「本当に忌々しい!」
 イザークは目の前の機体に攻撃を加えながら、こう叫ぶ。
「しかし、こいつらまで出てきた……と言うことは、地球軍の連中は本気でキラを手に入れたいと考えている訳か」
 ビームを湾曲させてしまう機能に、さらにいらつきを感じながら忌々しさを増幅させられる。それでも、その目的だけは阻止しなければならない、とイザークは心の中で付け加えた。そのために、自分はこの禁断とも言える技術を使った機体を手に入れたのだから、とも。
『イザーク君、避けて!』
 そのイザークの耳に、ラミアスの声が届く。
 何事か、と確認するよりも早く、イザークはフリーダムを移動させていた。その脇をバリアントがかすめていく。
「援護、感謝」
 相手の動きがそれで一瞬だが止まった。その隙に、腰からビームサーベルを抜く。そして、そのまま相手の機体へ一息に詰め寄るとその脚をなぎ払う。そして、とどめとばかりに脚で蹴り飛ばした。
「この程度で死ぬとは思えないがな」
 少なくとも、これで機動力なりなんなりはそぐことが出来ただろう。
 今重要なことは、相手を殲滅することではなく、自分たち――キラが無事にこの場から逃げ延びることだ。
 遺恨を立っておきたいのは山々だが、それよりも他の機体の戦力をそぐ方に集中しよう。機動力さえそいでおけば、他の者たちでも十分に対処できるはずだ、とイザークは判断をする。
「次は……あれか」
 目の前に迫ってきているのは、先ほどの機体と同じようにナチュラルとは思えない動きをする新型だ。それは真っ直ぐにフリーダムへと向かってくる。
「貴様ら! 邪魔なんだよ!」
 キラが不安を感じているはずだ。
 それは、彼女の体にとってマイナスにしかならない。それは、前回のことでもよくわかっていた。
「貴様らの汚い手に、キラを渡すか!」
 だが、とも冷静に呟く声がイザークの心の中にはある。この戦力差は、どうしても埋められないだろう。
 モラシム隊はもちろん、アークエンジェルもかなり健闘している。いや、先ほどの援護に見られるように、モラシム隊に勝るとも劣らない働きをしてくれていた。それでも、この劣勢を覆せないのだ。
 本来であればキラの側にいるはずのシホまでデュエルで出撃している事実がそれを如実に表している。
「……だからといって、諦めるわけにはいかない……」
 時間さえ稼げば、バルトフェルド達が駆けつけてくれるかもしれない。あるいは、ジブラルタルからの増援も期待できるのではないだろうか。
 早くけりを付けたい。だが……という矛盾を抱きつつ、イザークは目の前の機体に向かってライフルを連射する。
 それは、相手のシールドを破壊した。
 だが、決定的な損傷を与えることは出来ない。両肩のビーム砲の射線からぎりぎりのタイミングで、フリーダムを避けさせた。

「……そうか……では、私も出よう」
 ここからであれば、バルトフェルドと同時か、あるいは先行して到着できるかもしれない。そう口にすると、クルーゼは腰を上げる。そして、口早に指示を出しながらMSハンガーへと向かう。
「隊長!」
 その騒動を聞きつけたのだろうか。アスランとニコルが駆けつけてくる。
「……アークエンジェル――足つきが地球軍に襲撃を受けているそうだ。私は救援として向こうに向かうが?」
 どうする、と聞かなくても答えはわかっていた。だが、出来れば彼ら――アスランは連れて行きたくない、と思ってしまう。しかし、そう言うわけにはいかないだろう。
「では、私達もご一緒に」
 予想通りの言葉をアスランは口にした。
「わかった。ただし、私の指示に従うように」
 いざとなれば、彼らだけをジブラルタルに帰還させるという方法があるか。もっとも、それは無理だろうが……と思いつつ、クルーゼはこう告げる。そして、そのまま歩き出そうとして足を止める。
「アスラン……」
「はっ!」
 急に呼びかけられて、アスランが体を強張らせた。あるいは、自分が彼に残るようにと告げるかもしれないと判断したのだろう。
「君は、キラ嬢のプログラムの癖を飲み込んでいる、と言っていたな?」
 不本意だが、この場合、使えるものを遊ばせているわけにはいかない。そう判断して、クルーゼは口を開いた。
「それが何か?」
「あの機体、使えるようなら使いたまえ。その代わり……イージスには私が乗り込もう」
 多くの機体を救援に回せない以上、それが一番良い方法だろう。クルーゼは自分を納得させるように心の中でこう呟く。
「わかりました」
 アスランの声が妙に弾んでいるような気がするのは錯覚だろうか。
 だが、今はそれを確認している時間はない。
 クルーゼは足早に歩き出す。その後を、アスラン達が追いかけてきた。

「……後、どれだけ時間が残っていますか?」
 彼らの……と目の前の光景を見つめながらアズラエルが口にする。
「あの量ですと、通常であれば、後三十分は大丈夫だと思うのですが……ただ、あれだけ激しい抵抗をされていれば、彼らの精神状態が関わってきますので……」
 短くなる可能性がある……と同行してきた科学者の一人が言葉を返してきた。
「それに関しては、早急に改良をして貰わないといけないですね。まぁ、あれらでは遅いのかもしれませんが……」
 既にあれ以上手を加えられないだろう……と冷静な口調でアズラエルは付け加える。
「薬の成分の割合を変更してみましょう。三人でそれぞれテストをすれば、結果が比較的早く得られるのではないかと……」
 そのために、複数の人間で実験をしているのだ、と言外に付け加えられた科学者の言葉からは、彼らをあくまでも実験材料としか考えていないとわかる。
「では、次回からそうしてください」
 この言葉に、科学者は頷き返した。
 それに満足そうに言葉を返すと、アズラエルは視線を戻す。次の瞬間、彼の眉が思い切りひそめられた。
「ダメじゃないですか! アークエンジェルの動きは止めても、決して沈めないでください! いや、内部にいる者に危害を与えるような攻撃はしないでください。目標を殺してしまっては意味がないでしょう?」
 そして、厳しい口調でこう怒鳴る。
「ですが、アズラエル理事……」
「言い訳は聞きません。任務を遂行するのが軍人の役目なのではありませんか?」
 こう言えば、艦長は苦虫をかみつぶしたような表情を作った。だが、それ以上反論はしてこない。あるいは、しても無駄だ、と思っているのか。
「あれは、我々の勝利のために必要なのです。それがわかっているからこそ、あいつらも抵抗をしているのですよ」
 そんな彼に、微かに口調を和らげながらアズラエルは説明をする。
「ストライク・ダガーや他の機体の性能を上げるためにも、あれの存在は必要なのです」
 こう言いながら、やはり自分がここに来て正解だった、とアズラエルは心の中で呟く。同時に、どうしてこう軍人は頭が固いのか、とも。
「そうです。あれらを滅ぼすために、あれが必要なのですよ」
 さらに付け加えられた言葉が艦長の耳に届いたのか。それを確認するつもりはアズラエルにはなかった。
 大切なのは、目的が果たされること。
 それができるのであれば、多少の不満は無視しよう。彼はそう考えていた。


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戦闘シーン突入……全部で何回かなぁ(^_^;
しかし、それぞれ厄介な奴らがアークエンジェルに向かいつつありますね。戦闘シーンが終わると泥沼決定です(^_^;