近くに地球軍のミサイルが着弾したのだろうか。アークエンジェルの船体が大きく揺れた。 「……あっ……」 その事実に、キラは体を硬くする。 「大丈夫よ、キラちゃん」 柔らかな言葉と共に、アイシャが彼女の体を抱きしめてきた。 「大丈夫。この艦のクルーが有能だ、と言うことはキラちゃんが一番よく知っているでしょう?」 だから大丈夫、という言葉に、キラはいったん頷く。 しかし、また船体が揺れれば不安でたまらなくなるのだ。 守られているだけの自分が歯がゆくて仕方がない。 だが、今の自分では、戦うどころか足手まといにしかならないことをキラは知っていた。プラントから地球に来るときだって、シホの助けがなければ危なかったのだ。 自分では大丈夫と思っていたのに、実際はそれ以上に体力が落ちていたらしい。その事実をキラは目の前につき突きつけられてしまった。 「……僕のせい、なのに……」 自分のワガママで、とキラは呟く。 「違うわ。悪いのはコーディネイターを道具としか見ていない一部のナチュラル。そうでない人々は、キラちゃんがここにいてくれることを喜んでいたわ」 そして、こうなることも予測していた、と彼女は付け加える。 「それに、キラちゃんが地球に戻ってきてくれなければ、多くの人々が死んでいたわ。その中には、バルトフェルド隊の人の肉親もいたかもしれないの。だから、キラちゃんは良いことをしてくれたのよ?」 そして、そんなキラを守りたいと思うのは、今戦っている者たちの本心なのだ、と優しく髪を撫でながらアイシャは言葉をつづった。 「第一、この状況を知ったらアンディが黙っているわけないでしょう?」 合流地点までレセップスが来ているのであれば、無条件で救援に来るはずだ、と言われて、キラは顔を上げる。 「でも……アンディさんの所にはバクゥとラゴゥ、それにザウードしかないでしょう?」 砂漠に特化した編成になっている部隊で、無理をしなければいいのだが……とキラは思う。 「大丈夫よ。飛行タイプのディンが何機か搬入されていたもの。アンディもこれなら偵察に使えるかもしれない、って言いながら遊んでいたし」 他にも何人か訓練をしていたから、それで来ると思うわよ、とアイシャはキラの不安を打ち砕く。 「そう、なんですか?」 バルトフェルドがラゴゥ以外の機体に乗り込むとは思わなかった……とキラは小さく付け加える。 「私がいなくても出撃できるように、ですって」 最近、出歩いていることが多いから……と付け加えられて、それもまた自分のせいなのだろうか、とキラは思う。そうであるのなら、申し訳がないとも。 「フレイちゃんとのお買い物が楽しいのよね」 だが、アイシャが出歩いている理由はこれだったらしい。 「やっぱり、女の子は飾り甲斐があるわ」 この言葉に、どう答えればいいのか。キラは悩む。同時に、今、一瞬だけだが、戦闘のことを忘れていた自分がいたことに気づく。 ひょっとして、そうなるようにアイシャが会話を誘導していたのだろうか。ふっとそう考えてしまう。 「と言うことで、着替えをしましょう。みんなが無事に帰ってきたとき、一番可愛らしい姿を見てもらえるようにね」 それはなんか違うのではないか。キラは本気で頭を抱えたくなってしまった。 「ウザーイ!」 目の前の機体――デュエルの相手をしながら、シャニはいらつく気持ちを押さえられなかった。 フリーダムによって脚を切り落とされたが、空中戦が出来るように作られているフォビドゥンはさほどしようがない。それ以上に、このまま逃げ帰った後の《お仕置き》の方が怖かった。 「お前ら、邪魔!」 こいつらが邪魔をしなければ、アークエンジェルを制圧することも簡単だったはず。そして、とっくにあれも側にいたはずだ。 「あれ、欲しいのにさ」 他の二人はどうでもいい。 いや、アズラエルを始めとする全ての人間だって自分にとってはどうでもいいのだ。彼に従っているのは、単に《薬》を与えてくれる存在だから、と言ってもいい。 だが、あれ――キラ・ヤマトという名の存在は違う。 自分が初めて興味を持った存在なのだ。 アズラエルの《もの》になったときに、自分たちは過去を捨てた。 そのせいだろうか。 シャニの中には埋められない空白がある。 だが、キラの存在を知ったあの瞬間、そこに何か暖かなぬくもりが生まれたような気がした。 あるいは、取り上げられた《過去》の時間の中で、自分は彼と会ったことがあるのかもしれない。 もしそうでなかった、としてもかまわないだろう。 この空白さえ埋めてくれるのであれば……とシャニは考える。それは、あの騒々しい音よりも心地よいだろう。 「だからさ。さっさと諦めてよな」 自分の幸せのために……と言いながら、シャニはニーズヘグを大きく振りかぶった。 ジャスティスのOSに不安なところは見られない。だが、確かに微妙な不具合はあるようだ。 「……これの修正は……」 自分でも可能だろうか……とアスランは眉を寄せる。 「いや、しなければならないのか……」 でなければ、この機体を取り上げられるだろう。それでは、意味がないのだ。 「イザークに後れを取るわけにはいかないんだ、俺は」 そんなことになれば、キラはますます自分の手が届かない場所に行ってしまう。そうなってしまえば、自分は彼女を手に入れることが出来なくなる。 「……父上も、あいつの味方だったなんて……」 昨日交わした言葉を思い出すと、アスランの中で忌々しさが増してしまう。 久々に顔を合わせた彼は、開口一番、キラに無理強いをするな、と釘を刺してきたのだ。それは、アスランが予想していなかった反応だと言っていい。彼は、ここ数年というもの、アスランにまったく関心を持っていなかったのだ。 「母上さえ、生きていてくだされば……」 絶対、自分の味方になってくれたはずなのに。 いや、そうであれば自分はこうしてMSのパイロットになっていなかったかもしれない。 「……ともかく、誰であろうと俺の邪魔はさせない……」 誰もが自分の邪魔をするというのであれば、そんな世界を自分は捨ててもかまわない、とすらアスランは考えていた。 「だからね、キラ。今、助けに行くよ」 大切なのは、彼女の命。 それを今は優先しよう……と呟くアスランの口元に、暗い笑みが刻まれていた。 ……進みませんでした(T_T) まぁ、シャニがかけて楽しかった、かな? |