「キラ!」 言葉と共に華やかな色彩の少女が飛びついてくる。 「元気そうだね、フレイ」 その肩を抱き返しながら、キラは微笑みを浮かべた。 「それに、サイも」 フレイの肩越しに友人へ視線を向けてこう告げる。そうすれば、何故かサイは頬を真っ赤に染めた。 「サイ?」 どうかしたの? と口にしながら、キラは小首をかしげる。その様子にフレイに何かに気づいたのだろう。彼を振り向いた。 「サイ、あんた……キラが女の子だって言うのはよくわかってたんじゃないの?」 そして、呆れたようにこう呟く。つまり、彼女にはその理由がわかっていると言うことだろう。だが、キラにはいくら考えても思い当たるものがなかった。 「わかっていたんだけど……いたんだけど、何って言うか、その……」 直接目の当たりにすれば印象が違うのだ、とサイは言葉に詰まりながら口にする。 「確かに、キラはいきなり女の子らしく見えるようになったからな」 なのに行動がたまに男に戻るから目のやり場に困ることがある……と良いながらキラの肩を抱いたのは当然のようにフラガだ。彼の存在に、サイの肩から力が抜けたのは、彼がフラガを信頼しているからだろう。 「まぁ、そう言うことです……それに、今日はずいぶんと、力を入れて可愛い格好をしているようだし……」 フレイなら気にならない格好もキラだと意識してしまうのだ……とサイはさらに付け加えた。 「これ……は……その……」 サイの言葉に、キラはさりげなく視線を泳がせる。 「アイシャさんが、皆さんが喜ぶからって……」 着せられた挙句、二人がかりでメイクまでされてしまったのだ、とキラは口にした。 「アイシャさんと、シホ……さんとか言う人? キラの護衛をしてくれている?」 即座にフレイがもう問いかけてくる。 「うん。あそこにいる、髪の長い人だよ」 フレイが彼女と仲良くしてくれるといいな、と思いながらキラはシホを指さす。 「……バジルール副長みたいなイメージの人ね」 フレイが素直に第一印象を口にする。 「でも、アイシャさんに似ているような気もするし……仲良くできるといいんだけど」 キラが好きな人だから……とフレイは小さな声で付け加えた。 「フレイ?」 「だって、そうじゃない? キラが好きな人がケンカをしたりしたら、悲しむのはわかっているもの。そんなキラ、見たくないし」 だから、よっぽど馬が合わない相手でなければ自分が妥協をしようと思ったのだ……とフレイは付け加える。ただでさえ、厄介なバカがいるのに……と付け加えられて、キラは思わず困ったような笑みを浮かべてしまった。 彼女がアスランを気に入らないと思っていることは知っていたが、ここまで凄いとは予想していなかったのだ。 だが、それも無理はない、と思う。 アスランの方がフレイを毛嫌い――と言うよりは憎んでいるようにも感じられる――しているのだから。だから、そんな二人が仲良くしてくれるはずはないと。 「フレイ嬢ちゃん。キラが困ってるぞ」 キラの表情に気がついたのだろう。フラガがこう声をかけてくる。 「ともかく、紹介してくれるんだろう? キラの側にいる人なら、俺達と顔を合わせる機会も多いんだろうし……それと、あの人も紹介してくれると嬉しいな」 サイが雰囲気を変えようとするかのように微笑んだ。 「あの人?」 誰だろう、とキラは思う。彼らに紹介したい相手はたくさんいるのだ。 「キラが好きな人」 ふいっと耳元に口を寄せてきたか、と思った次の瞬間、サイがこう囁いてくる。 「ぼ、僕が……好きな人……って……」 次の瞬間、キラは自分の頬が真っ赤に染まったことを自覚した。 「こういう反応は、やっぱり女の子だよなぁ、キラ」 そんなキラをからかうようにフラガが口を挟んでくる。 「ムウさん!」 「少佐!」 キラの抗議よりも早く、フレイの手が動く。 次の瞬間、大きな破裂音が周囲に響き渡る。 そして、フラガの頬に赤い痕がくっきりと刻まれたのだった。 「……何故、自分がこちらに居残りなのですか?」 予想通り、配置を伝えた後、アスランが怒鳴り込んできた。 「ドクターの判断だよ。キラ嬢は、君が側にいると微妙にだが心拍数と体温の数値が上昇する。それが、彼女の体に負担をかけかねない、と判断されたのだ」 もちろん、完全に遮断するわけではない。許可があれば自由に面会が出来る、とクルーゼは口にする。だが、内心ではそれで彼が納得をすることはないだろう、とも判断していた。 それでも、釘を刺さないわけにはいかないのだ。 「君にしても、彼女が再びベッドに縛り付けられるといった状況は避けたいのではないかな?」 そうすれば、会いに行くことすら不可能に近くなるぞ、とクルーゼは言外に付け加える。 「では、何故、イザークが……」 まだ諦めきれない、と言うようにアスランはこう口にした。 「それに関しては、本国からの指示だ。残念だだが、私達の判断ではない」 責任転嫁をするつもりはない。 しかし、自分たちの思惑をパトリック達の命が打ち壊してくれたことは事実だ。しかし、とも思う。確かにイザークがあちらにいる方がいざというときに迅速に動けるだろう、と考えられることもまた事実だ。 「しかし、ジャスティスとフリーダムは同じ艦にいない方がいいのではないかな?」 どちらかが損害を受けても、直ぐにフォローが出来るだろう、とクルーゼは口にする。 「……そう、かもしれませんが……」 元はと言えば、彼も決して無能ではない。いや、その身にまとっている色に恥じない実力の持ち主なのだ。しかし、どうしても彼は幼い頃の幻想に未だに捕らわれていて、現実を見ることが出来なくなっている。 だが、それを自分で気がつかなければいけない。 自分にしてやれることは、そんな彼らのために少しでもそうできる環境を整えてやることだろう。クルーゼはそう考えていた。 「なら、命令通りにしたまえ。この艦の乗組員は我々の配下にはいる。それについても、よく考えるように」 ナチュラルではあるが、彼らは敵ではない。 その意味もよく考えろ、とクルーゼはアスランに告げる。 アスランの口から、それに対する答えは返ってこない。しかし、クルーゼもまたそれを期待していなかった。 とうとう50回目です。 ようやく、フレイが参戦。これで、さらにアスランが追いつめられそうですね……もっとも、大人しくやられているだけの奴だとは微塵も考えていませんが…… さて、次回あたり、カガリも出せればいいのですが…… |