「何故、邪魔をしてくれたのですか!」 二人の姿が消えたところで、アスランは自分を押さえつけている相手に向かってこう怒鳴る。 「キラが望んでいなかったから、に決まっているだろう?」 だが、相手はあくまでも普段の態度を変えることなくこう言い返してきた。 「お前さんが、俺達に対する偏見を捨てきらない限り、お前さんの存在はキラにとってマイナスだ、と判断するしかない」 だから、本人が側によって欲しくないと考えているときは邪魔をさせて貰う。彼はそう続ける。 「……元はと言えば、あなた方が……」 「確かに、キラを直接、戦争に巻き込んだのは俺達だ。だが、お前らにもまったく責任がないと言い切れるのか?」 アスランの言葉を遮るかのようにフラガが言葉を重ねてきた。 「お前さんの実力であれば、あの時、キラをあの場から連れ出すことも可能だったはずだ。少なくとも、俺が聞かされていた状況が正しいのであれば、の話だがな」 その後にも何度もチャンスがあったはず。 イザークやディアッカ達の実力から判断をして、彼らが一丸となってキラを《保護》しようとしていたのであれば、地球に降りる前にその存在はフラガ達の手から離れていたはずだ。 それが出来なかったのは、アスランが自分一人で物事を進めようとしたからだろう。それだけの自信があったのか、それとも、他の理由があったのかはわからないが、それだけは事実だ 違うのか、という言葉に、アスランは思わず唇を咬む。 「それでも……あなた方さえいなければ……」 キラは素直に自分の元へ戻ってきてくれたはず、とアスランは思う。 「だが、俺達はここにいる。そして、俺達を護る、と決めたのは誰でもない、キラだ」 そして、そのキラの気持ちを認められない以上、アスランの存在が彼女にとってはプラスになることはない。フラガはこう言い切った。 もちろん、その間もアスランは大人しくしていたわけではない。必死に彼の手から逃れてキラ達を追いかけようともがく。 しかし、ナチュラルであるはずのフラガの腕を、アスランはどうしても振り払うことが出来なかった。 それは、彼が何処をどう戒めれば相手を動けなくできる、と知り尽くしているからだろうか。 あるいは、これが経験の差なのかもしれない。 ナチュラルであれ、訓練を積めばコーディネイター並みの働きを出来る、という証拠なのだろうか、彼は。 しかし、それを認めることはアスランには出来なかった。 「それも、あなた方がキラをたぶらかしているからでしょうが!」 でなければ、キラだってコーディネイターだ。同胞と戦おうとするはずがない。アスランは言外にそう訴えた。 「……やっぱ、当分お前さんはキラと二人きりにさせられないな……俺の部下だったら、遠慮なく謹慎を言い渡したいところだ」 でなければ、転属か……とフラガはため息をつく。 「どうしてキラが、お前さんではなくイザーク坊主の方を選んだのか。その答えを見つけない限り、関係の修復も難しいだろうしな」 もっとも、何時までも過去しか見ようとしない人間には不可能だろうがな、とフラガは付け加えた。同時に、アスランの腕を解放する。 「貴方に言われる筋合いはない!」 アスランは反射的にフラガを振り向く。そして、お互いの立場など関係ない、という様子で殴りかかった。 しかし、そんな彼の行為をフラガは予測していたのだろう。彼は軽々と避けた。その事実が、余計にしゃくに障る。 「まぁ、よく考えてみるんだな。俺よりも、バルトフェルド氏やラウ、それに女性陣の方がチェックが厳しいぞ」 笑い声と共にフラガはそのままこの場を後にした。 背後からであれば、あるいは……と思わずにはいられない。だが、それでは意味がないのだ、と言うこともアスランにはわかっていた。逆に、そんな卑怯な真似をすれば、完全にキラに嫌われるだろう、と言うことも簡単に想像が出来る。 「それでも……俺は、諦めるつもりはない……誰に邪魔をされても、な」 アスランのこの呟きを耳にするものは誰もいなかった。 「……明日には合流できるんですね?」 ダコスタにフレイがこう問いかけている。 それは、今日何度目の問いかけなのか、サイにもわからない。というのも、彼の姿を見ればフレイは同じセリフを口にしているのだ。 「このまま、何事もなければ、だがね」 ダコスタの方も呆れた様子を見せることなく、同じ答えを返してやる。 「あぁ……一緒に来るかい? もうじき、定期連絡の時間だ。上手く行けば、キラ君は無理でも隊長やあちらの面々と会話が出来るかもしれない」 だが、今回は少しだけ違う言葉を彼は口にした。 「本当ですか?」 フレイだけではなく、サイもこの言葉には反応を示してしまう。 「あちらのブリッジからだからね。側にいるはずだろう?」 もっとも、あちらにその気がなければ声をかけてもらえないよ? とダコスタがからかうように口にした。 「……うっ……」 だが、フレイにしてみれば、それは冗談どころではない。身に覚えがありすぎる彼女は、言葉を失ってしまった。 「大丈夫だって。ラミアス艦長なら、喜んでくれるよ?」 いきなりしゅんとしてしまった彼女を慰めようと、サイが慌ててこう口にする。 「それに、キラなら絶対喜んでくれるって」 こういった瞬間、フレイはふっと顔を上げる。 「そう、よね?」 そして、自分に言い聞かせるように言葉をつづりはじめた。 「キラなら、絶対に喜んでくれるわ。私も、あの子が今どうしているのか確認したいし」 元気でいるのかどうか、この目で確認しないと……と付け加える。 「隊長からの報告では、心配するようなことはない、と言う事だったが?」 だから大丈夫だろう、とダコスタはフレイに声をかけた。 「あの子は……みょうなところで頑固だから、多少具合が悪くても誤魔化そうとします!」 そして、誰も気がつかなければそのまま放っておくに決まっているのだ、とフレイは力説をする。そして、その言葉にサイも同意を見せる。 だからこそ、自分たちはキラがあれほどまでに傷ついていた、なんて気がつかなかったのだ。 キラが何も言わなかったから、と本人に責任を押しつけるつもりはない。 実際、フレイはその事実に気がついていたのだ――もっとも、あの頃の彼女はキラがそんな状況だからと言って何も言うつもりはなかったようだが――もっと側にいた自分たちが、そんなキラに気がつかないという方がおかしかっただろう。 あるいは、心の何処かで気がついていても、自分たちが生き残ることを優先するがために、見て見ぬふりをしていただけかもしれない。 「でも、フレイ……フラガ少佐やイザークさん達もいるんだよ? あの人達にキラのやせ我慢が通用するわけないだろう?」 違う? とサイはフレイに問いかけた。 「それは、そうかもしれないわね……と言うより、そのくらい出来なきゃ、ぱっつんにキラを渡さないわよ!」 絶対に、とフレイは拳を握りしめる。その表情から『本気だ』と伝わってきた。 「それは……イザーク・ジュールには気を付けるように言っておかないとな」 苦笑と共にダコスタが言葉を口にする。 「でなければ、二人の仲が進展できないだろうしね」 せっかく、側にいられるようになったのだから……と言う彼に、サイは頷いて見せた。実際に二人がどうやって心を寄り添わせたのかを知っているわけではない。だが、それでもキラが見せるようになった、柔らかな表情の原因は、彼だろうと言うことはわかっている。 「それはそれで、気に入らないんだけどね」 フレイがため息と共にこう呟く。 「……フレイって、本当に小姑だな」 そんな彼女の様子を見て、サイは思わずこう呟いてしまった。次の瞬間、しっかりとフレイの反撃が飛んでくる。 「仲が良いね、君たちは」 仲裁をしてくれる気もないのだろうか。ダコスタが笑いと共にこういう声が、サイの耳にも届いていた。 フラガさんは、あくまでもキラの味方です。なので、キラが好意を抱いているいないは別として、側に置いていいのかいないのか、でクルーゼ隊の面々を区別している様子。 しかし、アイシャといいフラガといい、ナチュラルに手玉に取られているアスランが、このまま大人しくしているわけはありません。たぶん(^_^; |