもその場にいるでしょうけど」
 しかし、それすらも周囲の者たちは反対をする。
 そこには、誰かの悪意すら感じられるのではないか――例えば、今、視界の端を通り過ぎていった奴とか――とアスランは思ってしまう。
「そう言うわけだから、あんたはさっさとあっちに戻りなさいよ」
 この騒ぎがキラに悪影響をもたらすかもしれない。フレイの態度がそう告げている。
 それこそ、杞憂に決まっているではないか。自分とキラは幼なじみなのだ。あんなにお互いのことがよくわかっていたのだし、キラにとって自分が側にいるようがいいに決まっている。
 あるいは、それがキラの罪悪感を刺激するのかもしれないが。だが、アスランが一言『許す』と言えばそれで終わるはずなのだ。
 それをさせないのは目の前の存在を含めた連中だろう。
 だから、いつまで経ってもキラの体調は良くならないのだ。アスランはそう信じていた。
「アスラン」
 そこに、今一番会いたくない――それどころか憎んでいると言っても良いかもしれない――相手が姿を現す。
「クルーゼ隊長がお呼びだ」
 しかし、その口から出たのは決して無視できない内容だった。
「……わかった……」
 出来れば口を利きたくない。
 だが、無視するわけにはいかない。
 そのジレンマに、アスランは唇を咬む。
 そして、視線で相手が殺せたらいいのに、と言う思いのまま、イザークを睨み付けた。


INDEXNEXT

カガリが出てきましたが、かなりまずい状況ですね……と言っても、予想通り、と言えば余どう通りなのかもしれませんが。
しかし、それよりもまずいのはアスランの精神状態なのかもしれないです。
フレイ(バルトフェルド隊)vsアスランですからね。このままですむわけがないです。