「……変わっていないな、本当に……」
 モニター越しに見るフレイの様子に、バジルールは思わず苦笑を浮かべてしまう。
「まったく変わっていない訳じゃないんだけどね」
 それに、アイシャが苦笑を返してきた。
「本当にいい子よ。偏見がなくなったから、みんなに可愛がられているし」
 オーブから追いかけてきた子もいるしね……と付け加えられて、バジルールの眉が一瞬寄る。いったい誰が、と思ったのだ。
 だが、その答えは直ぐに見つかった。
「アーガイルが?」
 フレイの恋人だったという少年。キラとは違った意味で一行のリーダー格であった彼であれば、十分やりかねない、と思ったのだ。
 一見、冷静そうに見える彼だが、実はそうではないことをあの日々で知っていた。そして、フレイのことを最後まで心配していた、という事実も。同時に、キラのことを気にかけていた彼が、フレイの面倒を見ることが出来、なおかつ少しでもキラの情報が得られる場所にいたとしてもおかしくはないのではないか。そう思う。
「あたりよ。おかげで、私もアンディも、あの場を離れても大丈夫になったわ」
 彼が何かあったときはストップをかけてくれるから……と笑い彼女に、
「……やはり変わっていないではないか……」
 バジルールはこう呟いてしまう。
 とはいうものの、確かに彼女の雰囲気は以前よりも大人びている。
「まぁ、あの子もまだ十五なんだし……これからでしょ?」
 アイシャは笑いながらさらに言葉を口にした。その言葉に、バジルールも彼らがまだそんな年代なのだ、と思い出す。もっとも、それを言えばキラを筆頭としたコーディネイターも同じではないか、と言いたいのは事実だ。
「それに……あの子は、ようやく世界に意識を向け始めたのだもの。これからさらに変わっていくわ」
 キラは、実際にその手を汚さないわけにはいかなかった。
 そして、ザフトの者たちは自分の意思で戦うことを選択した。
 そんな彼らに比べて、何も見聞きしなかった――あるいはさせてもらえなかった――彼女の精神的な成長が遅れていたとしてもおかしくはないだろう、とアイシャはさらに言葉を付け加える。
「そうかもしれません……我々も、彼女に関してははれ物のようにしか思えませんでしたから……」
 だから、あえて無視をしていたのだ、自分は。
 その結果、引き起こされた騒動に頭痛を覚えたのもまだ事実。
『あれも、アークエンジェルに乗っているんですか!』
 その時だ。フレイの怒鳴り声とも悲鳴ともつかない声がバジルールの耳に届く。
『何で! あれがキラに何をしたか、忘れたわけじゃないでしょう?』
 彼女の怒りの相手はバルトフェルドのようだ。だが、本人はまったく気にかけている様子はない。むしろ、楽しげに見えるのはバジルールの気のせいだろうか。
「アンディったら……本当にあの子にわがままを言われるのが楽しいみたいね」
 いい父親だわ、とアイシャも楽しげだ。
「もっとも、彼のことに関してだけ言えば、あの子の言うことは正しいわね」
 そのせいで、キラが熱を出したのではないか。そう言いたくなる気持ちはバジルールにもわかる。いや、出来ることなら彼女も彼――アスラン・ザラをキラから遠ざけたいと思っているのだ。
 しかし、それをすればあの少年が爆発する可能性がある。それは、彼らがここに現れたその日の出来事でわかっていた。
「かといって、キラちゃんに自分の気持ちを殺せとも言えないし……そんなことをしたら、あの子、本当にストレスで死んでしまうわ」
 そうさせないためには、どうしたらいいのか。それはかなり難しい問題だ。それこそ、地球軍の猛攻から逃れる方が楽なのではないか、とすら思えるほどである。
「ともかく、合流したら、彼女はレセップスに移動して貰うしかないでしょう。その他の者たちの配置は、その後でも……」
 かまわないのではないか、とバジルールは口にした。
「そうね。キラちゃんとシホちゃん、それにイザーク君が来てくれれば完璧なんだろうけど、それじゃ彼の精神を逆撫でするもの。難しい所ね」
 キラのためにはイザークが側にいてくれる方が良い。しかし、それではアスランの暴走を加速させるだけだ。
 そのバランスをどう取るか。
 士官学校では教えて貰えない命題だ、とバジルールは心の中で付け加えた。

「そうですか……では、そこが合流地点なのでしょうね……あぁ、そのまま監視を続けていてください」
 自分たちが付くまでに移動するようであれば、連絡を寄越すように。アズラエルはそう付け加えると通信を終えた。
「しかし、砂漠の虎、ですか」
 あれが絡んでいるとは思わなかった……というのがアズラエルの本音だ。
 自分たちにとっては厄介だとしか言いようがない相手。そんな相手とどうやって知り合ったのか、それを考えるだけで頭が痛くなってくるような気がしてならない。
「エンデュミオンの鷹だけでも厄介だ、というのにねぇ」
 ナチュラルでありながら、コーディネイターはもちろん、アズラエル自慢のあの三人とも互角に戦える存在。その動きには、あれも関わっているだろう。それでも、時間制限がない相手の方がどう考えても有利なのではないか。
 しかも、これからはバルトフェルド隊の面々も参戦するとなれば、なおさらだ。
「正攻法では……無理かもしれませんね」
 あの時でも五分五分だった、と言っていい。もっとも、そう考えられるようになったのは、最近のことだ。数が多い分だけこちらの方が有利だ、と考えていたことも否定しない。
 しかし、とアズラエルは壁に掛けられた地図を見て呟く。
「ジブラルタルが近かった、と言うことでしょうね。あれらも、あれを取り上げられたくないと」
 だから、迅速に救援を寄越したのだろう。
 つまり、相手の勢力圏内に入ってしまった今は、なおさらだ……と言える。
「もっとも、逆に言えば、あちらも気がゆるむでしょうしね」
 その隙をつけば何とかなるだろう。
 そのために、わざわざあれを監視させているのだ。でなければ、誰があんなものについての情報を耳にしたい、と思うだろうか。
「そう言うわけですから、君たちも、いつでも動けるように準備しておいてくださいね」
 そう言いながら視線を向けた先には、あの三人がそれぞれ思い思いの格好でくつろいでいる。
 本来なら、そんなことを許すようなアズラエルではない。だが、ここは狭いし、彼らのための部屋がないと言われれば妥協をするしかないだろう。
 あれらと同じように、この三人も普通のナチュラルから見れば《異質》なのだ。
 その異質さを許容できないものがいたとしてもおかしくはない。
 第一、アズラエルにしても側にいられれば鬱陶しいとしか感じないものよりは、自分の作品を手元に置いている方が気が楽なのだ。
 これらは、必要がない限り自分の邪魔はしない。
 そして、自分たちに対しとても従順だ。
 その事実がアズラエルに満足感を与えてくれる。同時に、どうしてあれらはあそこまで自分たちに逆らうのかとも考えてしまうのは仕方がないことだろう。
「あれ、出てこないかな?」
 どんな状況を作れば、あれを隠れ家からおびき出すことが出来るだろうか。クロトがこんなセリフを口にする。
「待っている必要も、あれに忍び込む必要もないわけですね。あれを呼び出せばいいのですか」
 良いアイディアをくれた、とアズラエルは笑みを浮かべる。
「そのヒントはオーブにありそうですね。調べさせますか」
 言葉と共に、アズラエルは即座に行動を開始した。


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と言うわけで、フレイにアスランの存在がばれました。ますますイザークに有利……というわけではないでしょうが、うるさくなることだけは確かでしょうね。
そして、アズラエルも動き出しました。さて、そろそろカガリも出てくるかな?
本気で、何時終わるんだろう、これ(苦笑)