アイシャがブリッジに呼び出された。その事実に、キラは眉を寄せる。
「僕も、一緒に行きます」
 このままここにいるよりも、今、何が起こっているのかこの目で確認したい。みんなが自分のために戦ってくれているというのであればなおさらだ、とキラは思う。そして、何かできることがあれば、手伝いをしたいとも。
「キラちゃん……」
 アイシャはそんなキラに何か言葉をかけるとする。だが、直ぐに思い直したかのように、小さく頭を振った。
「いいわ。一緒に行きましょう」
 そして、きっぱりとこう口にしてくれる。その事実に、キラはほっとしたように微笑む。
 アイシャの隣に歩み寄れば、彼女が優しく肩を抱いてくれる。そのまま歩き出すアイシャに合わせて、キラもゆっくりと動き出した。
 そういえば、ブリッジへ向かうのも、本当に久々かもしれない。エレベーターに乗り込みながら、キラはそう思う。考えてみれば、合流してからブリッジに上がったことはないのだ。
 それが周囲の者たちの心遣いだとはわかっていても、何処か悲しいとも思う。
 自分が、あくまでも《お荷物》でしかないような気がするのだ。
「キラちゃん、余計なことを考えないのよ?」
 すかさず、アイシャの声が飛んでくる。彼女も、ちょっとした表情の違いでキラの考えていることがわかるらしい。それは、自分の考えが表情に出やすいからなのだろうか、とキラは悩む。
「余計なことと、言うか……ここを通るのも久しぶりだなって思って……」
 もっとも、以前もそうしょっちゅう通っていたわけではないが、とキラは言い訳の言葉を口にした。
「そう言うことなの」
 納得してくれたのかどうかはわからない。だが、アイシャはそれ以上突っ込んでこない。その事実に、キラは内心胸をなで下ろした。
「まぁ、これが最後だと良いのだけどね」
 キラはもう、戦争に直接関わる必要はないのだから、とアイシャは付け加える。
「そうなのですが……」
 だが、この戦いは直ぐには終わらないだろう。そして、自分を狙っているのであれば、地球軍の攻撃も簡単に収まるはずはない。むしろ居場所がばれた以上、さらに激しくなるのではないか、とキラは思ってしまう。
「大丈夫よ。いざとなれば……また、プラントに戻ればいいのだもの」
 ね? とアイシャは微笑む。
「僕だけ、逃げるなんて……」
「逃げるんじゃないわ。作戦のために必要だ、と思わなきゃ」
 ね、と微笑むアイシャにキラは小首をかしげる。そうなのだろうか、と思っても、今ひとつ納得できないのだ。詭弁、と感じられるからかもしれない。
「もっとも、地球軍の主力をこちらに引き付けて……と考えているのかもしれないわね」
 何かを知っているのだろうか。
 それとも、彼女の個人的な考えなのか。
 アイシャは意味ありげな笑みと共にこう告げる。
「ともかく、アンディ達が側まで来ているそうなの。そちらに対するフォローをして欲しいと言うことだから……あぁ、いざとなったら、キラちゃんがCICのお手伝いをしてもいいのかもしれないわね」
 そうすれば、イザーク達はさらに奮起をするかもしれない、という言葉に、小さく頷いて見せた。

「……増援?」
 オルガはセンサーに映ったそれを見て、盛大に顔をしかめる。
「こっちには時間がない、って言うのに」
 なんてタイミングが悪い、と呟く。だが、期間命令が出ていない以上、自分達は戦わなければいけないのだ。
「でなければ、あれの情報を少しでも手に入れるか、か」
 そうできれば、失敗したとしても少しは《彼》の怒りが抑えられるかもしれない。自分はともかく、あいつの苦しむ様子はあまり見たくない、と思ってしまう。それは、作られた存在である《自分》にも、少しとはいえ人間らしい感情が残っているからなのだろうか。
「……ブリッジの様子だけでも確認できれば……」
 そう言いながら、センサーの感度を上げる。そうすれば、ブリッジ内様子が辛うじて映し出された。だが、くわしい状況までは確認できない。
 この距離では仕方がないのか、とは思う。だが、後で解析に回せば、少しは判別できるかもしれない。
 いや、そうであって欲しい、とオルガは心の中で呟いたときだ。
「くっ!」
 背後から衝撃が伝わってくる。
「……ちぃっ!」
 どうやら、先ほど確認したものとは別の部隊がそちらから回ってきていたらしい。それに気づかなかった自分に、オルガは思わず舌打ちをしてしまった。
「どいつもこいつも!」
 どうして自分たちの邪魔をするのだろうか。
 人形なら、自分たちと同じようにただの《道具》でいればいいのに、と、オルガは本気で考えてしまう。そうすれば、生きていくのも楽だろうに、とも。
「貴様ら!」
 邪魔をするな! と叫びながら、機体の向きを変える。そして、そのままカラミティが備えている火器の照準をすべて合わせた。
「墜ちろよ!」
 言葉と共にトリガーを引こうとする。
 その瞬間だった。
「ぐっ!」
 全身をいきなり不快感が包み込む。そう感じたのは一瞬のこと。即座にそれは耐え難いものに移行してしまった。
「……何故……」
 まだ時間は残されていたはずなのに……と心の中で呟きながら、オルガはとっさにカラミティを戦場から移動させようとした。
 だが、上手く操作ができない。
『ったく……手間かけさせるなよ!』
 海面へと墜落しそうになったカラミティを、MA形態のレイダーがすくい上げた。
『おっさんの命令だからな』
 だから、連れて帰ってやるよ、と呟くクロトの声がオルガの耳に届く。
「……礼は言わないぞ……」
 悔し紛れ、と言うわけではないが、オルガはこう呟いた。
『ヴァーカ! 言われても気持ち悪いだけだって』
 ただ、お仕置きは覚悟しておけよ、と口にする彼の声の中に、何か複雑なものが混じっているように思える。
 それは、薬の禁断症状がもたらした錯覚だろうか。
 オルガ自身、その答えはわからない。
 ただ、この場を無事に逃れることが出来る。そして、それはまた、次の機会に報復をすることが出来る、と言うことでもあろう。
「……この礼、させて貰おう……」
 貴様に、と呟いたオルガの瞳に、深紅の機体が映し出される。
 その機体の名前はわからないが、決して忘れない、と思う彼だった。


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何とか、撤退してくれました。もっとも、連中が諦めたわけではありません。次の戦闘シーンは何時かな(^_^;
ともかく、第二の山場が終わり、でしょうか。泥沼は……もう少ししてからかな?